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資源・エネルギー漂流する原子力政策

3・11から10年「原発なき街づくり」を実現するための「リアルでポジティブな原子力のたたみ方」を議論しようじゃないか

地下400メートル超に続く坑道。最長60キロから70キロまで延びる予定で、100年以上かけて最大約6500トンの核のごみを埋めていく計画だ(フィンランドの放射性廃棄物最終処分場「オンカロ」)
地下400メートル超に続く坑道。最長60キロから70キロまで延びる予定で、100年以上かけて最大約6500トンの核のごみを埋めていく計画だ(フィンランドの放射性廃棄物最終処分場「オンカロ」)

 3月11日の東日本大震災から10年。日本は福島原発事故という未曽有の大災害に直面し、原発ゼロか再稼働か、二項対立の議論が続き、実は重大な決断を先送りにしてきた。ゼロにしようと再稼働しようと解決できない使用済み核燃料の最終処分問題と、原発立地自治体の経済をどうソフトランディングさせるか、という問題である。

 この二つの問題は時間が解決してくれるものではなく、明確な意図をもってリアルな政策議論をしない限り解決しえない。

 あとの問題から言うと、10年という節目で、「原発なき街づくり」、しかし経済を傷めつけずポジティブでリアルなたたみ方を国民的に議論すべきときが来た、と筆者は考える。

 前の問題について最初に一つ答えをいうとしたら、世界中が「廃炉の技術」を求めているということであり、廃炉ビジネスは世界に展開できる可能性っを持っている、というポジティブな発想の転換が必要である。

半減期に2万4000年かかるプルトニウムをどうするのか?

 原子力発電には、そもそも持続的な使用を不可能にしかねない難題が存在する。それは、使用済み核燃料の処理が未解決だという問題、いわゆる「バックエンド問題」である。

 今、日本で原発を「即時ゼロ」にしたとしても、2019年度末時点で1万9000トン余の使用済み核燃料が実在することは否定しがたい事実であり、その処分をきちんと行わなければ、先に進むことができない。

日本の電力会社が持つ使用済み核燃料の貯蔵状況(電事連資料)
日本の電力会社が持つ使用済み核燃料の貯蔵状況(電事連資料)

 この問題は、日本人にとってだけでなく、人類全体にとっても避けて通ることができない重みをもっている。

 使用済み核燃料に含まれるプルトニウム239の半減期は約2万4000年だが、2万年前には北海道はアジア大陸と陸続き、本州から種子島まで陸続きで、日本列島の姿は今とはまったく異なっていたという。

 地層処分を行った場合、地層自体がたとえ「安定」していたとしても、その埋設地が地上でなくなり、海中に沈んでしまうおそれがあるのだ。

有害期間を数百年に短縮する技術の開発

 使用済み核燃料の危険な期間が万年単位のままでは、いくら政府が前面に出ても、最終処分地が決まるはずはない。

 最終処分地の決定には危険な期間を数百年程度に短縮する有害度低減技術の開発が必要不可欠である。

 使用済み核燃料の有害度低減技術の開発については、否定的な見解をもつ識者も多いが、どんなに高いハードルでもそれをクリアしない限り、少なくともチャレンジしない限り、人類の未来は開けない。

 もし、最終処分場の立地が実現することがあるとすれば、それは、使用済み核燃料の容量が小規模化し、危険な期間が大幅に短縮された場合だけだろう。

 この小規模化と期間短縮は「減容化・有害度低減(毒性軽減)」と表現される

 どのように減容炉・毒性軽減炉開発を進めるのか、これが、バックエンド対策構築の第1の、そして最大の焦点となる。

開発までのつなぎの保管

 ただし、減容炉・毒性軽減炉の開発には時間がかかるから、その間、原発敷地内に、燃料プールとは別の追加的エネルギーを必要としない空冷式冷却装置を設置し、「オンサイト中間貯蔵」を行うことも求められる。これが、バックエンド対策構築の第2の焦点である。

使用済み核燃料の地層処分を行う場所を選ぶ際にどのような科学的特性を考慮する必要があるのか、を示したNUMO(原子力発電環境整備機構)の科学的特性マップ。輸送面でも好ましい緑色はすべて沿岸
使用済み核燃料の地層処分を行う場所を選ぶ際にどのような科学的特性を考慮する必要があるのか、を示したNUMO(原子力発電環境整備機構)の科学的特性マップ。輸送面でも好ましい緑色はすべて沿岸

解決できないときの第3の道

 さらに言えば、きわめて困難とされる減容炉・毒性軽減炉に関する技術革新が成果をあげず、バックエンド問題が解決しないこともありうる。

 その場合に備えて、「リアルでポジティブな原発のたたみ方」という選択肢も準備すべきである。

 これは、バックエンド対策構築の第3の焦点と言える。

三つの柱でつくる出口戦略

 ここで、バックエンド対策構築の第3の焦点である「リアルでポジティブな原発のたたみ方」について、掘り下げておこう。

 その柱となるのは、

①火力シフト=既存の送変電設備を使ったカーボンフリー火力発電への移行

②廃炉ビジネス=旧型炉の廃炉作業などによる雇用の確保

③オンサイト中間貯蔵への保管料支払い=使い終わった原発が生み出した使用済み核燃料という危険物質を預かってもらうことに対して、消費者が電気料金などを通じて保管料を支払う--

 この三つからなる原発立地地域向けの「出口戦略」だ。

 この出口戦略が確立すれば、現在の立地地域も、「原発なきまちづくり」が可能なる。

 とくに②の廃炉の仕事によって、地元のまちの雇用は確保され、経済は回る。さらに、①の火力発電の収入や③の使用済み核燃料の保管料が加わる。原発立地地域の「原発なきまちづくり」は、不可能ではないのだ。

廃炉ビジネスは世界が求めている

 廃炉ビジネスに関連して言えば、何よりも廃炉の社会的意義を明確にする必要がある。

 これからは国内外において原子力施設の廃止・廃炉は不可避であり、世界的規模で廃炉ビジネスが21世紀中葉の原子力事業の柱となることは、火を見るより明らかである。

 原発推進派のなかには「原子力発電所を作らない限り原子力人材は育たない」という人が多いが、日本国内での原発の新増設は、今後、たとえリプレースがあったにしても、せいぜい数基にとどまる。

東日本大震災の大津波に襲われた翌日の福島第1原発(上)。原発事故から10年となる福島第1原発(下)では廃炉作業が続く
東日本大震災の大津波に襲われた翌日の福島第1原発(上)。原発事故から10年となる福島第1原発(下)では廃炉作業が続く

原子力工学の人材を育成する廃炉

 それだけでは、原子力人材は育成されない。廃炉技術の社会的意義を明確にして、それを原子力工学の中心に据え直さない限り、必要な人材を確保することは困難だろう。

 つまり「廃炉を通じて原子力人材を育てる」という新しい発想を導入すべきなのである。

腰が引けている日本政府の原子力政策

 このように宙ぶらりんとなっている原子力の未来を最終的に決定づけるのは、使用済み核燃料の対策(バックエンド対策)の成否である。

 しかし、現在の日本政府のバックエンド対策への取り組みを見ると、問題が解決する確率はきわめて低いと言わざるをえない。 そのことは、昨年10月に始まった次期(第6次)エネルギー基本計画策定をめざす総合資源エネルギー調査会基本政策分科会での審議の状況からも、明らかに見てとれる。

 原子力に関する議論が全体として後景に退いただけでなく、どのように減容炉・毒性軽減炉開発を進めるかという、バックエンド対策構築の最大の焦点に関する検討が今のところ、まったく行われていないのだ(2021年3月11日時点)。

真剣に「たたみ方」を考えるべき時

 使用済み核燃料の処理をめぐっては、難題が山積している。

 にもかかわらず日本政府は、原発の新設・リプレースの場合と同様に、バックエンド対策についても、問題を先送りし、踏み込んだ対応を避けているように見える。

 バックエンド対策が解決しない限り、原発をゼロにすることも、使い続けることもできない。

 選択肢の一つとして、「原発のたたみ方」を真剣に検討する時期がやって来たと自覚すべきである。

(橘川 武郎・国際大学大学院国際経営学研究科教授)

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