経済・企業半導体 空前の特需

インタビュー 柴田英利 ルネサスエレクトロニクス社長兼最高経営責任者

ルネサスエレクトロニクス提供
ルネサスエレクトロニクス提供

英社人材生かし、クルマ向け強化 供給逼迫は長期化しない

 米英の同業の大型買収を仕掛けたルネサスエレクトロニクス。IoT(モノのインターネット)向けや主力の自動車向けビジネスの戦略を聞いた。

(聞き手=浜田健太郎/村田晋一郎・編集部)

── 英半導体メーカーのダイアログ・セミコンダクター社を約6200億円で買収すると2月に発表した。

■低消費電力の電力制御用のパワー半導体や低消費電力の通信用IC(集積回路)を強化するのが第一の狙いだ。ダイアログのアナログ半導体の技術は、先方の顧客筋からはとてもよい評価が届いている。高い技術を持った人材のうち、いまは自動車向けの仕事をしていない人にも自動車向けに回ってもらって、自動車向けのアナログ半導体のビジネスを活性化させたい。(半導体)

 ルネサスは2017年に米インターシル(買収金額約3200億円)、19年に米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT、同約7000億円)を買収。インターシルはサーバー向けの電源供給を管理するパワー半導体を製造。IDTは、システム基板上で信号が行き来する際に優先順位を付ける機能を持つ「タイミングデバイス」や、アナログ情報をデジタル情報に変換してSoC(システム・オン・チップ)に送る「ミックスド・シグナル」(アナログとデジタル回路混在IC)に強みがある。

── インターシルとIDTの買収で、想定以上の効果があった?

■インターシルは、データセンター向けの電源供給のソリューションで性能の良い製品を作ることができ、いま倍々ゲームで伸びている。IDTは人材がよかった。ルネサスでは物事を決めるペースが遅いとか、会議に大勢の人が出るなど外部から来た人たちには、不合理に見えることが多くあったと思う。IDTの人たちは、違いを乗り越えて結果を残そうと目標を設定し、仕事の仕組みや組織作りをしてもらった。

車載向けはチャンス拡大

── ダイアログ買収によってIoTの比率が上がり(18%から30%)、車載向けが下がる(48%から41%)。

■米中摩擦など地政学的リスクが高まっていることに加え、ユーザー側の変化が極めて大きい。特定の地域や業界、顧客などが目立って大きくなると、変化の影響をまともに受けてしまい、非常に危うい状況に陥る。当社としては、顧客の事業領域や製品用途を多様化させたいと考えているし、一連の買収によってバランスのよい事業構成になるメリットが出てくる。

── 今後も車載向け事業はルネサスにとって主力という位置付けは変わらないか。

■変わらない。それはコア(中核)中のコア事業だし、今後もコアであり続ける。自動車産業はものすごい変化が起きている。変化とはチャンスと同義であり、こんな大きなチャンスをみすみす手放す必要性はまったくない。

── 海外企業の買収によってルネサスの企業文化に変化はあるか。

■顧客や市場、技術、競合に対する見方が以前に比べると随分とグローバルになったと思う。世界の半導体市場で日本は相対的に小さくなる一方で、米国と中国がどんどん大きくなっていく。日本を中心に製品を定義し開発していると、どうしても世界の主な流れとずれた方向に行くが、そうした面が是正されたと実感する。

── 工場を持たないファブレスモデルが主流になりつつある世界のロジック(頭脳)系半導体メーカーの中で、工場を抱えながらもルネサスはファブライト(工場軽量化)路線でやってきた。ただ、足元の自動車向け半導体の不足を受けて、顧客から生産能力に余裕を持ってほしいとの声はないのか。

■余裕とは自前の工場を持つということではなく、委託先のファウンドリー(半導体受託製造事業者)も含むと思う。半導体は、ウエハーを(生産ラインに)投入して完成するまで最先端の製品だと6カ月かかる。半年後に買ってくれるのか。現実的な解としては、在庫の持ち方を工夫して従来よりも余裕を持つということだろう。

 TSMC(台湾積体電路製造)などのファウンドリーではスマートフォンやデータセンターのほうが割合は大きく、顧客の列の後ろの方に自動車メーカーがある。そうした現状を念頭に置いた上で、では、どういう在庫管理や発注の仕方がよいのかを、当社も含めて一緒に解を見いだしていけたらよいと思う。ただ、供給が逼迫(ひっぱく)した状況はそれほど長くは続かないだろう。


 ■人物略歴

しばた・ひでとし

 1995年東京大学工学部卒業。JR東海、メリルリンチ日本証券、産業革新機構などを経て2013年11月ルネサスエレクトロニクス常務兼最高財務責任者。19年7月から現職。48歳。

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