経済・企業中国EV旋風

中国の1000万都市はタクシーもバスも100%電動化を達成、「EV先進国」が進める次の一手

深圳市内を走るEVタクシー(2018年11月)
深圳市内を走るEVタクシー(2018年11月)

 世界最大の自動車市場である中国では近年、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)といった新エネルギー車(NEV)の普及が急ピッチで進んでいる。たたき台の段階ながら、2035年までに新車販売の半分をNEVにするといった目標を打ち出しており、その勢いは増すばかりだ。タクシーやバスといった公共車両でも中国の各都市が競ってEV化を進めている。なかでも広東省深セン市はタクシーもバスも100%EV。深センは中国きっての「EV化の優等生」といえる。

広州市内を走る広州汽車傘下の広汽埃安新能源汽車のEVタクシー(2021年2月)
広州市内を走る広州汽車傘下の広汽埃安新能源汽車のEVタクシー(2021年2月)

公共車両で100%EVを達成した深セン市

 深センでは既に2017年末時点で市内の路線バス約1万6000台の100%EV化を達成している。翌18年末には市内のタクシーのうち約2万1500台をEVとし、ほぼ100%のEV化を達した。

 中国政府は19年12月にエコカー普及戦略を発表し、35年に「公共分野の車を全面的に電動化する」と明記した。

 バスやタクシーなどが対象に含まれており、中国の各都市は目下、目標を達成すべく公共車両の電動化率をアップしようと奮闘中だ。上海市では22年までにバスやタクシーなどの新規車両を全てEVにするとしている。

 そんな他都市を尻目に早々とEV化を達成した深センでは、既に次なる取り組みが始まっている。

6年前に発表されたBYDのEVバスは日本のバスにそっくり(2014年11月の広州モーターショー)
6年前に発表されたBYDのEVバスは日本のバスにそっくり(2014年11月の広州モーターショー)

自動運転のEVバスも試験を開始

 昨年10月には同市北東部の坪山区の一部区間で、「熊猫公交(パンダバス)」と名付けられた自動運転の実証実験を行うEVバスの運行が始まった。パンダバスは人工知能(AI)を搭載しており、一定の条件下で完全に自動化する自動運転技術「レベル4」を使って12キロメートルの区間を45分かけて走る。全行程が自動運転だ。

 車体には高性能精密センサーが搭載されており、路面状況、周辺の車両、歩行者、動物などを識別できる。

「ITの都」と称される深センでは、タクシーやバスといった分野でも、全国に先駆けて先端技術の導入が進んでいるのだ。

領収書の電子発行も開始

 このほかにも、19年3月には市内のタクシーや地下鉄で全国初となる「発票」(領収書に相当)の電子発行を始めた。

 この電子領収書はブロックチェーン(分散型台帳技術)を活用しており、スマートフォンのアプリを使って簡単に発行でき、ペーパレス化を推し進めた。

広州地下鉄の電子領収書。アプリで申請するとメールにPDFが送られてくる(2019年12月)
広州地下鉄の電子領収書。アプリで申請するとメールにPDFが送られてくる(2019年12月)

路線バスでは5Gサービスも開始

 中国では19年11月に第5世代(5G)移動通信システムの通信サービスが本格的に開始されたが、それに先立つ同年8月、深センでは全国に先駆けて一部の路線バスで5Gサービスへの対応を始めている。

 深センはEV化の優等生に加え、IT化の優等生でもあるのだ。

深センの人口は東京と同じ1300万人

深センでは3年前に公共バスが100%EVになった(右下の公共バスはEV、2018年11月)
深センでは3年前に公共バスが100%EVになった(右下の公共バスはEV、2018年11月)

 深センの人口は19年末時点で1343万8800人。東京都とほぼ同規模の大都市だ。1日当たりの公共交通機関の利用者は延べ1105万人に達し、このうち路線バスは325万人、タクシーは114万人に上る。

 EVバスやEVタクシーはこうした利用者の足として活躍している。

北京汽車傘下の北京新能源汽車のEVタクシー(2021年2月、広州市内)
北京汽車傘下の北京新能源汽車のEVタクシー(2021年2月、広州市内)

EVタクシーはすべてBYD製

 こうした深センの公共交通にEV車両を供給しているのが、他でもない、地元企業のBYD(比亜迪、広東省深セン市)だ。

 BYDの関係者によると、同市のEVタクシーは「全てBYD製」という。EVバスも多くがBYD製とみられる。

 14年11月時点で、市内のEVバスは約1300台、EVタクシーは約900台に過ぎなかった。これがEVバスは17年末に約1万6000台、EVタクシーは18年末に約2万1500台にまで急拡大したのにはワケがある。

2018年の広州モーターショーで新型EVを発表したBYD
2018年の広州モーターショーで新型EVを発表したBYD

EV普及に向け大量の補助金を投入

 深セン市政府が大量の補助金を投入したのだ。

 挙げればきりがないが、例えば15年に発表した同市の補助金政策では、車体の全長が10メートル以上のEVバスの導入に50万元(約820万円)の補助金を支給。

 15年にはタクシーのEV車両への買い替えに1台当たり13万5800元(約220万円)の補助金を支給した。

 17~18年にかけてはEVタクシーの導入に1台当たり16万4800元(約270万円)の補助金を支給している。

 深センのバスとタクシーの早期のEV化達成は「補助金政策の賜物」と言えるかもしれない。

BYDの最新EVは大型タッチパネルを搭載(2020年9月の北京モーターショー)
BYDの最新EVは大型タッチパネルを搭載(2020年9月の北京モーターショー)

EV普及の補助金はドイツも同じ

 こう指摘すると、「国ぐるみでEVを普及しているのだから中国がEV社会に早く到達するのは当然」、「ガソリン車では世界に太刀打ちできないからEVで覇権を握ろうとしている」といった声が聞こえてきそうだが、実はEVの普及に向け、ガソリン車王国であるドイツでも蓄電池の供給体制を強化すべく、連邦政府は最大30億ユーロ(約3800億円)を助成する。ドイツはこの助成金で数千人の雇用を生み出す腹積もりだ。

 手掛ける分野は、蓄電池の原材料や先端素材、バッテリーセル、バッテリーシステム、リサイクルなど多岐にわたり、参加企業にはBMWや大手自動車部品メーカー、有力機械メーカーなども含まれる。

世界で急激に進むEV化の流れは、ドイツという自動車先進国でさえ“国ぐるみで対応しないと国家間競争に敗れてしまう”という危機感を抱かせているともいえる。

(川杉宏行・NNA中国編集部)

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