経済・企業 コロナ禍のゲームチェンジ
「データによれば『昭和』が今の最強コンテンツ」USJを変えた森岡毅氏は「西武園ゆうえんち」を再生できるのか?
少子高齢化のあおりをうけ、入場者数は減少の一途だった……
総額約100億円を投じ大リニューアルを進めていた西武園ゆうえんち(埼玉県所沢市)が、いよいよ5月19日にグランドオープンを迎えた。
西武園ゆうえんちは、昨年、開業70周年を迎えた老舗の遊園地だ。
ただ近年は入場者数の減少に悩まされていた。
年間入場者数は、「団塊ジュニア」世代が子供時代を過ごした1988年度の約194万人がピーク。
その後、少子高齢化の進行やレジャーの多様化、そして施設の老朽化といった要因から、入場者数は減少の一途をたどり、2019年度には約37.8万人にまで落ち込んでいたという。
そうした厳しい状況を一変するため、今回の大リニューアルが敢行されたのである。
USJを劇的に変えた「カリスマ」森岡毅氏の「逆転の発想」
ただ、国内有数の老舗遊園地とはいえ、少子高齢化などをはねのけて復活するのは容易なことではない。
そこで白羽の矢が立ったのが、あのUSJに驚異的な成長をもたらした、株式会社刀の森岡毅氏だった。
森岡氏といえば、高等数学をもとに、データを重視したマーケティング手法を駆使することで有名だ。
西武園ゆうえんちのリニューアルにおいても、コンセプト作りなどにデータを活用しているという。
株式会社西武園ゆうえんちの代表取締役を務める藤井拓巳氏は次のように語る。
「アンケート調査によると、20〜30代男女の実に約90パーセントが、人間関係の繋がりが希薄になったと感じています」
森岡氏が代表を務める株式会社刀のエグゼクティブ・ディレクター近藤正之氏はこう語る。
「デジタル化が進んだ現代では、昭和の時代に見られたような、少しお節介なくらい濃密な人と人とのつながりや、人情味のある温かさに飢えている。そういう仮説のもとにコンセプトを設計しています」
その上で、70周年を迎えた西武園ゆうえんちの「古さ」が、逆に長所となりうると近藤氏は語る。
「西武園ゆうえんちが歩んだ70年間の歴史に、いま一度焦点を当てました。発想を逆転し、『古いのは良いことだ』という、新しい価値を作り出せないかと思ったのです」(近藤氏)
温故知新という言葉があるが、まさにそうした「古いものの中に新しい発見を見出す」というコンセプトが、森岡氏と株式会社刀のチームによって導き出されたという。
コロナ禍による「ゲームチェンジ」その波に乗れるか?
そうした問題意識とコンセプトのもと、構想およそ3年、総額およそ100億円を投じ、施設の全面リニューアルを敢行した。
「これまでの西武園ゆうえんちは、単に“古い”というイメージを持たれていた。一方で特徴が見えにくい状況にあったと分析している」と近藤氏。
「ただ、“古い”というのも考えようによっては特徴となり得ます。『昭和』に育った人々にとって、『昭和』は古いイメージかもしれません。ただ若者にとっては古い時代の物事が逆に新鮮だったりもします。
そうした若者にとっては新鮮な『昭和の雰囲気』と、そのなかで味わう感動体験を、いかに最高のエンタテイメントにまで昇華させるか。我々はその点に注力しました。感情的に心を揺さぶることで、かつてのような幸福感を蘇らせていきたい」(近藤氏)
西武園ゆうえんちは埼玉県所沢市に位置する。
その所沢市では、近年、大規模な再開発工事が積極的に行われている。
グランエミオ所沢や、ところざわサクラタウンの開業、そして改修工事を終えたメットライフドームのほかにも、今後さまざまな再開発計画が進んでいるという。
「コロナ禍」は、都心から郊外へと、人々の流れを大きく変えている。
そうした動きが追い風になる中、西武園ゆうえんちはリニューアルオープンを迎えた。
「再生や復活を目指す地方遊園地の希望になりたい」と、近藤氏は力強く語る。
老舗遊園地として、西武園ゆうえんちがこれまでに蓄積した有形無形の資産にくわえて森岡毅氏と株式会社刀のデータを重視したマーケティングが、新たな価値を追加した。
そうした斬新なコンセプトに基づく、新たなアトラクションが、果たして老舗遊園地を再生させられるのか。
100億を投じたリニューアル事業が今、真価を試されている。
細部に至るまで「昭和」にこだわった
では「西武園ゆうえんち」はどのように変わったのだろうか。
「心あたたまる幸福感に包まれる世界」をテーマに、1960年代頃の日本を再現するテーマパークとして施設を全面リニューアルした。
西武園ゆうえんち(旧遊園地西駅)駅前には路面電車を新設。
入り口をくぐると正面には、映画「Alway三丁目の夕日」を彷彿とさせる「夕日の丘商店街」アーケードを設置。
エリアに一足踏み入れるだけで昭和の雰囲気が味わえるよう、さまざまな工夫が施されている。
その「夕日の丘商店街」アーケードをくぐると、「泥棒と警官による寸劇」「バナナの叩き売り」「紙芝居」といった、「住民」によるさまざまなパフォーマンスを上演。まるでタイムスリップしたかのようなリアルな体験ができるよう、工夫がこらされている。
園内のショッピングには、「西武園」が使用される。
ちなみに「日本円」との交換レートは、1960年代の物価を再現しているという。
「西武園」の券面には、手塚治虫氏の人気作品「ジャングル大帝」のキャラクター、レオが描かれている。
デザイン面でも、ノスタルジックな雰囲気づくりにこだわっている。
園内では軽食も提供されているが、そのメニューにも「昭和」が漂う。
お客さんの目の前で作るという「ポン菓子」や、純喫茶の定番メニュー「スパゲティ・ナポレターナ」や「クリイムソーダ」など、古くもあり、また現代ならSNSで「映え」そうなメニューが用意されている、
山崎貴氏も参加した迫力満点の「ゴジラ・ザ・ライド」
エントランス横の小高い丘に建っているのが「夕陽館」。
映画館をモチーフにした建物だ。
その中で体験できるのが、ゴジラをテーマにした世界初のライドアクション「ゴジラ・ザ・ライド大怪獣頂上決戦」。
映画を見に来た観客が、ゴジラとキングギドラの激闘に巻き込まれ、特殊装甲車に乗り込んで脱出するという設定のアトラクションだ。
これは映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズなどを監督した山崎貴氏と、株式会社刀のコラボレーションで製作されたもの。
巨大怪獣たちの戦いは迫力満点、攻撃の際の「衝撃」もリアルに体験できる。
テーマパーク初登場の手塚治虫作品をモチーフにした「レッツゴー!レオランド」
商店街の先に広がるのが「レッツゴー!レオランド」。
昭和を代表する漫画家の手塚治虫氏が生み出した人気キャラクター、「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝レオ」をモチーフにしたエリアだ。
主に家族連れをターゲットにしたこのエリアには、両作品の世界観を取り入れた4つのアトラクションが設けられている。
それらに加えて、「巨大すごろく」や「トリックアート」も楽しめる。
グッズショップ「レッツゴー!バザール」も併設され、家族連れのニーズを満たす。
手塚治虫作品をモチーフにしたアトラクションは初めての試みとあって、注目を集めそうだ。
「昭和のテーマパーク」は本当に受け入れられるのか?
「皆さんから選ばれ、愛される遊園地として復活を目指したい」
「多くの人の心を揺さぶり、温かい幸福感を感じていただける場所になることを願っています」
株式会社西武園ゆうえんちの代表取締役を務める藤井拓巳氏は熱意をこめて語る。
ただ、その前途は必ずしもバラ色とはいえない。
長期にわたって入場者数減少に苦しんだのは、少子高齢化という社会構造の問題がよるもの。
少子高齢化は、西武園ゆうえんち単体の努力では根本的に解決しがたい外部要因だ。
そもそも首都圏には最強テーマパーク「東京ディズニーランド」があるほか、さまざまな娯楽コンテンツとの競争が待っている。
もともと厳しい状況に置かれている上、「昭和とノスタルジー」のテーマパークが、本当にユーザーから支持されるかどうかは、蓋を開けてみないことにはわからない。
ただ、コロナ禍で「郊外」に脚光が集まっているのは間違いない。
ニッチなニーズを確実に掘り起こすことができれば、「USJの奇跡」再現は決して夢物語ではない。
今後の「西武園ゆうえんち」の行方に関心が高まっている。
(白鳥純一)