週刊エコノミスト Online 日本車があぶない!
「VWに続きGMまでガソリン車廃止」の衝撃!「ガラパゴス化」した日本車メーカーは「絶滅」を避けられるのか?
2020年、ヨーロッパと中国における電動車(EV/PHV)の新車販売に対するシェアはそれぞれ7%と5%に達した。
世界全体でも3%を超え、EVはいよいよ本格普及期に入った。
その中で日本メーカーが置き去りにされようとしている。
EVは「爆発的普及期」を迎えている
生物の増殖過程等を近似的に表す曲線として、「ロジスティクス」曲線というものが知られている。
これはマーケティングにも応用されており、新製品の普及過程を予測するツールとしても使われている。
横軸に経過時間、縦軸に新製品の普及率(シェア)をとると、増殖(普及)の初期段階では緩やかに増加し、ある時点から加速度的に上昇する。
飽和状態に近づくと減速し、ゆるやかに100%に近づいていく。
物事が理論通りに進むわけではない。
しかし、多くの新しい技術や製品が、シェア3~5%に達した辺りから普及のペースが急加速する現象は、経験的にも納得しうる。
この経験則に基づくと、EVは今まさに「爆発的な普及期」を迎えたと言えるだろう。
筆者は、ガソリン車中心の大メーカーを「恐竜」、新興のEV専業メーカーを「哺乳類」に例えている。
「恐竜」は、体は大きいが絶滅の危機に瀕し、「哺乳類」は、今は小さいが、将来の進化が約束されている。
EVが普及しはじめたのは、いつだろうか。
普及率曲線の開始時点は、2008年に新生「哺乳類」代表であるテスラが「ロードスター」を発売した時だと考えられる。
テスラは、2010年にNASDAQに上場し、2020年には年間生産台数約50万台を達成。
EV普及レースでトップを走り、株式市場での時価総額はトヨタの数倍に上っている。
テスラだけではない。2018年以降、中国のEV専業メーカーであるNIO、小鵬(XPEV)、理想汽車(LI)が続々とアメリカ市場に上場し投資家の注目を集めている。
ここまでのEV「普及初期」を引っ張ってきたのは新興ベンチャー群だ。
今後のEVの普及には主要国政府による規制が重要な役割を果たすことになるだろう。
世界各国では2025~2040年の間に内燃機関車(HVを含む)の新車販売を禁止する方針が相次いで打ち出されているが、新興ベンチャーの台頭が各国政府の背中を押したことは間違いない。
VWとGMが相次いでガソリン車廃止へ
このように爆発的に普及しつつあるEVだが、2008年から現在までの12年間、日本車をはじめ、既存の大手自動車メーカーの動きは鈍かったと言わざるを得ない。
一時は、日産「リーフ」がトップグループに入り健闘したが、2020年には年間販売台数が前年の57%まで落ち、世界ランキングでも7位まで下がっている。
また、同時期に出たGMの「Volt」PHVはすでに生産が中止されている。
新たに投入されたEV「Bolt」(日本語では「ボルトEV」とも称される)は、テスラ「モデル3」に惨敗している。
潮目が変わったのは2020年秋のことだ。
テスラ、NIO等に対抗して、VWが9月に純粋EVである「ID.3」を発売した。
VWは、わずか3カ月で57000台の「ID.3」を売り、メーカー別ランキングでテスラに次ぐ2位の座にまで上がった。
既存の大手自動車メーカーのEV化がようやく端緒についたのだ。
いわば「恐竜企業のほ乳類化」が始まった、という形だ。
続いて発売された「ID.4」も出足好調。
アメリカ市場には今年3月半ばに第1便が到着.さっそく早期購入者からの高評価が聞こえ始めている。
「アメリカの恐竜」GMの動きはどうだろうか。
一時は衰退企業の代表のように見られていたGMも、内燃機関車廃止に向けた野心的な方針を発表し、評価が急上昇している。
GMは、2020年代の半ばまでにEVを30車種投入し、2035年までにはガソリン車、ディーゼル車を廃止するという。
しかも、GMはHVに注力する計画はなく、PHVについても、一部のガソリン車がPHV化される程度で、新たに出てくるものはなさそうだ。
また、FCVについてもトラック向けの研究は続けるものの、「アルティウム」バッテリーの大型化にめどが立ったため本格的に使われることはなさそうだ。
従って、GMが2035年以降製造・販売するのは実質的にEVのみになる。
GMが最初に手掛けるEVは、「ハマーEV」「ボルトEUV」「キャデラック・リリック」などであり、2021年後半~2023年にかけて順次発売されることになっている。
株式市場の反応は正直だ。
GMの株価は4月1日までに、2020年末比較で39%もアップ。同期間にテスラは6%下がっている。
時価総額ではGMはテスラの7分の1だが、今後の成長への期待が高まっていることは間違いない。
「マッハ-E」が好調のフォードも続くか?
フォードも、最近になって電動化への強い決意を表明している。
2025年までに世界で少なくとも220億ドル(約2兆3000億円)を電動化に投じ、2030年までには、ヨーロッパ向け乗用車を100%EVとする計画を発表した。
アメリカ国内では「マッハ-E」が発売早々非常に好評で、テスラ車、特に「モデルY」のシェアを侵食し始めている。
そのこともあり、テスラのユーザーがSNSで「マッハ-E」を褒めたところ、マニアックなテスラ信者から脅迫されたというニュースが出てきたほど。
筆者はガソリン車をEVに改造した「ビートルEV」(コンバートEV)を愛用しているが、市販車の中では「マッハ-E」に一番関心がある。
オリジナルの「マッハ1」は筆者がアメリカに住んでいた時代の憧れの車であり、今でも、年代物の中古車を入手してEVにコンバートしようという計画を持っているほどだ。
フォードのEV化についても株式市場が好感し、株価は昨年末比で38%アップしている。
日本車メーカーは絶滅の危機?
日本では、いまだに「EVだけが電動車ではない」「HVの方が現実的だ」などの議論がある。
だが、それは日本が電動車(EV/PHV)の普及率わずか1%程度の「ガラパゴス」だからだ。
世界市場ではEV普及率が3%を超え、2021年には5%に達しようとしている。
その時に、悠長な「攘夷論」をぶっている暇はない。
「世界は世界、日本は日本」という理屈ももちろん成り立たない。
日系メーカーの総生産台数2千数百万台に対して国内販売台数は500万台程度しかない。
小さな日本市場に閉じこもっていて、生きていけるわけはない。
「日本メーカーもその気になればEVなどすぐに出せる」という意見もあるが、「すぐに出せる」力を持ちながらわざわざ時間を無駄にする必要はない。
太古の昔、恐竜は隕石の衝突が引き起こした環境の激変によって滅んだという。
その隕石はすでに落ちた。衝撃波が到達する前に素早く「哺乳類」に変身するしか生き残りの道はない。
村沢義久(むらさわ・よしひさ)
1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。