国際・政治写真で見る今年の上海モーターショー

48万円から530万円の高級路線まで登場した中国EVを迎え撃つトヨタ、ホンダ

50万円を切る中国のEV「宏光」はオープンカーを発表し話題に(2021年4月の上海モーターショー)
50万円を切る中国のEV「宏光」はオープンカーを発表し話題に(2021年4月の上海モーターショー)

 中国・上海市で4月に開催された中国最大級の自動車展示会「上海モーターショー」では、中国で電気自動車(EV)の販売が伸びる中、各メーカーが最新モデルを出展。1台50万円を切る超小型EVが注目を集めるなど、価格の多様化が鮮明になった。

人民の足となった宏光は48万円

 とりわけ存在感を放っていたのが、中国自動車大手の上海汽車集団と米ゼネラル・モーターズ(GM)の合弁会社、上汽通用五菱汽車が展開する超小型EV「宏光ミニEV」シリーズだ。

 宏光ミニEVは昨年7月に「人民的代歩車(人民の足)」をキャッチコピーに売り出され、1台2万8800元(約48万円)という低価格から一躍人気車種となった。

 上汽通用五菱汽車は上海モーターショーで、宏光ミニEVをベースにしたオープンカー「宏光ミニEV CABRIO」を発表した。宏光ミニEV CABRIOは2022年にも量産が始まる見通しだ。

宏光ミニEVの特別仕様車「マカロン」(2021年4月の上海モーターショー)
宏光ミニEVの特別仕様車「マカロン」(2021年4月の上海モーターショー)

48万円のミニEV宏光は6割以上が女性の購入

 宏光ミニEVはかわいらしいデザインで若い女性からも人気を集める。中国メディアによると購入者の6割以上が女性で、世代別では1990年生まれ以降が72%を占めるという。

 上海モーターショーでは宏光ミニEVの特別仕様車「マカロン」も展示。販売価格は3万7600元(約63万円)からで、発売開始から10日で4万5,000台を受注したという。

中国でも人気のテスラモデル3(2021年4月の上海モーターショー)
中国でも人気のテスラモデル3(2021年4月の上海モーターショー)

テスラを抜き27万台を売った宏光

 中国自動車産業の業界団体、全国乗用車市場信息聯席会(CPCA)がまとめた中国の「新エネルギー車」の単月販売台数統計によると、宏光ミニEVは発売から2カ月後の2020年9月にトップに躍り出て以来、6カ月連続で米テスラの「モデル3」を抜いて首位を維持している。累計販売台数は27万台を突破した。

 なお、中国の新エネルギー車はEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を指し、ハイブリッド車(HV)は含まない。

長城汽車のブースに展示された小型EV「欧拉好猫」。若い女性が乗り込んで写真を撮っていた(2021年4月の上海モーターショー)
長城汽車のブースに展示された小型EV「欧拉好猫」。若い女性が乗り込んで写真を撮っていた(2021年4月の上海モーターショー)

120万円の人気モデル「欧拉」を投入した長城汽車

 中国自動車メーカーの長城汽車も、2018年に立ち上げた新エネルギー車ブランド「欧拉(ORA)」シリーズの人気モデルを多数展示した。欧拉シリーズの小型EV「欧拉黒猫」は販売価格が6万9,800元(約120万円)からと低価格で人気を集める。女性を主力ターゲットに据えた小型EV「欧拉好猫」も出展し、ブースには若い女性の姿が目立った。

東風汽車集団のEV新ブランド「嵐図」の第1弾モデル「嵐図FREE」(2021年4月の上海モーターショー)
東風汽車集団のEV新ブランド「嵐図」の第1弾モデル「嵐図FREE」(2021年4月の上海モーターショー)

530万円の高級EVを投入した東風

 格安モデルが注目を集める一方、中国の自動車大手も高級EVの新モデルを相次いで投入している。

 東風汽車集団は昨年7月に立ち上げたばかりの高級EVブランド「嵐図」の第1弾モデル「嵐図FREE」を公開した。予約販売価格は31万3,600元(約530万円)から。

 嵐図FREEは車内カメラを活用し、運転手の顔情報を認識しそれぞれにあったシートポジションを自動調整するシステムや、子どもが乗車した際に自動的にロックする機能など20種類のスマート機能を搭載している。

浙江吉利控股集団傘下の高級EVブランド「ZEEKR」の第1弾モデル(2021年4月の上海モーターショー)
浙江吉利控股集団傘下の高級EVブランド「ZEEKR」の第1弾モデル(2021年4月の上海モーターショー)

「アップルに対抗」吉利のZEEKR

 中国自動車大手の浙江吉利控股集団は、高級EVブランド「ZEEKR」の第1弾モデルを展示した。価格は28万1,000元(約470万円)からに設定した。

 吉利の安聡慧最高経営責任者(CEO)は海外メディアの取材に、ZEEKRはEV開発計画を進める米アップルや小米(Xiaomi)といったテック企業と競争を繰り広げるだろうと話している。

トヨタが世界初公開した新型EVのコンセプトカー「bZ4X」(2021年4月の上海モーターショー)
トヨタが世界初公開した新型EVのコンセプトカー「bZ4X」(2021年4月の上海モーターショー)

トヨタは新EVのコンセプトカーを初披露

 日系メーカーも中国のEV市場で攻勢をかける。

 トヨタ自動車は新EVシリーズ「トヨタbZ」の第1弾モデルとなるコンセプトカー「bZ4X」を世界初披露した。2025年までに世界でbZシリーズ7車種を含むEV15車種をそろえる計画も明らかにした。

 トヨタは中国で、EV大手の比亜迪(BYD)と共同開発による中国専用モデルも計画している。中国では25年までにEV、HV、PHV、FCVを合わせた電動車を20車種以上投入する方針だ。

ホンダは中国初となるホンダブランドのEVのプロトタイプモデルを披露(2021年4月の上海モーターショー)
ホンダは中国初となるホンダブランドのEVのプロトタイプモデルを披露(2021年4月の上海モーターショー)

ホンダは22年発売のプロトタイプを発表

 ホンダは、中国初となるホンダブランドのEVのプロトタイプモデル「ホンダSUV e:プロトタイプ」を世界初公開し、中国市場で22年春をめどに発売すると発表した。将来的には世界販売も視野に入れる。

農村部でのEV普及を打ち出した中国政府

 中国政府は、新エネルギー車が新車販売に占める割合を2025年までに20%前後に引き上げる目標を掲げている。

 中国の新エネルギー車の新車販売台数は2020年に136万7000台と過去最高を記録したが、新車販売全体に占める割合は5.4%にとどまっている。

 普及の鍵を握るのが、農村部での販売拡大だ。

 中国メディアによると2020年に全国で販売された新エネルギー車の乗用車のうち半分近くが上海や北京など所得水準が高い10都市に集中し、地方では数台にとどまる都市も少なくない。

 中国政府は農村部での新エネルギー車の普及を後押しするため、昨年7月からメーカーや地方政府を巻き込んで普及促進策を展開。政府主導のインターネット通販の販促イベントへの参加などを促し、農村消費者に新エネルギー車を売り込むもので、低価格で人気の上汽通用五菱汽車の宏光ミニEVや長城汽車の欧拉黒猫は2年連続で対象モデルに選ばれた。

 中国自動車工業協会は今年、新エネルギー車市場が180万台に拡大すると予想している。政府の強力な後押しもあり、中国の新エネルギー車市場は今後も拡大を続けそうだ。

(吉野あかね・NNA中国編集部)

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