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日本車メーカーを尻目に、VWがEVに全フリして結果を出しているという、EV否定派には嫌なニュース

VW「ID.3」(Volkswagen Newsroomより)
VW「ID.3」(Volkswagen Newsroomより)

最近のフォルクスワーゲン(VW)のEV化への動きは激しく、恐怖を感じるほどだ。

まずは、2021年3月5日。

2030年までにヨーロッパにおける自動車販売に占めるEVの比率を、従来の35%から70%に引き上げると発表。

また、アメリカ、中国においても同時期までにEV比率を50%にするという。

続いて、3月15日には、オンラインで開催した「Power Day」の会見の場で、バッテリーへの注力と製造工場の大増設計画を発表した。

MEBプラットフォーム採用第1号「ID.3」の脅威

VWの意気込みは、実際に矢継ぎ早にEVを投入していることからも明らかだ。

まずは、コンパクトSUVタイプの「ID.3」。

EV専用に開発されたMEB(Modularer E-Antriebs-Baukasten)と呼ばれる共通プラットフォームを使った「ID」シリーズ第1弾だ(ID=Intelligent Design)。

「ID.3」は2019年9月のフランクフルト・モーターショーで発表され、1年後の2020年9月からドイツ国内で販売開始。

人気は上々で、年内のわずか4カ月で約57,000台を販売し、世界電動車年間販売台数ランキング第6位に入った。

株式市場で注目される中国NIOの販売台数が12カ月間で5万台に届かなかったことを考えると、非常に素早い立ち上がりだ。

しかも、ヨーロッパだけを見れば、月間販売台数で、テスラ「モデル3」を3割以上引き離し、圧倒しているのだからただごとではない。

バッテリー容量は、「Pro S」バージョンで77kWh(ネット)、航続距離はWLTP基準で550kmというから、最も厳しいEPA基準だと490kmぐらいになるはず。

名車「ビートル」以来最重要の新車「ID.4」

VWは続いて「ID」シリーズ第2弾となるSUVタイプの「ID.4」を発表。

「ID.3」と同じくMEBプラットフォームを採用している。

「ID.3」は主としてヨーロッパ市場向けだが、「ID.4」はアメリカと中国市場も重視しており、両国での現地生産も計画されている。

こちらも動きは素早く、ヨーロッパでは2020年末から納車開始。

アメリカには、2021年3月に第1便が到着した。

「ID.4」にはいくつかのバージョンが用意されているが、最初に発売されたRWDタイプのヨーロッパ向けは、モーター出力146馬力と168馬力でバッテリー容量52kWhのものと、201馬力で77kWhの合計3バージョン。

モーター・ジャーナリスト達からは、「201馬力では物足りない」という声も聞こえてくる。が、筆者の考えは全く逆で、むしろ、146、168馬力の廉価版にこそ、VWの意気込みを感じている。

確かに、EVでは400~500馬力も珍しくはない。今後は1000馬力のEVも出てきそうな状況である。

だが、146、168馬力と言えば、このクラスのガソリン車としては普通の馬力だ。

しかも、モーターは低回転域では強いトルクを発揮するので、日常の足としては全く問題ないはずだ。

この「普段着のEV」にこそ「ビートル」の伝統を引き継ぐVWの真骨頂がある。

北米向けは、201馬力・77kWhバージョンで、航続距離はEPA基準で約400km。最低価格$41,190から。

AWD・302馬力タイプは2021年後半に、また、低価格バージョン($35,000から)は2022年到着予定という。

ヨーロッパのEV市場を席捲しつつある「ID」シリーズだが、アメリカ市場でもうまくいくだろうか。

注目すべきは「ID.4」のライバルの多さで、テスラ「モデルY」、現代「コナEV」、起亜「ニロEV」、さらには、今年中に出てくる、日産「アリア」、GM「ボルトEUV」などを相手に戦うことになる。

残念ながら日本市場への導入はまだ始まっておらず、「ID.3」「ID.4」共に2022年になる模様。

ちなみに、「ID.3」「ID.4」における数字は車体の大きさを表しており、VWは今後一番小さい「1」から最大型の「9」まで揃えると見られている。

バッテリー用の「ギガファクトリー」を6カ所も建設

VWの本気度はEVの心臓とも言えるバッテリーへの注力ぶりからも感じ取れる。

VWが期待するのは全固体電池開発であり、すでにアメリカのQSに300億円を出資している。

経営幹部も、「30年までにVWグループの車両の80%にソリッドステートバッテリー(全個体電池)を使う予定」などと発表している。

しかし、一番驚いたのは、2030年までにVW独自の6つのバッテリー生産用ギガファクトリーを建設する、との発表だ。

「6工場合わせて年産240GWhを目指す」と言うのだが、EV1台当たり100kWhずつ搭載したとしても240万台分、50kWh搭載なら480万台分に相当するすごい量だ。

自前で工場を持つことにより、バッテリーの技術や生産規模を自在に管理しようという目論見だ。

しかし、動きの速いバッテリー業界では、新規ベンチャーなどが出現し、今後は新しい技術の登場も加速するはずだ。

その時に、自前の巨大な設備が足かせにならないか、心配になる。

だからこそ、VWは、全固体電池ベンチャーのQSへの出資などで保険をかけているのだが、ギガファクトリー建設が吉と出るか凶とでるか、まだ不透明だ。

恐竜VSほ乳類の闘い、勝負は見えている?

EV化の動きに火をつけ、これまでリードしてきたのは、テスラを筆頭とする新興ベンチャーであり、第1ラウンドは彼らの圧勝であった。

アメリカでは、GMが「ボルトEV」を出したが、同クラスのテスラ「モデル3」に惨敗している。

この闘いは、栄華をほこった恐竜が、新興勢力であるほ乳類に徐々に駆逐されていったプロセスを思い起こさせる。

しかし、ここにきて潮目が少し変わってきた。

アメリカ市場ではフォードが「マッハ-E」でテスラのシェアを侵食し始め、GMも「ボルトEUV」「ハマーEV」などを準備しリベンジを狙っている。

さらには、同じ恐竜仲間の韓国の現代と起亜がEVランキングで上位に食い込んできた。

そういう状況の中で、VWの怒涛の進撃が始まったのだが、はたしてテスラなど新興ベンチャーに追いつくことができるだろうか。

いずれにしても、これで車のEV化が一段と加速することは間違いない。

村沢義久(むらさわ・よしひさ)

1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。

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