経済・企業バブルか? 暴落か? 世界経済入門

何が起きるか2 株に好材料 経済回復で企業は増益基調 ダウ3万4500ドルの高値も=新井洋子

積極的な財政出動により米株の先高観は強い(ニューヨーク市) (Bloomberg)
積極的な財政出動により米株の先高観は強い(ニューヨーク市) (Bloomberg)

 新型コロナウイルス感染拡大以降、世界的に実体経済が悪化するなか、世界の株式市場は上昇基調となった。“コロナ危機元年”の2020年は「実体経済が悪化するなかなぜ株式市場は上昇するのか?」との声が多く聞かれたが、21年に入ると「バブルの兆候ではないか?」と景気過熱を懸念する声に変わったように思う。(世界経済入門)

 今の株価水準は「バブル」なのか。株式市場のバブルとは“理論価格よりも乖離(かいり)した状態で上昇し続けること”を言う。投資家がバブルという言葉に敏感になるのは、今の株価水準が理論的に説明のつかない、実体を伴わないものであれば、やがて泡のようにいつかは消えてなくなり、大幅な株価下落、つまり「バブル崩壊」を招く可能性があるからだ。

 従って、「バブル」かどうかは、渦中にあっては分からず、後から振り返って分かることである。ここでは、コロナ危機以降の株式上昇がファイナンス理論の教科書にあるような理屈で説明が可能であるかを考えてみよう。

割安か? 割高か?

 株価はどう決まるのか。投資家は、現在の「株価」が「真の企業価値」と比べ割安(割高)であれば買う(売る)ことになる。

 この「真の企業価値」をファイナンスの教科書にならって簡易に表現すると、「企業が生み出す将来のキャッシュフローを割り引いた価値(現在価値)の合計」となる。このことは図1に示すように、長期的には現実の株価動向をおおむね説明すると言えそうだ。

 将来にわたる企業価値を現在の価格と比べるには、将来までの時間価値や不確実性が伴う分を割り引いて考えるための「割引率」が必要である。また、「キャッシュフロー」は企業活動によって生み出す価値であるから、企業利益と置き換えても、おおむね問題ないだろう(厳密にはキャッシュフローと会計上の利益は異なる)。

 まとめると、理論的な株価は、

(1)企業利益:企業が生み出す将来利益予想が大きいほど株価は高い、(2)金利動向:金利が低いほど株価は高い(将来価値を現在の価値に割り引く程度が小さくなるため)、(3)利益成長に対する不確実性:企業の利益成長に対する不確実性が低いほど株価は高い(将来利益の成長に対する確信度が高いほど、将来価値を現在の価値に割り引く程度が小さくなるため)。

──という関係が成り立つ。この三つの決定要素の観点からコロナ危機後の株式市場を確認する。

 コロナ危機後の世界的な株価上昇は、企業利益の観点からは説明可能だ。ロックダウン(都市封鎖)や自粛行動で経済活動が停止し20年の企業利益は悪化した。その後、ワクチン普及や金融、財政の支援により景気は21年には回復軌道に向かうとみられたことから、市場は21年以降コロナ収束後の業績回復を織り込んできた。

 米S&P500採用銘柄のEPS(1株当たり利益)は、20年第2四半期を底に、21年第2四半期は前年同期比64%増、その後も22年第3四半期まで2桁成長が予想される(前年同期比、ブルームバーグ予想)。

 日本においても直近決算では9四半期ぶりの前年同期比で営業増益と、来期の大幅増益が見込まれる。金利動向をみれば、コロナ危機以降、米国の10年債国債利回り(長期金利)は0・53%まで沈み、低水準で推移。各国中央銀行の積極的な緩和による金利低下によって株式市場は支えられてきた。

 しかし、21年2月後半以降は、世界的に長期金利の上昇が加速すると、株価の下押し圧力につながっている。特に米国では、大規模な財政政策の投入、ワクチン普及などにより景気回復が見込まれるなか、インフレが想定以上のペースで加速した場合、「金融政策の正常化・引き締め」に向かうとの懸念から金利見通しが、株価の動きを大きく左右している。

 企業の利益成長の予想には不確実性が伴う。米国の積極的な財政出動は、景気回復の不確実性を大きく後退させ、株価を押し上げたと考えられる。

 一方、新型コロナウイルスの収束には至っていないことや、変異株の出現やワクチン普及の遅延リスクといった不確実性は、株価の押し下げ方向に作用している。

 コロナ禍でもGAFA(ガーファ)と呼ばれる米国大手ハイテク銘柄群には大量の資金が流入し、時価総額が大きいこれらの少数の銘柄が市場上昇をけん引した。株価の決定要素である「企業利益の創出力」「低金利環境」「利益成長に対する確度の高さ」いずれの観点からも株価が高く評価される裏づけがあったと考える。

 これらの企業がコロナ禍でも企業利益を伸ばしてきたことは決算をみても明らかであるし、(1)キャッシュフローの創出力の高さから業績が下振れる可能性は他の銘柄に比べて相対的に低い(不確実性は低い)と市場が評価したこと、(2)金融緩和による低金利──が株高傾向を許容してきたと考える。足元の金利上昇は、これらの銘柄の調整要因につながっている。

 注視すべきは「企業利益」である。金利や不確実性などの要素は投資家自身でコントロールできず、市場に身をゆだねるしかないが、どの企業の利益が有望かということは投資家自身が選択できよう。

日経平均3万2000円も

 世界経済は21年後半から改善が進む見通しである。景気回復による緩やかな金利上昇があっても、基調として低金利環境が続こう。

 米国は(1)バイデン政権の大規模な追加財政出動やインフラ投資、環境関連投資による業績拡大、(2)5G(第5世代移動通信システム)スマホやパソコン需要の拡大、(3)電気自動車(EV)の普及進展──などを背景に製造業が好調を維持し株式市場を支えよう。

 日本も、コロナ禍で実施されたコスト削減や事業構造改革などの営業利益増の期待もあるなど、各地域で業績回復と、その後の増益基調が見込まれる(図2)。

 他方、世界的にサービス消費はまだ本格的に回復していない。経済活動が正常化に向かえば、サービス消費の改善により業績改善の裾野が広がろう。21年は幅広い投資対象に上昇余地があろう。

 21年の株価の予想レンジはNYダウで2万7000(下値)~3万4500ドル(高値)、日経平均は2万3000(下値)~3万2000円(高値)としている。

(新井洋子、三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ・グローバル投資ストラテジスト)

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