トヨタ、ホンダも提携する中国の自動運転、上海モーターショーでファーウェイ、バイドゥ、ドローン大手DJIが参入
中国最大級の自動車展示会「上海モーターショー」が、上海市で4月19日に開幕した。国内外の自動車大手が電気自動車(EV)を中心に展示するなか、ひときわ目立ったのがファーウェイ(華為技術)やバイドゥ(百度)といったIT大手の異業種からの参入組だ。自動運転など先端技術に強みを持つIT勢の参入で、中国で繰り広げられる「EV戦国時代」の競争はさらに加速しそうだ。
ファーウェイは北京汽車と提携し自動運転
通信機器大手のファーウェイは自社のブースに、中国自動車大手、北京汽車集団傘下のEVメーカー、北京新能源汽車が発売した「ARCFOXαS(極狐阿爾法S)HI版」を展示した。HIは「ファーウェイ・インサイド」の意味で、ファーウェイの自動運転ソリューションを採用した車両だけがHIロゴをつけることができるという。
ARCFOXαSのHI版には、自動運転車の「目」となる次世代光センサー「LiDAR(ライダー)」が3つ、ミリ波レーダーが6つ、カメラが12個搭載され、1秒間に400兆回の演算能力(400TOPS)を持つファーウェイ製チップが採用されている。
完成車はつくらないファーウェイ
ファーウェイは、完成車をつくらずにソフトウエアや部品で自動車分野に参入する方針を示している。
同社の徐直軍・輪番会長は3月に開いたグローバルアナリストサミットで、「車両を作らない代わりに、より優れた車両の生産を支援していく」と話し、パートナー企業がHIロゴを持つサブブランドを構築できるように支援するとの戦略を示している。
自動運転体験モニターを展示したバイドゥ
上海モーターショーに初めて出展したインターネット検索中国最大手のバイドゥは、自動運転ソリューション「アポロ・ナビゲーション・パイロット(ANP)」や自動駐車システム「アポロ・バレー・パーキング(AVP)」といった技術を紹介。ブースにはANPの技術が体験できる大型モニターと運転席が設置され、来場者の注目を集めていた。
バイドゥの自動運転はWMモーターに搭載
中国の新エネルギー車(NEV)ベンチャー、威馬汽車科技集団(WMモーター)は、バイドゥのAVPを搭載したEVの新モデル「W6」を展示。W6は駐車スペースを検出して自動で駐車したり、駐車スペースから自動で離れたりすることができるという。
バイドゥによると、独自開発した自動運転システムプラットフォーム「アポロ」の技術を搭載した車両は、今年後半から毎月1車種発売される見通しだ。
バイドゥは地図アプリの技術をEVにも投入
バイドゥはEVの生産にも乗り出している。中国自動車大手の吉利汽車とEVの新会社を3月に立ち上げ、開発する新たなEVにはアポロのほか、地図アプリ「百度地図」といった技術を活用する方針だ。
ちなみにこの吉利汽車は、中国最大の民営自動車である浙江吉利控股集団の傘下企業。浙江吉利控股集団はスウェーデンのボルボ、英ロータスやマレーシアのプロトンなど複数の自動車メーカーを傘下に持ち、独ダイムラーにも出資している。
ドローン世界大手のDJIも自動運転に参入
ドローン(小型無人機)世界大手の深セン市大疆創新科技(DJI)が立ち上げた自動運転技術などの新ブランド「大疆車載」は、自動運転ソリューション「D80」シリーズ、「D130」シリーズなどを出展した。D80シリーズは時速80キロメートルまでの走行に対応。D130シリーズは時速130キロまでの走行に対応し、高速道路などでの運転に適しているという。
ドローンのソフトウエア技術を生かして、コア部品となる視覚センサーやスマートドライブコントロールなどの開発も手掛ける。
DJIは米GM系の五菱汽車と共同開発
同社は2016年に自動運転の開発チームを立ち上げ、19年から自動車メーカーへの売り込みを進めてきたといい、大手メーカーとの協業も進めている。
上海モーターショーでは、中国自動車最大手の上海汽車集団と米ゼネラル・モーターズ(GM)の合弁会社、上汽通用五菱汽車が大疆車載と共同開発を進める「新宝駿」ブランドのEVコンセプトモデルを披露。年内にも量産、発売を実現すると発表した。
2025年までに自動運転5割の普及を目指す中国
中国では自動運転をはじめとする新技術の開発が進む。中国政府によると、乗用車の自動運転技術の普及率は昨年、「レベル2」(ハンドルなど複数の操作を部分的に自動化する運転技術)水準で15%に達した。
政府は25年までに一定の条件下で自動運転する車の普及率を5割まで高める工程表を示す。
中国の業界団体は、25年に中国国内で発売される新型車のうち、自動運転技術の「レベル3」(一定条件下でシステムが走行を担う運転技術)に対応する車種は全体の7割に達すると見通している。
そこに目を付けたのが、ソフトウエア技術に強いIT企業だ。 EV製造への参入や自動車メーカーとの提携も急速に広がっている。
スマホ世界最大手のシャオミーもEVに参入
中国メディアによると、スマートフォン世界大手の小米科技(Xiaomi)は3月、EV事業の全額出資子会社を設立すると発表。初期投資額100億元(約1,660億円)に加え、向こう10年で100億米ドル(約1兆円)を投じる青写真を描く。中国配車サービス大手「滴滴出行」は昨年11月、EV大手の比亜迪(BYD)と共同開発したEVの配車サービス専用車「D1」を発表した。
トヨタ、ホンダも中国の自動運転スタートアップと提携
日本の自動車メーカーも、中国IT企業の自動運転技術に触手を伸ばしている。
中国のスタートアップ企業、小馬智行(ポニー・エーアイ=Pony.ai)は19年8月、トヨタ自動車と自動運転分野で提携すると発表し、20年2月にはトヨタから約4億米ドル(約430億円)の出資を受けたと明らかにした。
ホンダは今年4月、中国スタートアップ企業の深セン裹動智駕科技(オートX)と中国の公道での自動運転車両の走行実験で提携すると発表。オートXの「レベル4」(走行を特定の条件下で完全自動化する自動運転技術)の技術を用いるという。
EVと親和性が高い自動運転は、公道で大胆な実験ができる中国が大きく先行しており、世界を大きく引き離し始めたようだ。(吉野あかね・NNA中国編集部)