テクノロジー 京都が変えるデジタル日本
鬼滅の刃で人を集めた京都映画村が見せたかった先端ロボット技術の可能性
コロナ禍に見舞われた世界で、今求められているのは先端技術を用いたリモートやロボット、自動化などをいかに生活に組み込み、活用していくか。その可能性とエンターテイメントを結びつけるユニークなイベントが京都の映画村で開催されている。
ポスト・コロナを見据えた遠隔操作ロボットや、京都観光を楽しむためのロボット馬など、参加者が体験できるユニークなイベントで、日本を元気にさせるイノベーションの芽を感じとることもできる貴重なイベントだ。
忍者フェスティバルに出現した先端ロボット
京都府、東映などの共催で3月13、14の両日、京都太秦映画村で開催されている京都忍者フェスティバルには、時代劇の雰囲気を楽しみつつも大人も子供も先端技術にじかに触れ、操作することができる様々なイベントが用意され、来場者を楽しませている。
まず、和超未来シューティングロボ「NINJA」と名付けられたロボットは、来場者が自らロボットを操作してピンポン玉で的当てを楽しむゲーム。
技術、ロボットを提供するのは一般社団法人の次世代ロボットエンジニア支援機構(通称Scramble)だ。
来場者はコントローラーのジョイスティック(レバー)を使ってロボットを操作、忍者を避けつつ的にボールを的中させる。1人1人の来場者に対し、Scrambleのチーム員が丁寧に操作方法などを始動する。
全国100人の学生、社会人が集結しロボット開発
Scrambleは「ロボットコンテストに出場して技術を磨きたい日本全国の学生を支援する」という目的で設立された社団法人。全国から100人以上の中学生から大学院生、社会人を集め、専門的なロボット開発から子供向けのロボット教室まで、様々な活動を行っている。異業種・異分野の技術やノウハウを組み合わせて技術の革新を進めようとするオープン・イノベーションの取り組みの典型例ともいえる。
「京都忍者フェスティバル」は未来の日本のイノベーションを担う技術者を育てよう、という取り組みを披露する場となっているわけだ。
コロナ禍のリモート会議で開発
今回映画村のイベントは、Scrambleの中の1つのチームがリモートで動くロボットとそのシステムを提供して実現した。
ロボット開発に携わった宮本瑞基さんと水野海渡さんは、それぞれ三重と奈良の大学から参加している。コロナ禍の中での困難さとして、リモートで会議を重ね、設計図などもオンライン上のやり取りでプロセスを行ったことなどが、実際の技術的な問題よりも困難だった、と語ってくれた。
伝統と革新が同居する都市・京都
映画村と忍者フェスティバルを共同開催した京都府商工労働観光部ものづくり振興課の足利健淳課長によると、「ものづくり振興課は京都の中小企業への産業支援を主な目的としている」という。
京都にはゲーム企業である任天堂や技術が高く評価される京セラ、村田製作所、京都大学のIPS細胞など、世界に誇れる技術や企業も多く存在する。
つまり歴史と伝統に革新が同居している都市といえる。
なぜ映画村で先端ロボットなのか
元々ものづくり振興課ではゲーム、アニメなどのコンテンツ産業支援も行っており、京都には幅広い産業があり、それらを融合させて他者との差別化、区別化を図り、世界にアピールしよう、という試みが行われてきた。
Scrambleのような団体の誘致や、今回の映画村のように映画や時代劇とロボットのような先端技術を組み合わせ、誰もが扱えて楽しめる技術を紹介することも、こうした目的に則ったものなのだという。
ポスト・コロナの新しいエンターテイメントを模索
京都府宇治市のベンチャー企業JOHNAN株式会社がシステムを提供する非接触操作アーム・ロボ「GOEMON」は、来場者がジェスチャーによってロボットアームを動かし、お宝をゲットする、というゲームイベントだ。
ここでは液晶ディスプレイの前で人間がジェスチャーをするヒトとロボットが共働する経験ができる。このテクノロジーを通し、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代の新たなエンターテイメントの可能性を模索するという試みだ。
観光のラストワンマイルを担う動くロボット馬
福岡のベンチャー企業、テムザック社は近未来のスマートモビリティを開発し、イベントで発表した。その名も、ロボ馬「NINJA ロデム」。つまりは「乗れるロボット」だ。このロデムを通し、マイクロモビリティの可能性とローカル5Gによる遠隔操作の2つをデモンストレーションしていた。
遠隔操作は東京都八王子市のベンチャー企業エイビット(ABiT)が提供するローカル5Gネットワークを用い、モニター画面とコントローラーを使ってロデムを操作する。
来場者は忍者や障害物を避けながら姫のところまでロデムを移動させれば成功となる。
公道でも実験
ロデムそのものの試乗体験もあり、レバーを使って移動するロデムの操作を楽しめる。
テムザック社は、ロデムをラストマイル・ソリューションつまりちょっとした移動が必要な観光に使ってもらうことをイメージしている。
例えば嵐山観光に訪れた人が嵯峨野に移動するにはそれなりの距離を移動する必要があるが、ロデムを貸し出すことで誰もが気軽に観光を楽しめる、というような使い方だ。
そのための公道での実証実験も行っている。
映画村ならでは拡張現実も体験
これらロボットイベントの他に、AR(拡張現実)を使ったスマホでのユニークな写真や動画イベントも用意された。ARとは、実際にはない構造物などが、スマホのカメラを通してみると出現するテクノロジーだ。
これは京都市でARやVRの人材育成を行っているクロスリアリティ社のアプリによるもので、映画村の中で好きな場所に忍者や手裏剣などを登場させ、自分だけの思い出に残る写真や動画を撮影できる、というものだ。
ARスタンプラリーも開催
東映太秦映画村を運営する東映京都スタジオの企画制作部、東海林古都さんによると、コロナによりリアルの集客が難しいなかで、映画村は現在以前の6割ほどの入場者となっている。しかしリモートでも映画村の魅力を知ってほしい、と春には従来のスタンプラリーをARスタンプラリーとして提供するなど、将来はバーチャルイベントの充実にも注力していく考えだという。
鬼滅の刃がいざなう科学技術教育
映画村では現在鬼滅の刃の特別展示を行っている。それもあって家族連れや若い人を中心とした来場者が多い。
こうした人々が先端のロボット技術に触れ、実際に操作し、先端技術について学び、理解する場としても忍者フェスティバルは面白いイベントだ。
特に子供たちがこうしたイベントを通してロボットやAR、VR(仮想現実)などの技術に興味を持ち、将来その開発に携わることを目標とするならば、日本の科学技術分野の教育を今より発展させるきっかけとなるかもしれない。
(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)
初出:京都の映画村に出現したロボット展示会は子供も遊べるけど日本を変える本格的イノベーション祭りだった(3月14日まで開催)