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追悼・田村正和 映画界に所を得ず、テレビに越境して花開いた最後の二枚目 映画史家・伊藤彰彦

「サンデー毎日6月6日号」表紙
「サンデー毎日6月6日号」表紙

 俳優田村正和が4月3日に心不全のために77歳で逝去した。1カ月以上経(た)ってその死が公表されたが、それは田村の遺志だったという。家族のことを一切語らず、自らを神秘のベールにつつみ、人知れず消え去ったところがいかにも孤高の俳優らしい。

 スターと呼ばれる俳優には「当役(あたりやく)」がある。だが、田村正和のように「古畑任三郎」と「眠狂四郎」という、現代劇と時代劇の二つの当役に恵まれた俳優は数少ない。父親は阪東妻三郎、兄は田村高廣、弟は田村亮の芸能一家と聞くと何不自由ない境遇のように思われるが、阪妻は田村が9歳の時に早逝し、彼は北大路欣也や松方弘樹のように偉大な父親から薫陶と庇護(ひご)を受けることはなかった。

 田村が専属契約した1961年、松竹映画では美男美女が演ずるメロドラマはもはや当たらず、大島渚や吉田喜重らの「松竹ヌーヴェルヴァーグ」を端緒とする個性派俳優によるアクの強い映画が席捲(せっけん)し、田村のデビュー作を撮った木下惠介は64年に松竹を去る。田村は4本の映画に主演するが、彼の端正な容姿や個性が活(い)かされた企画とは言い難い。そんな田村を大島?は『無理心中 日本の夏』(67年)で、深作欣二は『黒薔薇の館』(69年)で起用するが、のちに日本映画を牽引(けんいん)する両監督も「屈託と甘えがある現代青年」以上の役柄を田村に与えられなかった。

 図抜(ずぬ)けて演技力がある兄の高廣、ATGの実相寺昭雄作品に出演した野心家の弟・亮に、正和はしだいに水をあけられる。こうした田村を救ったのは、この時期の代表作『怪談残酷物語』(68年)の原作者、柴田錬三郎である。72年、柴田の推挙により田村主演の『眠狂四郎』が始まり、これが田村の当役となる。不遇だった映画に早々に見切りをつけ、テレビに軸足を移したことが田村に幸いした。苦節が長かった田村は84年の『うちの子にかぎって…』から始まる連続ドラマで、ダンディで茶目っ気のある役柄で視聴者を魅了し、94年から始まる『古畑任三郎』シリーズで国民的俳優となった。

 最後の出演作は2018年の『眠狂四郎 The Final』。心臓を患っていた田村はもはや声が出なかったが、愛着のある役を、父親が作った阪妻プロの跡地に建つ東映京都撮影所で演じ、それをキャリアの締めくくりとした。見事な俳優人生というほかない。

 5月25日発売の「サンデー毎日6月6日号」は、他にも「五輪強行が生む新変異株 医師団体が警告する最悪シナリオの驚きの中身」「『オレにも言わせろ』怒り!の著名人5連発 池内了、尾木直樹、池田清彦、香山リカ、小林よしのり」「『仕事帰りにデートに行ける!』〝スーツに見える作業着〟考案の東大卒女性社長(35)」などの記事も掲載しています。

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