経済・企業半導体 空前の特需

「電子立国日本」のおごり、国の無為無策……「日本の半導体産業はもう復活できない」と断言できる理由

東芝グループ企業が運営する大手事業所(大分市)。マイコンなどを手がけているが、売却検討と報じられている。
東芝グループ企業が運営する大手事業所(大分市)。マイコンなどを手がけているが、売却検討と報じられている。

しばしば、「日本の半導体メーカーはなぜ凋落(ちょうらく)したのか」「復権は可能か」と聞かれる。

残念ながら「日本半導体メーカーの今を見る限り、復権はほぼ不可能」と考えざるを得ない。

なぜか。「事業戦略が迷走し、おごりがあった上に、国が無策だったため」だ。

21世紀初頭はインターネットと携帯電話の普及期だった。ITと通信の融合が進み、半導体メーカーにとっても大きな商機があった。

しかし、今世紀冒頭の20年間を総括すると、結果は惨敗。

国内の生産拠点のほとんどが閉鎖されたため、日本で半導体を大量に作ることはもう難しい。

大規模生産工場がほぼなくなったのだから、国内の生産能力を当てにすることはもうできない。

世界標準化の挫折

「半導体が足りない。日本ではもう半導体を作れないのか」とも聞かれるが、やはり答えは「否」である。

失敗の本質はどこにあるのか。先端技術開発や投資競争で負けたとか、数々の論点があるものの、主因は次の3点に集約することで説明できる。

まず、世界標準になれる製品群を世に送り出せず、持続可能な「収益モデル」を確立できなかったこと。

次に、半導体事業を抱えていた総合電機、家電、IT各分野のメーカー各社の「お家事情」に振り回され、半導体部門が独立性を保てなかったこと。

最後に、最大の問題は産業政策の欠如だ。

1980年代の日米半導体摩擦に象徴されるように、日本政府が腰砕けとなって責任も取らず、「無為無策」で放置してきたこと。

以上の3点に尽きる。

かつて、重電・総合電機系の日立製作所、東芝、三菱電機、通信とIT系のNEC、富士通、OKI、そして家電やAV(音響・映像)系のソニー、松下電器産業(現パナソニック)、シャープ、三洋電機(現パナソニック)に大別されたエレクトロニクス業界では、全社が半導体事業を主力として抱えていた。

しかし、大手電機メーカーを母体とする事業のうち、半導体メーカー単体として存続し株式上場しているのは、日立、三菱電機、NECのシステムLSI部門が再編統合したルネサスエレクトロニクスのみ。

東芝から切り出したNAND型フラッシュメモリー事業を母体とするキオクシアホールディングスは存続しているが、昨秋の上場予定を延期。東芝は昨年秋にシステムLSIの新規開発から撤退を発表している。

ドル箱の不在

他社のロジック論理回路事業はほぼ全て撤退だ。

ソニー、富士通、NEC、OKI、パナソニック、シャープも同様である。

パナソニックに吸収された旧三洋は半導体部門を米企業に10年前に売却。「そして誰もいなくなった」わけだ。

日本列島に数十カ所あった半導体工場の閉鎖ラッシュで、現在は主力工場と呼べる前工程の拠点は、5~6カ所にまで減ってしまった(図)。

日本の半導体メーカー大手の戦略は、ことごとく「事業の鉄則はボリュームにある」という必勝パターンから外れた。

つまり、1製品当たり月に数十億個の半導体製品を売るという収益モデルを構築できず、開発生産投資の資金を回収できなかった。

海外の有力企業と比較すれば一目瞭然だ。

米インテルのCPU(中央演算処理装置)なしにパソコンもサーバーもスーパーコンピューターも動かない。

英アーム・ホールディングス(ARM)のCPUコア(基本設計図)なしに、スマートフォンやノートパソコンも使えない。

長期にわたりほぼ独占的なシェアを持ち、かつ、特許ライセンス料でももうかるビジネスモデルを、半導体の花形であるロジック分野ではどこも確立できなかった。

ロジックではないが、「電子の目」としてスマホカメラなどに搭載されるイメージセンサーで約5割の世界シェアを持つソニーと、電力制御などに使われるパワー半導体で世界上位の三菱電機が、辛うじてグローバル市場で存在感を示しているといえるだろう。

「金のかかる先端投資にばかり走り、技術におごりがあった」ことにも問題がある。

償却が済み、これから「稼ぎ時」を迎える2世代前のテクノロジーの生産設備を潰し、最先端設備投資に替えてしまう。

この「愚かな繰り返し」が、稼げないことを常態化させた根本原因であることを指摘する声は少数派だ。

勝機はビッグデータ

現在、自動車用半導体不足が世界的な話題になっている。

だが、これは、自動車メーカー側のおごりが自ら招いた事態で自業自得である。

自動車業界が、納入業者である半導体メーカーに「システムの設計からソフトから全て一式を持ってこい」と要求し、買いたたいてきた長年のツケが回ってきた。それが顕在化しただけだ。

世界の半導体産業において日本企業が生き残り、復権したいのであれば、最後の市場はビッグデータ時代のニーズを満たす各分野の半導体メーカーとしてトップシェアを得ることだ。

米中貿易摩擦という外部リスク要因はあるものの、かつての日米半導体摩擦の「教訓」を思い出し、先回りした開発を行い、市場を開拓すべきである。

米国は昨年6月、半導体産業育成のための予算として228億ドル超(約2・4兆円)という巨額の予算法案を議会に提出した。

日本政府がこれに対抗できるのかといえば否である。

昨年から経済産業省が関係企業を集めては非公式の「オフ会合」をあちこちで開催し、再編や新プロジェクトの「構想」メニューをいろいろと用意しているようだが、それに乗ったら、また負けるのは火を見るよりも明らかだ。

大手電機メーカーの多くが半導体事業から撤退した。

ある企業は再編し、ある企業は倒産し、外資の傘下に入った。

工場は閉鎖または売却され、社員は職を失った。

残った日本の半導体メーカーは、米国やアジアのプレーヤーのしたたかさを徹底的に研究し、世界のどこに新たなニーズがあるかを発見することに注力すべきである。

(中島三佳子・経済記者)

(本誌初出 盛衰記 収益モデル作れず、独立性なく 国の無為無策が招いた三重苦=中島三佳子 20210323)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事