東京オリンピックだけじゃなかった!今はじめて明かされる長野オリンピックのヤバい裏話
1998 年に行われた長野五輪スキージャンプ団体で、日本代表の金メダル獲得を影で支えたテストジャンパーの活躍を描いた映画、「ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜」が、18日から公開を迎えた。
1994年に行われたリレハンメル五輪のジャンプ団体で銀メダルを獲得したものの、長野五輪では代表入りを逃し、テストジャンパーとして大会に参加した西方仁也さんのエピソードを描いた今作。
リレハンメル五輪での“失速”を経て、長野五輪のジャンプ団体で金メダルを獲得した原田雅彦さんと、物語の主役でもある西方仁也さんに当時の思い出や、作品に懸ける想いをお伺いした。
怪我で逃した地元五輪、大バッシング…。原田雅彦と西方仁也の過ごした4年間
金メダルを目前で逃したリレハンメルから4年。「子供の頃から、地元の期待を背負っていた」(原田さん談)という西方さんにとって、故郷の長野で開催された長野五輪は、「代表入りを逃した悔しい大会」となった。
「『長野に向けてみんなで頑張ろう』と誓い合い、過ごした4年間でした。スランプを経験した時期はありましたが、前年の夏頃には本当に調子が良く、手応えも掴んでいたんです。でも、秋に腰を怪我してしまって…。結局、代表に選ばれることはありませんでした」。
そんな失意の渦中にいる西方さんの元に届いたのが、テストジャンパーとしての参加依頼だったという。「『トレーニングの代わりにやらないか?』と声をかけてもらいまして…。もちろん五輪の出場を逃してしまった悔しさはありましたが、その後も国内の試合は続いていく。復帰に向けた調整も兼ねて、テストジャンパーを引き受けることを決めました」。
長野五輪のジャンプ団体では金メダル、個人ラージヒルでも銅メダルを獲得し、“国民的大スター”になった原田さんにとっても、4年の道のりは険しさを極めた。
1994年のリレハンメル五輪で、ジャンプ団体の最終滑走者を務めた原田さんは、2本目のジャンプでまさかの失速。大逆転を許し、掴みかけていた金メダルを直前で逃した。
この年、調子の波が激しいシーズンを過ごしていた原田さんの様子を、西方さんはジャンプ台の下から不安げに見つめていたという。
「もし金メダルを逃したら、大変なことになるだろうな…」と思っていたら、的中してしまって…。試合前には、「誰かが失敗しても恨まない」と、みんなで約束していたので、『2番でもいいじゃん。次の長野で頑張ろうね』と話していたんですけど…。当時は、さまざまなバッシングを受ける原田くんに対して、僕らも何と声をかけたら良いのかわからず、本当に辛かったですね」。
2大会連続で大失速の原田 「みんなが言葉を失っていた」
自国開催の長野五輪で、国民の期待を背負う中で競技に挑んだ原田さんは、個人ラージヒルで銅メダルを獲得。2本目では、136メートル(当時のジャンプ台記録)の大ジャンプを見せた。
「子供の頃から、『誰よりも遠くまで飛びたい』という想いで競技を続けてきたんですよ。その“夢”がオリンピックの大舞台で叶えられたことが本当に嬉しかったですし、自信にもなりました。このまま団体戦では、『絶対に金メダルが取れる』と信じていたんですけども…。目の前にある状況を見た時は、『なぜなんだ』と思いましたね」。
2日後(1998年2月17日)に行われた団体戦は、「まったく想定していなかった」(原田さん)と言う大雪の中で行われた。視界が遮られるなかで挑んだ原田さんの1本目は、距離を伸ばすことができずに失速(79.5m)。1回目のジャンプを終えた日本は、メダル圏外の4位に沈み、「関係者を含めて、みんなが言葉を失っていた」(原田さん)と言う。
一方、原田さんに訪れた“試練”を、テストジャンパーとして大会に参加した西方さんも、複雑な想いで見つめていたと言う。
「絶対に日本が金メダルを取れると思っていたんです。でも、その一方では、『(リレハンメル五輪の)銀メダルが霞んでしまうので、あまり飛びすぎないでほしいな…』と言う気持ちもありました。すると原田くんが、大失速してしまって…。その時は、『余計なことを思ったかな』と思いましたね(苦笑)」。
その後、激しくなった吹雪の影響により試合は中断。競技の再開と、日本の大逆転勝利の行方は、西方さんをはじめとするテストジャンパーチームのパフォーマンスに委ねられることとなった。
「条件は悪かったですが、『何とかしてあげたい』とは思いました。当時のテストジャンパーチームには、目標が見えなくなってしまった選手や、楽しく過ごしている若い選手などさまざまなメンバーが揃っていましたが、一丸となって取り組めたかなと思います」と、当時を振り返る西方さん。「絶え間なく選手が滑り続け、 凸凹したジャンプ台の表面を整えて距離を伸ばした」と言うテストジャンパーチームの工夫などもあり、競技は再開されることとなった。
「みんなが力を出し切った金メダル」大ジャンプを披露した原田氏は逆転Vを振り返る
「足がガクガクになるくらいまで飛んでくれた、テストジャンパーチームへの感謝の気持ち。そして、団体戦に出場できなかったリレハンメル五輪の代表メンバーが、長野五輪に懸けてきた想いを感じた」と言う原田さんは、1位に躍り出た日本チームの3人目として登場。
西方さんのアンダーシャツ、葛西(紀明)さんのグローブを身につけ、『彼等の分まで飛びたい』と願った2本目の滑走では、大ジャンプ(137m)を披露し、日本の優勝を大きく手繰り寄せた。
「正直、飛び終わった時は、ホッとして腰が抜けたような感覚でした。(最終滑走者の船木和喜選手がジャンプを終えて)金メダルを獲得できた時には、みんなが『原田さん、良かったですね』って声をかけてくれて…。4人みんなで力を出しきりましたね」。
原田さんの“リベンジ”は、五輪の出場が叶わなかった西方さんにとっても、大きな喜びだったと言う。
「望んでいた形とは違いましたが、(地元開催の)長野五輪にも参加できましたし、無事に日本が金メダルを取った時には、五輪への想いをキッパリと断ち切ることができた。原田くんのおかげです」。
「長野五輪も今は誇り」 と西方氏 映画「ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜」への想い
長野五輪でのエピソードを描いた映画、「ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜」が全国公開中だ。主演の田中圭さんを始め、土屋太鳳さん、山田裕貴さんらが脇を固めた豪華キャストによるヒューマンドラマに仕上がった本作。「次の世代に繋がっていくのは非常に嬉しい」と、原田さんも喜びを口にする。
その一方、23年越しに長野五輪の“主役”となった西方さんは、「これまでは、長野五輪のことを話しても、なかなか分かってもらえない部分もあった。試合に出られる人はもちろん、出られない人や試合で目立てない人も、みんなで盛り上げている様子を感じて欲しいなと思います」と、悲願の映画化が実現した今作への想いを語った。
「ずっと語り継がれるシーンを作れたことを、今では誇りに感じる」と語る西方さんの長野五輪。
映画を通じて明らかになるエピソードの数々から目が離せない。
(白鳥純一)
出演:田中圭 土屋太鳳 山田裕貴 眞栄田郷敦 小坂菜緒(日向坂46)/濱津隆之/古田新太 他