日銀ETF買いの罪 「安値で買えず」個人が不満 ゾンビ企業存続の温床にも=井出真吾
日本銀行のETF(上場投資信託)買い入れ額が累計35兆円を超えた。時価ベースでは一時50兆円超となった模様だ。日銀がETFの買い入れを始めたのは、白川方明総裁時代の2010年12月だ。当初は年間0・45兆円が買い入れ額の上限だったが、13年4月に黒田東彦氏が総裁に就任すると年間1兆円程度に増額。その後も3兆円(14年10月)、6兆円(16年7月)と段階的に増やし、コロナショックに見舞われた昨年3月には上限12兆円に倍増した。(日経平均最高値への道)
日銀がETF買い入れの目的とする「リスクプレミアム(投資家が株式のリスクを受け入れる代わりに、求める対価の度合い)の圧縮」について、雨宮正佳副総裁は国会で株式と国債の利回り差(イールドスプレッド)などを挙げた。しかし、年間買い入れ額の目標を段階的に引き上げたにもかかわらず、イールドスプレッドはコロナショック前まで趨勢(すうせい)的に上昇しており、効果があったとは言い難い。
一方、コロナショック後はイールドスプレッドが13年当時の水準に急低下した。主要先進国の積極的な財政出動と大規模な金融緩和による株価上昇が主な背景だ。市場やメディア、国会でも「ETFを買う必要があるのか」など疑問の声が増えたが、日銀は買い入れを続ける姿勢を崩していない。
当初、日銀内部に「買い入れ常態化」を危惧する声があった。それから10年が経過し、危惧は現実になった。もはや日銀のETF買い入れ縮小自体がリスクプレミアム拡大の一番の懸念要因かもしれない。
日銀が主な買い入れ対象としてきたのはTOPIX、日経平均、JPX日経400連動型ETFなので、日銀はETFを通じて東証1部に上場する全企業の株式を間接的に保有していることになる。筆者の試算では、日銀が発行済み株式数の20%以上を間接的に保有する企業が3社ある(10%以上は73社)。
柳井氏抜き筆頭株主に
一般に議決権所有比率が20%以上の場合は持ち分法が適用され、投資先企業の損益などを連結財務諸表に反映させる必要がある。日銀は株式を直接的に所有していないので、これら企業の業績を日銀の決算書に反映させることは制度上ないものの、いかに大量保有しているかを端的に示している。
なお、ファーストリテイリングの筆頭株主は20・7%を保有する同社会長兼社長の柳井正氏で(自己株式を含む発行済み株式数ベース、20年8月時点)、日銀は20・5%と肉薄する。仮に日銀が年間6兆円ペースで買い入れを続けると1年後には柳井氏を超えて実質“筆頭株主”に躍り出る計算だ。異様としか言いようがない。
昨年11月、ラジオNIKKEIが番組ホームページで実施したアンケートで日銀のETF買い入れについて55・7%が「大反対」・「反対」と回答した(大賛成・賛成は34・5%)。主な回答者は、個人投資家で「日銀が株価を下支えし過ぎるため、買い時が来ない」という不満が目立った。赤字が続く企業の株式も機械的に買い続けるため「ゾンビ企業」の延命となり、経済の新陳代謝を促す本来の市場機能を妨げるなどの副作用も指摘されている。
3月19日に日銀は年間買い入れ額の「原則6兆円」の削除や今後はTOPIX連動型のみを買い入れることなどを示したが、依然として出口は見えない。株式市場はしばらく付き合わされる。
(井出真吾・ニッセイ基礎研究所上席研究員チーフ株式ストラテジスト)