経済・企業

テスラを脅かす第4の刺客「Canoo」が目指すのはEVキャンピングカー!?

米Canooが発表したEVピックアップトラック。多目的が特徴(同社の動画より)
米Canooが発表したEVピックアップトラック。多目的が特徴(同社の動画より)

 今年後半に発売が予定され、すでに60万台の予約が入るテスラのピックアップトラック、サイバートラック。しかし60万台を売ったところでピックアップトラップでトップを狙えるのはまだまだ先だ。さらにテスラの地位を脅かす新興EVメーカーがどんどんあらわれている。日本人には馴染みがないかもしれないが、テスラの地位を脅かす新興EVはすでに3社が注目を集めているが、そこに第4の刺客が登場し、米国の自動車メディアでいま話題になっている。3月11日にロサンゼルスで初めてメディアの前に登場したカヌー(Canoo)だ。仕事も遊びも楽しめるEVピックアップトラックを標ぼうし、市場の話題をさらっている。

テスラの前に現れたライバル3強

リビアンのSUV「R1S」(手前)とピックアップトラック「R1T」=リビアン提供
リビアンのSUV「R1S」(手前)とピックアップトラック「R1T」=リビアン提供

 テスラにとって最大のライバルになりえる、と言われているのがミシガン州に本社を持つリビアンだ。同社はピックアップトラックとSUV(スポーツ多目的車)の2つのモデルに特化した新興EVメーカーで、フォードが出資するなど実車の発売前から大きな話題を集めている。

 次に、ゼネラルモータースが出資するローズタウン。こちらもEVピックアップに特化したメーカーで、2022年にもエンジュランスというトラックを発売予定だ。

GMがバックアップするローズタウン社のピックアップ、エンジュランス。(提供ローズタウン)
GMがバックアップするローズタウン社のピックアップ、エンジュランス。(提供ローズタウン)

 そして、米国のEVメーカーの草分けとしてテスラと競い合っていたフィスカー・オートモティブも、フィスカーとして再生し、2022年にSUVモデルのオーシャンを発売予定だ。

フィスカー社のEV、オーシャン
フィスカー社のEV、オーシャン

 しかもオーシャンと同じプラットホームを使い、ピックアップトラックも発売予定としてデザインスケッチを発表している。フィスカーは実車発売前にもかかわらず企業の時価総額が8000億円に到達するなど、期待度の高い企業だ。

 もちろんGM、フォードもそれぞれのピックアップトラックの電動化を発表しており、これら新興メーカーと既存メーカーがテスラを追い上げる形になっている。

フィスカーのEVピックアップ(ヘンリック・フィスカーがツイッターで公開)
フィスカーのEVピックアップ(ヘンリック・フィスカーがツイッターで公開)

ロサンゼルスのモーターショーに登場したカヌー

 そこに新たに参入したのが、ロサンゼルスに本拠地を置く新興メーカー、カヌー(Canoo)である。

 カヌーは3月11日に開催されたロサンゼルスのモータープレスギルド(MPG)が行ったプレスイベントで、初めてその全容を明らかにした。

 このプレスイベントはロサンゼルスオートショーと連係したもので、昨年コロナのため延期となり、最終的に取りやめとなったショーを補うものとして、ローカルのプレスギルド主催でバーチャル記者会見が行われ、トヨタもFCVミライなどを発表した。 カヌーは韓国の現代自動車と提携しEV用プラットホームの制作に乗り出すなど積極的な姿勢を見せており、これまでバンタイプとデリバリーバンのEVを発表していた。

米新興EVメーカーCanoo社のCEO、トニー・アキーラ氏(同社の動画より)
米新興EVメーカーCanoo社のCEO、トニー・アキーラ氏(同社の動画より)

仕事から遊びまで多目的に使える車

 今回のピックアップトラックはそれらから派生した形だが、同社CEO、トニー・アキーラ氏はこの車を「仕事から遊びまで、多目的に使えるように様々なアクセサリーを用意した、誰もが楽しめる車」と説明する。

 例えば荷台部分は6フィート(約180センチ)だが、リア部分を倒すとエクステンションができ、8フィートにまで広げられる。仕事で利用する人にとっては積載能力を増やすことになり、さらにエクステンションを利用している時もテイルランプがはっきりと見えるため安全に運転できる。

 またフロント部分にカーゴスペースが用意されており、仕事のツールなどを収納できる。

荷台を倒せばテーブルに早変わり

 遊びに利用する人に便利なのは、荷台の側面部分を倒すとテーブルに早変わりする、という機能だろう。もちろん仕事用の作業デスクにもなる。また側面にはプルアウト式のステップが内蔵されており、荷台へも簡単に移動できる。

 このほかにも様々な機能があるのだが、最も注目されたのは、キャンピングカーに早変わりするキットも別売で用意されている、という点だ。

別売のオプションキットによりキャンピングカーに変身する米CanooのEVピックアップトラック(同社の動画より)
別売のオプションキットによりキャンピングカーに変身する米CanooのEVピックアップトラック(同社の動画より)

2023年から発売する「理想的なキャンピングカー」

 Canooは従来のEV技術の核となるパワーユニットとショックタワー、メカニカルステアリングコラムなどを組み合わせた部分が、独自技術によって非常に薄いプラットホームを可能にしている。そのため内部スペースに余裕が生まれ、様々な機能を持たせることが可能となっている、という。

 1回の充電当たりの航続距離は200マイル(約320キロ)以上で、早ければ今年4月以降に予約受付を開始し、2023年からの発売を目指している。単にピックアップというだけではなく、キャンピングカーとしてもすぐれた機能を持つ車は、米国社会ではヒットとなる可能性は高い。

 ちなみに通常のキャンピングカーはキッチンやシャワー利用のためにジェネレーター(発電機)を搭載しているのが普通だが、EVにはその必要がなく、蓄電されたエネルギーでキャンピングカーとしての電力を供給することもできるため、理想的なキャンピングカーとなるのでは、という見方もある。

テスラのサイバートラック。65万台の注文が入るなど、抜群の人気。(提供テスラ)
テスラのサイバートラック。65万台の注文が入るなど、抜群の人気。(提供テスラ)

60万台売っても手を抜けないテスラ

 ピックアップトラックはベストセラーカーだが、テスラがサイバートラックで60万台を売り上げてもトップはまだまだはるか先だ。

 昨年のピックトラップの売り上げ第1位はフォードFシリーズピックアップ、2位がシボレー・シルバラード・ピックアップ、3位がダッジラム・ピックアップとトップ3をトラックが占める。4位と5位がSUV(スポーツ多目的車)で、乗用車は6位のトヨタ・カムリがトップとなる。

 これだけの大きな市場だけに、既存のメーカーから新興メーカーまで、様々な企業がEVピックアップトラックの開発競争を繰り広げている。

後発ほどユニークになるEVピックアップトラック

 テスラのサイバートラックはユニークなデザインで人々の耳目を集めたが、カヌーのような斬新な機能性は用意されていない。 後発のメーカーがそれぞれの特色を打ち出したEVピックアップトラックを発表する中で、テスラはその優位性を保つことができるのか。EVピックアップ競争はまだ始まったばかりだ。

(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

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