京阪バスが中国BYDと組んで全国初のEVバスを運行するワケ
京都市に本社を置く京阪バスが、日本のバス会社としては初となる一路線全てのバスを電動化する、という大胆な方針を打ち出した。採用したのは中国のBYD製EVバスで関西電力も協力する。
対象となるのはステーションループバスと呼ばれる京都駅と七条京阪、梅小路ホテルエミオン京都前を結ぶ路線だ。
4台のEVバスが15分間隔で運行
この路線はJRと京阪電鉄駅(周辺に京都市立博物館、三十三間堂などの観光名所がある)、梅小路(京都鉄道博物館、水族館など)を結ぶことで観光をより便利にするもので、現在4台のバスが15分間隔で運行しているが、早ければ今年中にこの4台のバスを全てEVに置換する予定だという。
関西電力もエネルギーマネジメントで協力
パートナーとなるのはBYDジャパン、関西電力で、3社は2月24日にEVバス導入に関わる業務提携を結び、記者発表を行った。
京阪バスはEVバス導入とそれに伴う乗客の乗り心地への反応、CO2削減効果の確認、エネルギーマネジメントに関する運行データの収集を行う。
関西電力は京阪バスによって得られた運行データ活用、充放電タイミングの最適化、複数のEVバス導入による最適エネルギーマネジメントシステム構築、適正価格での安定的充電器等の供給を担当。
BYDは日本全国に4000台のEVバス展開が目標
そしてBYDジャパンは適正価格での安定的なEVバスの供給、技術的サポート、最適な運行や充放電の検証に必要な車両データや走行実験実績データの提供などを行う。
BYDはすでに日本各地で53台のEVバスを納入しているが、世界に先駆けてEVバスを導入した米カリフォルニア州では現地にバス製造とバッテリー工場を建設するなど、積極的な世界戦略を推進している。
BYDジャパンの花田晋作副社長は、会見で「日本国内に2030年までに4000台のEVバスを展開する」という野心的な目標を掲げている。
関西電力も営業本部副本部長の藤野研一執行役員が会見に出席、今後のEVバス導入拡大に向け、EVバスが標準化した際の最適運用の検証などを行い、将来には自動運転やオンデマンド技術にも対応する、としている。
創業100周年に向け脱炭素に舵を切った京阪バス
京阪バスはグループ会社に京阪電鉄などを有し、京都、大坂、滋賀で交通インフラを提供する。来年創業100周年を迎え、現在の保有路線は定期観光バスや長距離バスなどを合わせると80以上、保有するバスは628台に及ぶ。
今回、他社に先駆けて一路線すべてを電動化する、と決定した理由について、同社の経営企画室課長、大竹口淳氏は「やはり国も脱炭素を掲げる中、CO2排出量を減らし環境問題にも積極的に取り組む企業、という姿勢を打ち出す必要性があると感じた」ためだと語る。
充電なしで1日の運行が可能なBYDのEVバス
導入されるのはBYD社のJ6という29人乗りの小型バスで、1回の充電で200キロ程度の走行が可能だという。ステーションループバスの場合、1日当たりの1台の走行距離は130キロ程度であるため、充電する必要なく1日の運行が可能となる。
京阪バスのICT推進部兼経営企画室係長、大久保園明氏は、BYDの車両に決定した経緯について、「世界中のEVバスメーカーを比較検討した結果、価格、性能、メンテナンスなど全ての面でBYD社が優れている、と判断した」と語る。
BYDのバスの価格は日本の4分の1
J6の価格は1両あたり1950万円ほどだが、日本製のEVバスだとコストが4倍近い。さらにすでに中国や米国をはじめ世界中で運用されているため、メンテナンスのノウハウでもBYDに一日の長がある。
この価格が実現できるのは、BYDがバスだけではなくEV乗用車などでもテスラと競う世界一の販売台数を誇り、部品からバッテリーまで大量生産かつ自社で製造する、という企業構造であるためだ。ワンストップでEVの製造が行える数少ない企業なのだ。
エネルギーコストもディーゼルバスの3分の1以下
京阪バスが現在使用しているのはディーゼルバスだが、エネルギーコストを比較するとEVバスが年間40万円程度であるのに対し、ディーゼルは143万円となり、2年運用すればEVのコストが全体で下回る。
メンテ費用も安く耐用年数は18年
またEVは内燃機関の車に比べて部品数が少なく作りがシンプルであるため、メンテナンスコストも低く抑えられる。京阪バスではEVの耐用年数を18年と見込んでいる。
水素ステーションは高すぎる
ちなみに水素(FC)バスの導入については、やはり水素ステーションの建設費がネックになる、ということだ。
現時点で水素ステーションを自費で建設すると1基あたりのコストは1億円程度、メンテナンスのノウハウも得にくい。しかし敢えて急速充電を避けることで、バッテリーのチャージステーションは500万~1500万円程度で建設が可能だという。
EVバスで広がるMaaSへの展開
EV導入により新たなビジネスチャンスも広がる。
例えば充電ステーションだが、バスを充電する必要があるのは夜間だけであるため、昼間に一般のEVユーザーに開放することも考えられる。
京阪バスの大久保氏は「MaaS(Mobility as a Service=マース)推進の観点から、例えば顧客に自分のEVで弊社のチャージステーションに来てもらい、そこからバスで通勤してもらう。帰るまでに車の充電が完了している、というようなサービス提供も可能」と語る。
ちなみにMaaSとは、電車やバス、飛行機など複数の交通手段を乗り継いで移動する際、スマホなどから検索、予約、支払を一度に行えるようにするサービスで、都市部の交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの解決に役立つと期待されているサービスだ。
将来はEVメンテサービスへの参入も
また、EV向けのメンテナンスサービスへの参入も視野に入る。導入初期はBYDに依頼することになるが、バス会社だけに自社のメンテナンス部門もあるため、技術を徐々に移転してもらい、自社でEVメンテナンスサービスを行うことも可能となる。チャージステーションやサービスステーションは、EV普及の鍵となるインフラでもあり、一般向けにこうしたサービスを提供できるメリットは大きい。
EVバスが届けるコンビニ、医療、行政サービス
さらにそこから一歩進め、「EVバスと嬉しいサービスが自宅近くにやって来る」という新しいバス&サービスの概念も生まれる、と語るのは大久保氏だ。
EVバスの蓄電という機能を活かし、コンビニ、医療、行政サービスをバスと合体させる、というものだ。
例えば今後広まるはずのコロナワクチンが、移動手段の少ない高齢者コミュニティにバスとしてやってきて接種を受けられる、といったことが考えられる。
京阪バスはイノベーションのアイデアを募集中
このようなイノベーションのアイデアは常に募集中であり、意見や関心があれば是非とも連絡してほしい、と大久保氏は語る。京阪バスのホームページはwww.keihanbus.jp。
将来は自動運転によるサービス提供も
京阪バスが見据えているのは、EV化だけではなく自動運転によるバスサービスの提供だ。すでに同社は滋賀県大津市と提携し、2018年から自動運転バスの実証実験を続けている。昨年には7−9月にかけて緑ナンバーで実際に乗客を乗せる実証実験も行われた。
その結果、技術面や安全面などの課題も浮上し、当初の目標だった2020年からの実用化はコロナの影響もあり見送られた。しかし今後も実現に向けた努力は続けられる予定で、もしかしたら京都市が日本初の自動運転EVバスを実現する都市になるかもしれない。
(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)