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「EVは充電がなあ……」と思っている人が知らない、充電と電池の話
筆者は2年半前から「ビートルEV」に乗っている。
44年前に作られた年代物の「ビートル」をEVにコンバート(改造)したものだ。
改造を担当したのはオズ・モータース(横浜市、古川治社長)である。
市販EVではなくコンバートEVを使っている主たる理由は、EVの使い勝手についていろいろとテストするためだ。
だが、一度EVに乗ってみると、もうガソリン車に乗る気は全くなくなってしまった。ただし、やむを得ない場合を除いて、の話だが。
実は充電時間は「実質ゼロ」!
EVの一番のメリットはガソリンスタンドに行く必要がないことだ。
ガソリン車で給油に行くというのは結構負担になっているものだ。
スタンドの敷地に入って、ガソリンを入れてもらって、クレジットカードで支払って出てくるまでに最低でも10分はかかる。
「充電には給油の何十倍もの時間がかかるじゃないか」という反論はもっともだが、筆者の「体感上の充電時間」は実はゼロ!
というのも、基本的に充電は寝ている間に終わっているからだ。
筆者自身、常々「EVの問題は航続距離の短さと充電時間の長さ」と言っているのだが、皮肉なことに、筆者の使い方ならそのどちらも全く問題ないことが分かった。
愛車「ビートルEV」には中古「リーフ」(第1世代)のバッテリーをバラシて、半分の12kWh分を搭載している。
これで、航続距離は大体90km程度。
筆者の使用法はスーパーやコンビニなどに行くのがメインで、せいぜい往復15km程度に過ぎない。
今筆者は軽井沢に住んでいるが、長く乗るのは、隣町の佐久市、小諸市まで行くときくらい。その場合でも走行距離は50km程度だ。
それでも帰宅時にはあと40km走れるぐらいの余裕がある。
寝ている間の普通充電で十分
充電の方法は、帰宅したらすぐプラグインするようにしている。
普通、EVの充電には200Vのコンセントが必要だ。一般家庭のコンセントを200V対応にする工事費は5万円程度で済む。
筆者はあえて100Vコンセントのままで試している。
これなら工事は不要で、安全対策のために必要なアダプター代として2000円程度が必要になるだけだ。
充電入力に必要な電力は800W(電子レンジ程度)なので、契約アンペアを上げる必要もない。
残量ゼロから800Wのパワーで12kWhまで満充電するためには、計算上は15時間かかることになる。
しかし、筆者の使い方では遠出した時でも40%近く残っているので、ゼロからスタートするよりずっと短い時間で完了する。
そのため、朝起きた時には満充電されていていることになる。充電の手間を感じることは皆無だ。
筆者はこれで大丈夫だが、問題はアパートやマンションに住む人達だ。
筆者自身、都内のマンション住まいの時代にはEVを持つことができなかった。
だから、これからのマンションは普通充電設備を持つことが求められるだろう。
月極駐車場などにも同様の設備が必要だ。
ところで、「筆者のような使用法では」と繰り返しているが、それは決して特殊なものではない。それどころか、車社会のアメリカでも、大抵の使用法ならEVの航続距離で十分対応できる。
筆者は1980年代にシリコンバレーに6年間住んだことがあり、車でマウンテンビューの自宅からメンロパークの会社まで通勤していた。
片道20数kmなので1日の走行距離はせいぜい50kmである。その時代に「ビートルEV」があれば問題なく使えたわけだ。
出先での給電はどうするか
筆者のような使い方でも、年に数回程度は遠出をすることがある。その時は現在の「ビートルEV」の航続距離では間に合わない。長野市、松本市、高崎市などに行く必要がある時だ。
そういう場合には「やむを得ず」ガソリン車を使っている。
本当はEVを使いたいので、次回の車検の機会に急速充電器を装備しようと思っている。何しろ改造EVなので、そういう装置の後付けは簡単だ。
さて、ここまでは筆者の実際の使用スタイルに基づく話だが、EV100%を目指す時代には多くのドライバーの多様なニーズに合わせる必要がある。
急速充電でも遅すぎるというユーザーに対しては、現在の数倍速での給電を提供することが必要だろう。
現在の技術でも問題なく5分以内に給電する方法がある。
それが電池交換方式であり、筆者は、これこそ最適の給電方法と考えてきた。
「電池交換方式」は有効か?
筆者が、電池交換方式がベストと考えてきたのは、EVについて研究し始めた時点では、それが一番合理的な給電方法と思えたからだ。
筆者がアメリカのコンサルティング会社の日本代表を務めていた1997年のことである。
その年にGMが電気自動車「EV1」のリース販売を開始し、筆者はEVの将来性について検討を始めたのだ。
当初「EV1」に採用された電池は鉛蓄電池のみだった。
後にニッケル水素電池バージョンが追加されるまでは、最大航続距離160kmを実現するために搭載された電池の重量は実に約600kgもあった。
正に「走る電池」そのものだったのだ。
コンパクトサイズのEVを想定すると、電池重量は200kgに抑えたいのだが、それでは50km程度しか走れないことになる。
そこで、私の研究グループで考えたのが電池交換方式というわけだ。
50km(実際には安全をみて30~40km程度)走るごとに、交換所で充電済みの電池と交換する。
非常にせわしないが、当時としてはその方法しかないと考えた。
こういう歴史があるので、筆者の電池交換方式への想いには年季が入っている。
その後リチウムイオン電池が実用化され、今やEVの航続距離は400km以上が当たりまえの時代となった。
充電方法も、急速充電を経て、すでに「超急速充電」が使われ始めている。
そういう時代にも、電池交換方式は有効だろうか。
急速充電の問題の一つとして、現在のリチウムイオン電池では、あまり使いすぎると電池の寿命を短くしてしまうことがある。「超急速」ならなおさらだ。
そういう超急速の充放電にも耐えられる電池として期待されているのが全固体電池だが、多くの企業が開発にしのぎを削っているものの、数年以内に実用化されるかどうかはまだ不明だ。
以上、まとめると、まず、日常の使用には自宅での充電が基本であり、出先での給電には、全固体電池が実用化されれば「超急速充電」、それが実現しなければ電池交換方式がベスト、ということではないだろうか。
村沢義久(むらさわ・よしひさ)
1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。