世界経済「6%成長」でも市場の“不安心理”が高まるこれだけの理由=編集部
世界「6%成長」でも市場の“不安心理”高まる=秋本裕子
<世界経済 急回復のワナ>
株価が乱高下している。米国経済の回復を背景に上昇を続けてきたニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、5月7日に史上最高値となる3万4777ドルを付けたが、翌週12日には3万3587ドルと1000ドル超も下落した(図1)。4月に3万円に乗せていた日経平均株価も5月17日、2万7824円83銭を付け、1月29日以来約3カ月半ぶりに節目の2万8000円を割り込んだ。(世界経済急回復のワナ)
2021年の世界経済は、一足早く正常化への歩みを進めた中国を米国が追いかけ、日本や欧州も続く形で、今年後半には回復の動きが鮮明になると見込まれている。国際通貨基金(IMF)が4月6日に発表した世界経済見通しでは、21年の世界経済成長率は1月時点の前年比プラス5・5%から、同6%へと上方修正された(図2)。実現すれば、1980年以降で最も高い成長率となる。
中でも米国は、新型コロナウイルスワクチンの普及が順調に進んでいることを受けて、1月時点のプラス5・1%から同6・4%へ上方修正。昨年10月時点の同3・1%から半年間で3%以上も上方修正されたことになる。
「悪い金利上昇」も
それにもかかわらず株価が急落した背景にあるのは、米国で加速するインフレだ。コロナ禍で停滞していた経済再開に伴い、「給付金効果で米国民の消費が回復する一方、人手不足や半導体や木材などの供給不足が重なり、物価が急上昇している」(りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフ・エコノミスト)。人手不足や原材料不足が長期化すれば企業収益を圧迫し、景気拡大のブレーキになりかねない。
米国では、インフレが長期化すれば米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めに着手し、量的緩和を縮小するとの観測が広がり、米長期金利は13日に一時1・7%と約1カ月ぶりの水準まで上昇(図1)。昨夏、0・5%台という低金利環境を背景に急騰し、好調を維持してきた米ハイテク株は大きく値崩れした。
金利上昇につながるインフレ観測がくすぶる中、経済の回復が期待外れに終わり、財政悪化だけが残れば「悪い金利上昇」が起き、株安基調に転じる可能性がある。
こうしたファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)以外の外部環境も、経済や株価の足かせとなる“罠(わな)”に満ちている。
インドの新型コロナ変異株拡大やワクチン副反応のリスクが急速に顕在化する中、IMFは経済見通しについて「新興国はワクチンの接種ペースが遅く、先進国のような大規模な経済対策も実施できないため回復が遅れる」と懸念を示した。
米中関係も不透明感が強まっている。米政府は新疆ウイグル自治区での中国の人権弾圧を「ジェノサイド(大量虐殺)」と認定し、中国が反発するなど対立が激化している。「台湾を巡る軍事衝突までいかなくても、対立で中国でのビジネスが滞ることになれば、企業への影響を通じて世界経済に波及する」(黒瀬氏)。
各国政府の巨額財政出動や中央銀行の大規模金融緩和で景気の急回復が見込まれる一方、市場の不安定さも目立ってきた。
投資家心理を示す米国株のVIX指数(恐怖指数)は19日時点で、市場の“不安心理”が高まった水準とされる20を上回っている(図3)。楽観ムードも漂う世界経済は、危ういバランスの上に成り立っている。
(秋本裕子・編集部)