経済・企業 リモートで高まる郊外需要
「イケてない街」から「ワクワクする街」に大変身?コロナ禍で「所沢」ががぜん脚光を浴びている理由
ベッドタウンの代表格「所沢」。
都心にも出やすく、暮らしやすいとも言われるが、これといった「特徴のない街」、なにか「物足りない街」と評され続けてきた。
しかし、コロナ禍の長期化やテレワークの普及に伴って都心一極集中の生活が見直されている。
その状況を追い風に、所沢には次々とコンテンツが整備され、脚光を浴びる街に変貌を遂げつつある。
埼玉西武ライオンズの本拠地「メットライフドーム」の改修工事が完了
西武ライオンズは、およそ180億をかけ、本拠地の「メットライフドーム」を2017年12月から約3年にわたっての全面改修を実施。
装いを新たにした「メットライフドーム」で、2年ぶりに球春を迎えた。
「ボールパーク化」と「チームと育成の強化」という2つのコンセプトを軸に行った改修工事によって、球場や練習施設は大幅にリニューアルされ、利便性も大きく向上したという。
改修完了までボールパーク推進部長として事業を主動した赤岩学氏は、「ハードの部分は整ったので、これからは来ていただいたお客様の期待に応えられるような運営に取り組んでいきたい」と今後に意欲を見せる。
球場の改修を検討し始めたのは、一部の施設に老朽化が垣間見えた2014年頃のことだ。
「野球観戦の多様な楽しみ方が求められるなかで、国内外にあるさまざまな球場を参考にしながら計画をスタートさせた」と、赤岩氏は当時を振り返る。
これまで全14種類だった席種は28種類に増加。
同球場の特徴だった外野席の芝生エリアにも座席が設けられたほか、国内の球場では数少ない(メットライフドームと神宮球場のみ)フィールドに隣接するブルペンの脇に「ブルペンかぶりつきシート」(合計54席)、バックネット裏の「アメリカン・エキスプレス プレミアム™ エキサイトシート」(203席)などが設置され、これまでよりも選手たちの迫力溢れるプレーが楽しめる環境が整えられた。
「試合のない日」も楽しめる環境を整備
1979年に、屋外型の球場としてオープンしたメットライフドーム (当時の呼称は西武球場)。
1999年にはスタジアム全体を覆う形で屋根が設置され、自然共生型のスタジアムとして多くの人に親しまれてきたが、「夏は暑く、冬は寒い」という課題も抱えていた。
今回の改修では「さまざまな観点から完全ドーム型の球場にするのは難しかった」という状況も踏まえ、開放感をひとつのコンセプトとし座席からアクセスしやすいドームの外側やバックネット裏地下部分に冷暖房を完備した大型施設を整備。
大規模なリニューアル工事が行われた獅子ビルをはじめ、アメリカン・エキスプレス プレミアム™ ラウンジなど快適な野球観戦が楽しめるような工夫も施されている。
エリア内には2つの子供向けの遊具施設もオープン。
入場ゲート付近に新たに設けられた「トレイン広場」には、西武鉄道で実際に使われていた車両にラッピングを施した「L-train 101(エルトレインいちまるいち)」が設置され、試合以外でも楽しめる環境が整えられた。
「鉄道会社を持つ企業グループとして、シナジーを出したかった」(赤岩氏)という車両は、試合のある日には場内の大型ビジョンと連動した演出が施され、試合に彩を添えている。
西武鉄道が描く成長戦略
西武鉄道ではコロナ前の2019年の秋に30年後を見据えた「西武鉄道成長戦略」を描いている。
西武ホールディングス第一事業戦略部長の田中雅樹氏は「コロナ前から少子高齢化による沿線人口の減少や働き方改革など事業環境の変化に対する危機感を持っていました。沿線を7つのエリアに分け、7つの事業戦略を掛けあわせて安全・安心、地域ネットワークの構築など、一層地域とのつながりを強くして、よりお客さまの生活に入りこんだ、プラットフォーマーに進化していきたい」と語る。
所沢もその7つのエリアのうちのひとつであり、西武鉄道池袋線と新宿線が交差する所沢駅周辺では、大規模な再開発が積極的に進められており、街全体で大きな変貌を遂げつつある。
2013年3月には、「西武線を知っていただくには、大きな出来事だった」(田中氏)という東京メトロ副都心線を通じての東急東横線・横浜高速みなとみらい線との相互直通運転が実現。
横浜エリアにも乗り換えなしでのアクセスが可能になり、利便性向上のみならず、川越や飯能、秩父の認知向上にも大きく寄与した。
新型特急「Laview(ラビュー)」が狙う「ワクワク感」
2019年3月、「今までに見たことがない車両を作る」というコンセプトで開発された新型特急、西武001系の運行を開始した。
同車両は、流線形のフォルムと大型の窓ガラス、これまでの西武車両のイメージカラーを彷彿とさせるイエローの座席が特徴的な新型特急車両だ。
「Laview(ラビュー)」の愛称で親しまれる車両は、鉄道業界では「最高の栄誉」とされる「ブルーリボン賞」を受賞。
西武鉄道としては、初代レッドアローとして親しまれていた5000系車両(1970年)以来、50年ぶりの快挙だった。
「特急は、乗ること自体の『ワクワク感』が重要。デビューから2年ほど経ちましたが、初めて見る人にとっては斬新で、西武鉄道のシンボルとして後世に語り継がれるにふさわしい車両だと思います」(田中氏)
「ドラえもん車両」が都心と所沢を結ぶ
ほかにも「鉄道に乗る楽しさや、『ワクワク感』を掻き立てる施策」が随所に見られる。
これまでもさまざまなラッピング車両を運行してきた西武鉄道だが、昨年10月には、ドラえもん50周年を記念した「DORAEMON-GO!」、2020年3月には、ライオンズ命名70周年を記念して、往年の名選手や現役選手が描かれた「L-train」(3代目)の運行を開始した。
シートやドアなどの内装部分にもラッピング電車の世界観が反映され、日常の何気ない移動時間も楽しめるような工夫が施されている。
「所沢駅」のリニューアルがイメージを変えた
所沢エリアの玄関口となる所沢駅は、駅直結の商業施設「グランエミオ所沢」とともに2020年9月にリニューアルした。
新たに自由通路や改札を設置するなど利便性が大幅に向上し、沿線初出店のテナントを含むエリア最大級の計126店舗も軒を連ねる。
「グランエミオ所沢」の開発に携わった、株式会社西武プロパティーズ開発事業部の川上昇司氏は、「これまでは『所沢』といえば、『ライオンズの球場がある街』というイメージが強かったのですが、再開発によって徐々に『西武鉄道沿線の街』としても認知されてきた印象があります。周辺に自然が多く、落ち着いた環境のなかでさまざまなライフスタイルを楽しめることが、このエリアの特徴。まさに生まれ変わろうとしている街の魅力に是非触れて欲しいです」(川上氏)。
さらにはそごう・西武による西武所沢店を改装した「西武所沢S .C」(2019年11月)や、KADOKAWAによる日本のさまざまな文化を発信する大型文化施設「ところざわサクラタウン」(2020年11月)が相次いでオープンするなど、短期間で目まぐるしく街が変わっていく様子を肌で感じることができる。
森岡毅氏の参加で話題の「西武園ゆうえんちリニューアル」も控える
所沢の進化はこれだけにはとどまらない。
直近で注目を集めそうなトピックが、この春に予定されている西武園ゆうえんちのリニューアルオープンだ。
開園70周年記念事業として、約100億円をかけ、大規模なリニューアル工事を実施。
かつてユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を再建した実績を持つ森岡毅氏(株式会社刀代表取締役CEO)とともに、全盛期の4分の1ほどに集客数が落ち込んだという遊園地の再興を目指す。
今回のリニューアルで、園内は1960年代の昭和の街並みが再現され、おせっかいなほど人情味にあふれ、人懐っこい人々とのこころの触れ合いを通じて、あたたかい幸福感を感じていただける仕掛けが施されているという。
まだまだ直接的に人と会いづらい状況が続く今だからこそ、人と一緒に過ごし体験を共有する貴重性・重要性は、より一層高まったといえる。
人々とのこころの触れ合いを通じた非日常的な空間を提供し、所沢の地から日本全体に活力を与えられるような地方遊園地の希望になっていきたいと期待を寄せる。
所沢のワクワクは続く。
2020年代半ばの完成を目指す、所沢駅西口エリアの車両工場跡地(59,000㎡)の開発も控えている。
人々の価値や行動の変化、時代の移り変わりとともに、今後も所沢はさらなる変貌を遂げていくことになりそうだ。
(白鳥純一)