タワーマンション 浸水の武蔵小杉は減免なし 高層階「増税」は限定的=編集部
眺望や利便性の高い立地、そして何より資産価値が落ちにくいとして人気を集めるタワーマンション。新型コロナウイルス禍の中でも、高値での取引が続いている。しかし、そんなタワマンも災害リスクと無縁ではない。2019年10月の台風19号では、川崎市のJR・東急武蔵小杉駅近くにあるタワマン地下に浸水し、全棟停電した。では、タワマンが被災した場合の固定資産税はどうなるのだろうか。
固定資産税では、火災や風水害、地震などによって土地や家屋、償却資産が被害を受けた場合、市町村(東京23区は東京都)の条例で、建物の一定割合が被害を受けたことを条件に減免する制度が設けられている。地域一帯が広範囲に被災する大規模災害であれば、市町村が自発的に調査したうえで減免措置を講じてくれることもあるが、そうでなければ納税者側が減免を申請することが必要だ。
武蔵小杉のタワマンでは、多摩川の水が排水管から逆流し、マンション周辺が浸水。地下の電気・機械設備が停電し、給排水機能やエレベーターが止まった。ただ、川崎市によると、被災したタワマンについては、被災の程度が条例の割合に達しなかったために減免措置は適用しなかった。一方、被災の程度が激しかった戸建て住宅などについては、罹災(りさい)証明の発行申請を基に市側が被災の程度を確認し、減免措置を適用したという。
災害を受けた固定資産は、減免のほかに評価額を減額補正する対応もありうる。総務省が全国一律に定める「損耗減点補正」で、損壊や腐朽した部分はその分、価値を引き下げて税額も減らす。しかし、故障した機械を修理すれば損壊した部分はないとして、損耗減点補正は措置されない。被災したタワマンはほどなく修理したため、損耗減点補正はされなかった。
一方、川崎市のケースでも、修理のメドがつかない部分がある被災家屋には、損耗減点補正をして評価額を引き下げた。税額の減免は被災した年度のみにとどまるが、損耗減点補正は被災した翌年度の評価額に反映され、税額も引き下げられる。こうした損耗減点補正についても、大規模災害でない限りは納税者が自ら市町村に申告して反映させたい。
相続「節税」への影響は
タワマンの固定資産税制を巡っては、18年度分から大転換が実施された。17年1月以降に新築された高さ60メートル超(約20階建て以上)の物件について、高層階ほど家屋の固定資産税額を高くする制度が導入されたのだ。固定資産税の家屋の評価上は、家屋全体の評価額を区分所有者が持つ床面積で単純に案分するため、高層階も低層階も床面積が同じなら、評価額・税額ともに同じになっていた。
しかし、タワマンは一般的に、眺望のいい高層階ほど資産価値は高い。資産価値が相対的に低い低層階との税負担のバランスを是正するため、税制改正によって高層階ほど税額が高くなるようにする「階層別専有床面積補正率」を導入した。タワマン1棟全体の家屋の固定資産税額は変えず、あくまで階層に応じて案分の仕方を変える補正だ。
ただ、この改正による高層階と低層階の税額の差は、実際はさほど大きくない。40階建てのタワマンなら、最上階の部屋の固定資産税は、1階に比べて1割ほど増えるにとどまっている。 また、高層階ほど家屋の固定資産税評価額を高くするような改正にも踏み込んでいない。
家屋の固定資産税評価額は相続税の申告にも使われ、タワマン高層階の場合は時価に比べて固定資産税評価額が大幅に低くなりがちなことから、相続税の節税目的でタワマンを購入する“タワマン節税”も広まった。国税庁は相続税評価額と時価に著しい乖離(かいり)がある場合は、相続税評価額での申告を認めない方針で臨んでいるが、高層階ほど固定資産税評価額も高くするような改正が実現すれば、相続税などにも大きな影響が及ぶ。
(編集部)