経済・企業日経平均最高値への道

年内3万9000円の声 内需株が大復活の予感=中園敦二

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 株式市場で、1989年12月に付けた日経平均株価の史上最高値「3万8915円」が意識され始めた(図1)。「日経平均は今年下半期に3万9000円を予想する」。マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは鼻息が荒い。日本国内でも新型コロナウイルスのワクチン接種が浸透すれば個人消費や企業投資に火が付き、日本経済が成長軌道に乗ると見ている。(日経平均最高値への道)

日経平均の高値更新に市場参加者の期待が高まる
日経平均の高値更新に市場参加者の期待が高まる

 日経平均は2月15日、約30年ぶりに3万円台を一時回復した。これは、新型コロナの封じ込めにいち早く成功した中国とワクチンの接種が進んだ米国がけん引役となり、主要国経済の回復が想定以上に速く、「世界の景気敏感株」としての日本株が買われているためだ。

 1・9兆ドル(約200兆円)の景気対策が議会を通過した米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)が21年の経済成長率見通しを昨年12月時点の4・2%から6・5%に上方修正。中国も21年の経済成長について実質で「6%以上」という数値目標を明らかにした。巨額の「コロナ給付金」により主要国では、自動車や大型液晶テレビ、スマートフォンなど「モノ消費」が好調で、半導体関連や工作機械などに強みを持つ日本株に外国人の買いが集まる。JPモルガン証券の阪上亮太チーフ株式ストラテジストは、「日本は景気回復に敏感な産業が多く、世界と比べても業績改善の度合いが大きくなると見込まれる。外国人の買いは、しばらく続く」と見る。

 日本では「景気回復の実感がない」いうのが、国民の正直な肌感覚だろう。東京商工リサーチによると、今年3月23日現在でコロナ関連での経営破綻(負債1000万円以上)は累計1163件に上る。業種別で見ると、来店客の減少などで打撃を受けた飲食業が最多の201件。次いでアパレル関連、建設業、ホテル・旅館の宿泊業が続く。3月のコロナ関連の経営破綻は、月別最多だった2月(122件)を上回るペースだ。

旅行需要が大爆発

 だが、内需主導の強気相場を予見するような動きが国内でも出始めた。コロナで壊滅状態となった旅行業界だが、実は、3月21日の緊急事態宣言の全面解除を受け、宿泊費が高くなる前に部屋を確保しようと高級ホテルなどへの予約が増えている。

 長野県・軽井沢の「星のや軽井沢」(77室)は1室1泊10万円程度だが「例年より予約の出足が早い。ゴールデンウイークはほぼ満室で、秋の予約も一昨年の3月下旬時点で比べても多くなっている」(同社)という。ANAの国内線搭乗者も1~2月に比べて約2倍となっている。「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は「世界的に見ても特に富裕層のプライベート旅行が大爆発する。関連銘柄を持っておかないと負けてしまう」と強調する。

 株式相場は通常、景気循環の波に沿い、金融相場(金融緩和で上昇)→業績相場(企業業績改善で上昇)→逆金融相場(金融引き締めで下落)→逆業績相場(企業業績悪化で下落)の順で、株価が上昇し、ピークを付け、下降に転じる。3月17日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは、2023年末まで低金利政策を続けるとの見通しを示した。長期金利は上昇しているものの、予想インフレ率の水準を下回り、実質金利はマイナスの状態が保たれている。欧州中央銀行(ECB)もコロナの緊急対策である資産購入を22年3月まで続ける方針だ。量的緩和による空前のカネ余りから、「大金融相場」のステージにあるというのが、市場関係者の一致した認識だ。

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 国内景気はさえないため、「今の株価はバブルではないか」という懐疑的な見方があるのも事実だ。日経平均が89年に最高値を付けた際は、日経平均のPER(株価収益率)は67倍、PBR(株価純資産倍率)も6倍と、同時期の米国株(同15倍、2倍)に比べ、大幅に割高だった(表)。

 だが、バブル後の「失われた20年」に日本企業は過剰債務、過剰設備、過剰人員の「負の資産」の処理を断行。海外展開を進める一方で、ガバナンス(企業統治)改革に取り組み、ROE(株主資本利益率)に代表される「稼ぐ力」を着実に強化した。金融機関や事業法人の株式持ち合い解消も進み、株価はその企業の収益性を反映するようなった。今年2月時点で、日経平均のPERは22倍、PBR1・3倍と欧米など諸外国の株価指標と比べても割高ではない。今回の日経平均3万円台回復は「バブルではない」(門間一夫みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト)という見方が大勢だ。

バリュー株に資金シフト

 それでは、日本株は今後、外国人の景気敏感株買いを呼び水に、内需株主導の業績相場に移行することができるのか。注目されるのがグロース株とバリュー株の動向だ。グロース株とは将来の利益成長力を評価し、現在のPERやPBRが市場平均より割高な銘柄のこと。一方でバリュー株はそれらが現時点で割安な株式をいう。前者は情報・通信や医薬品など、後者は銀行、建設、不動産などの内需関連が含まれる。最近10年ほどはグロース株指数がバリュー株指数を上回っているが、昨年11月末を100とすると、バリュー株の上昇が目立っている(図2)。金融相場から業績相場への移行期はバリュー株への資金シフトが生じやすい。足元、建設や不動産など内需関連株も上昇している(図3)。

 コモンズ投信の伊井哲朗社長は、大震災や疫病など大きな危機があった時ほど、イノベーションが起こり、社会をリードする企業が登場すると指摘する。法政大学大学院の真壁昭夫教授は、「かつてのアップルや富士フイルムのように、イノベーションによる業態転換で、バリュー株がグロース株に変わるケースも珍しくない」と話す。実際、割安に放置されているセクターには、鉄鋼、紙パルプ、石油など「脱炭素」でカギを握るところも少なくない。

 株式市場では高齢の個人投資家が退場する一方、ネット証券を通じコロナ給付金を手にした若い世代が押し寄せている。JPモルガン証券の阪上氏は、「企業業績が年率10%で増えていけば、日経平均は無理せず25年にも最高値を更新する」と見る。日本株は「平成のバブル崩壊」を経て、「令和の大復活」を遂げる兆しを見せ始めたのだろうか。

(中園敦二・編集部)

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