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WWS〝スーツに見える作業着〟考案の東大卒女性社長(35) 「仕事帰りにデートに行ける!」

「サンデー毎日6月6日号」表紙
「サンデー毎日6月6日号」表紙

 一見するとスーツに見えるが、毎日洗濯できる素材を使う「WWS」というブランドがある。水道工事の作業服として始まり、今はサラリーマンも買う。4月28日には東京・新宿に路面店を出店した。WWSを考案し、企画・販売する会社の中村有沙社長(35)に聞いた。

〝アパレル界のアップル〟目指す

――「スーツに見える作業着」が話題です。

「ワークウェアスーツ(WWS)」と名付けて、2018年に販売を始めました。当時、私と新卒社員の4人でスタートした会社「オアシススタイルウェア」は、今ではフラッグシップストア新宿(東京都新宿区)、八重洲地下街店(中央区)、西宮ガーデンズ店(兵庫県西宮市)、天神地下街店(福岡市中央区)と、四つの常設店を構え、社員は30人。お陰様で昨年の年商は9億3000万円でした。

――中村さんは元々アパレルに興味が?

 いいえ、全く(笑)。それどころか、どちらかといえば服にもおしゃれにも無頓着でした。そんな私が「なぜ社長を?」ですよね。

――なぜですか。中村さんが新卒で11年に入社したグループ会社の「オアシスソリューション」は水道工事業の会社。こちらもアパレルに関係がありません。

 なぜオアシスソリューションに入ったのかということからお話ししますね。大学(東京大経済学部)の同期生のほとんどは中央省庁や大手企業を目指しました。私は社員全員の顔が分かるような規模のところで働きたかった。それも生活に密着した仕事を選びたかったんです。

――それで水道工事を?

 驚きますよね。両親も「社名が知られていない会社になぜ行くのか」と反対しました。でも(関谷有三)社長が言う「世界一やりたいことができる会社」というビジョンに共鳴したんです。例えばサイバーエージェントやリクルートは就職先として人気がありますが、すでに規模が大きい。私は小さな会社に入って、大きな会社になった暁に「創業時からいた」と言ってみたかったんです。「オアシスソリューションなら叶(かな)うかもしれない」と思いました。

――営業職を志望したそうですね。

 実は大学時代、自分でも嫌になるくらい、人と話すのが苦手でした。人生、損してますよね。営業職になれば、社会でもまれて鍛えられるんじゃないかって。

――話し下手では就職活動に苦労したのでは?

 私の場合、何度目かの面接で、大抵、経理部長が出てきたんです。「この会社は私を営業として取るつもりはないな」と分かりました。ところがオアシスソリューションだけは「じゃあ、営業でウチへおいでよ」と言ってくれた(笑)。

――現場で大変だったでしょう。

「東大出の女性が営業職で入った」と注目されていたみたいです。でも全然だめ。現場ではカチコチで「ロボットみたいだな」と言われていました。

――しかし入社3年目で、年間営業成績1位になる。

 皆さんがいろいろ教えてくれました。商談をする前の話題をどうするか、どこで笑うか、そんな細かいところまでシミュレーションして鍛えてくれたんです。

――中村さんも作業着を着て現場に?

 紺のツナギでした。男性用のS(サイズ)を着て、袖と裾をまくっていました。その時のことが、WWSにつながりました。

 ある日、作業着姿で自転車に乗って現場に向かっていたら、大学の同級生に偶然会ったんです。向こうは丸の内の金融機関に勤め、上下スーツ姿。自分の格好を急に恥ずかしく思ってしまいました。

 入社5年目の時、会社に人事の専門部署がないことに危機感があって、社長に必要性を直訴したんです。「ならやってみろ」の鶴の一声で人事部を設立することになりました。人事部の仕事をして気づいたのは、若手技術者の採用が難しいことでした。その時、同級生と出くわして恥ずかしくなった記憶、現場の技術者から「作業着じゃ仕事が終わってから飲みに行けない」と聞いた記憶がよみがえりました。そこで思ったんです。「だったら私が格好いい作業着を作ったらどうだろう」。コンセプトは「作業着のまま、デートに行ける」でした。

 最初はユニホーム業者の作業服を取り寄せ、検討しました。でもデートに行ける作業着じゃない。悩むうちに、「スーツのような作業着なら」とひらめき、自分たちで作ることにしました。アパレルの会社に試作品を依頼して、できたものを現場の人に着てもらう。トライアル・アンド・エラー(試行錯誤)の繰り返しでした。

――先ほど製品を試してみました。動きやすいですね。

 作業着ですから、動きやすさに一番こだわりました。もう一つは水道工事に使えるよう、水を弾(はじ)くこと。毎日洗え、アイロン要らずです。現場ではポケットに工具を入れますから、上下12個のファスナー付きポケットを用意しました。細部にもこだわったせいで、完成まで1年半かかりました。

――最初は売ることを考えていなかったそうですね。

 うち(オアシスソリューション)の作業員が現場に着て行ったら、三菱地所などの取引業者から「うちでも採用したい」とお話をいただいて。「それほどご要望があるなら製品として世に出そう」となりました。

 人事部設立の時と同じく、社長に「言い出したのだから最後までやってみなさい」と言われ、17年に新会社「オアシススタイルウェア」を設立し、社長になりました。戸惑うことだらけです。でも「世界一やりたいことができる会社」といううたい文句に引かれて入社したのだから、新しい事業を任せてもらえるならやってみるしかない。 目標はアップルでありダイソンです。今後もコンセプトを変えず、ラインアップも多くしない。でも圧倒的な支持を得る〝アパレル界のアップル〟を目指したいですね。

(構成/ライター・角山祥道)

 なかむら・ありさ

 1986年生まれ。東京大経済学部を卒業した2011年、水道工事業の「オアシスソリューション」(東京都豊島区)に営業職として入社。人事部に勤務する傍ら、社員向けの作業着開発に取り組み、17年12月に新会社「オアシススタイルウェア」の設立と同時に代表取締役に就任する。20年、日経BP主催「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2021」を受賞

 5月25日発売の「サンデー毎日6月6日号」は、他にも「五輪強行が生む新変異株 医師団体が警告する最悪シナリオの驚きの中身」「『オレにも言わせろ』怒り!の著名人5連発 池内了、尾木直樹、池田清彦、香山リカ、小林よしのり」「『仕事帰りにデートに行ける!』〝スーツに見える作業着〟考案の東大卒女性社長(35)」などの記事も掲載しています。

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