経済・企業バブルか? 暴落か? 世界経済入門

中国の深層2 スマホ大国の新潮流 ネット難民も使える通販拡大 アリババや新興企業も参戦=高口康太

大手企業の参入で中小店舗の雇用が失われる恐れも (Bloomberg)
大手企業の参入で中小店舗の雇用が失われる恐れも (Bloomberg)

 今、中国で注目を集めるのが「コミュニティー共同購入」という、新たな形態のネットショッピングだ。生鮮食品や日用品をスマートフォンのアプリから注文すると、翌日に自宅近くの引き取り所に届けられる仕組みだ。日本の生活協同組合による共同購入によく似ている。昨年から各社が相次ぎ参入し、利用可能地域が拡大している。

 中国ではすでに料理宅配サービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」型の個別配送が普及しており、アリババグループの盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)など、注文から約30分で個別配送する事業者も多い。注文から配送まで1日かかり、しかも販売店まで購入者が引き取りに行かなければならないコミュニティー共同購入は、利便性の面から見ると“退化”しているようにも見えるが、なぜ今になって流行しているのだろうか。(世界経済入門)

スマホ苦手な人取り込む

 ポイントはコミュニティー(共同体)にある。商品引き取り所の運営者は「団長」と呼ばれている。もともとは小店舗の運営者や団地の顔役的な住民であることが多い。彼らは新たな購入者の勧誘やオススメ商品を売り込む販売員という役割を担う。その対価として売り上げの約10%の手数料を収入として得るほか、新規利用者の獲得などの指標に応じた報奨金を得る。地域コミュニティーの有力者にインセンティブ(動機付け)を支払うことで、ネット経由の生鮮食品・日用品を売り込む窓口になってもらっている。

 中国は世界一の電子商取引(EC(イーコマース))大国として知られる。EC化率(小売り販売に占めるネット販売の比率)は2020年には約25%に達した。日本の3倍以上もECが活用されている計算だ。

 とはいえ、たかだか25%なのだ。スマホを使い慣れず、ネットサービスの恩恵を受けられない中高年に普及させることは難しいほか、都市住民も生鮮食品や日用品などは自宅近くのスーパーなどで購入することが多い。ネット販売が入り込めなかった領域に、人間関係を使って入り込もうとする試みがコミュニティー共同購入なのだ。

拡大はこちら

 参入している企業は興盛優選、十薈團、同程生活といった独立系に加え、アリババやJDドットコム、美団、DiDi、ピンドゥオドゥオといった大手IT企業などだ(表1)。今では激烈な競争をくり広げる注目ビジネスとなった。

 懸念もある。生鮮食品を販売する中小店舗は中国の雇用を支える存在だけに、大手IT企業の参入で悪性の値引き競争が始まれば、社会不安につながりかねないと中国政府は警戒している。3月3日にはダンピング(製品の不当廉売)を理由にDiDiやピンドゥオドゥオなど5社に罰金が科された。

 コネ社会で、コミュニティーの人間関係が濃い中国でのみ成り立つもので、日本への導入は難しいようにも思えるが、中国で生まれたビジネスを取り込む「コピー・フロム・チャイナ」の動きは着実に広がっている。コミュニティー共同購入のような中国発の新しいビジネスモデルは今後、世界に広がる可能性がある。

世界的SNSも支える

拡大はこちら

「コピー・フロム・チャイナ」のみならず、中国企業が直接、海外進出するトレンドも加速している。かつての中国企業といえば、14億人の巨大市場に注力し、トップ企業となった後に海外展開に取り組むという流れが一般的だった。しかし、近年では「ボーン・グローバル」と呼ばれる設立当初から海外市場をターゲットにする新興企業が増えている。動画アプリのTikTok(ティックトック)などが代表例だろう(表2)。

 また、企業をサポートするソリューションビジネスでも、中国企業は静かに存在感を高めている。1月から世界的な人気が加速した米音声SNS「クラブハウス」は、配信技術に中国のテクノロジー企業Agora(アゴラ)の技術を採用している。

 アゴラの創業者は中国人だが、ビデオ会議システム大手の米Webex(ウェブエクス)(07年に米シスコが買収)の初期メンバーで、その後中国企業のYY(歓聚集団)のCTO(最高技術責任者)として活躍した、いわば音声技術のプロ。アゴラの技術を採用すれば、簡単に音声配信サービスを作ることができる。音声生配信などが流行する中国市場で鍛えられた技術を採用することで、クラブハウスは世界での人気を築いたのだ。

 2月末にニューヨーク証券取引所にIPO(新規株式公開)を申請したTuya Smart(トゥーヤー・スマート)はIoT(モノのインターネット)家電の開発技術を提供している。同社が提供する通信基盤などを活用することで、既存の家電メーカーは短期間でIoT家電を開発できる。すでに5000社以上が採用し、累計の製品数は25万種を超える。

 中国のテック企業はたんに売り上げを伸ばしているだけではない。スマホが代表例だが「中国ブランドの製品が売れているが、重要なソフトウエアと部品はすべて海外企業」という時代から、最終製品を支えるソフトウエアなどを提供する実力も身に付けつつある。スマホの基本ソフト(OS)ではグーグルのアンドロイドが世界を制したが、今後は中国企業が標準を握る事例も出てくるだろう。

(高口康太・ジャーナリスト)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月16日・23日合併号

今こそ知りたい! 世界経済入門第1部 マクロ、国際政治編14 長短金利逆転でも景気堅調 「ジンクス」破る米国経済■桐山友一17 米大統領選 「二つの米国」の分断深く バイデン、トランプ氏拮抗■前嶋和弘18 貿易・投資 世界の分断とブロック化で「スローバリゼーション」進行■伊藤博敏20 金融政策 物価 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事