EV時代に必須のパワー半導体で株式市場が将来性に注目する2社
EV(電気自動車)の急激な普及で注目される半導体で株価が急上昇している日本企業が複数ある。モーターなどの電気を制御する半導体の高性能材料開発にめどをつけた企業のニュースが相次いでいるのだ。
半導体でもEVの普及でも世界に出遅れてきた日本だが、ここへきて一気に挽回する可能性を株式市場は期待しはじめたようだ。
市場が注目するタムラ製作所、日本製鋼所
次世代のパワー半導体の開発で注目を集めているのがタムラ製作所(6768)が出資しているノベルクリスタルテクノロジー(NCT、埼玉県狭山市)社。同社はパワー半導体材料として利用できれば低価格化が実現できる酸化ガリウムパワーデバイスの量産が可能になった、と6月15日に発表。タムラ製作所の株価は発表を機に急騰している。
高性能、小型化のパワー半導体を実現できる窒化ガリウム(GaN)という材料の量産にメドを付けた企業として日本製鋼所(5631)も注目されている。
脱化石時代の省エネに貢献する半導体
パワー半導体とは、モーターや照明などの制御や電力の変換を行う半導体のこと。一般的に半導体はロジック(演算)やメモリー(記憶)などが知られているが、これらはスマートフォンやパソコンなどの性能向上に役立っている。
一方、パワー半導体は交流を直流にしたり、電圧を変換するなどして、モーターを駆動したり、メモリーやCPU(中央演算処理装置)などのLSI(大規模集積回路)を動作させるなど、電源(電力)の制御や供給を行う半導体だ。
高い電圧、大きな電流に対しても壊れない構造を有することでパワー半導体と呼ばれる。
EVで注目される「パワー半導体」
エアコンやテレビなどにも使われているが、今、最も注目を集めているのがEV分野だ。モーターを低速から高速まで精度よく回すことでEVの性能を上げ、効率よく動かすことで省エネや省電力化にも貢献する。つまり脱化石時代のEVや再生可能エネルギ^の普及に欠かせない半導体といえる。
ロジックやメモリーなどの半導体では日本企業はほぼ淘汰されているが、パワー半導体では一定の存在感を示し始めたわけだ。
世界シェアのトップはドイツだが…
世界シェアトップの独インフィニオン・テクノロジーが約2割を占めるが、大手調査会社によればベスト10には三菱電機、東芝、富士電機、ルネサスエレクトロニクス、ロームの5社が入っている。5社合計でのシェアは2割近くに達しているとみられる。パワー半導体にはきめ細かい技術が必要で、日本の得意分野ともいえるのだ。パワー半導体のウエハー基板はシリコン(Si)でできているが、EVなどの電動車の台頭によりより高性能なものが求められている。
シリコンに代わる高性能材料「SiC」
シリコンに代わって担う高性能材料として注目されているのが、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)、さらには酸化ガリウムだ。
シリコンが単体の物質であるのに対し、SiCは炭素とケイ素の化合物、GaNはガリウムと窒素の化合物だ。このため、SiCやGaNは化合物半導体ともいわれる。
シリコンに比べて高耐圧、高耐熱、小型化、高速化が可能になる。現在のパワー半導体よりも、搭載した電子機器のさらなる小型化や高効率化を実現できるのだ。
EV向けのパワー半導体でも、現行よりも高性能で、燃費効率の改善などが期待される。
SiCはローム(6963)などが先行している。
SiCを上回る窒化ガリウム
SiCよりも性能の高い窒化ガリウム(GaN)は不純物の混入を抑えて欠陥や歪みのない結晶を作るのが
困難で量産化のめどが立っていなかった。しかし、ここにきて動きが出始めている。
日本製鋼所と三菱ケミカルホールディングス(4188)傘下の三菱ケミカルは2021年5月に、窒化ガリウム(GaN)単結晶基板の量産に向けた実証設備を日本製鋼子会社の北海道・室蘭製作所の構内に竣工したと発表した。
21年にかけて4インチのGaN単結晶基板の量産に向けた実証実験を行い、22年度初頭からの市場供給開始を目指すという。
日本製鋼所は設備の設計・製造と結晶製造技術で強みがあり、三菱ケミカルは高品質なGaN基板の製造技術がある。
両社では東北大学と大口径・高品質・低コストのGaN基板製造技術の開発を進めてきた。
17年に建設したパイロット設備で透明で結晶欠陥の少ないGaN基板の低コスト製造技術の開発に成功している。
パワー半導体の素材以外にも、レーザーや照明、5G(第5世代通信規格)向けなどの用途にも応用が期待されている。
量産化にめどをつけた「第3のパワーデバイス」
21年6月にはタムラ製作所が出資するNCT社が、低価格化と高性能化が期待される酸化ガリウムの100ミリウエハーの量産に世界で初めて成功したと発表した。
NCT社は酸化ガリウムのエピウエハー(単結晶基板上に結晶膜が形成されたウエハー)の開発、製造、販売を行っている。
酸化ガリウム開発ではタムラ製作所、情報通信研究機構(NICT)、東京農工大を中心メンバーとする研究チームが世界をリード。NCTの技術はその開発成果を基盤にしているという。
発表資料によれば、酸化ガリウムは単結晶基板をSiCやGaNの100倍高速に成長することができるとのことで、価格を大幅に引き下げられる可能性がある。制御の際にパワーデバイスは電力損失が発生するが、この損失を小さくすることにより、機器の消費電力の削減が可能となり、CO2削減による地球温暖化対策にもつながる。
酸化ガリウムは、これまでは技術的に量産化が困難とされ「第3のパワーデバイス」とも呼ばれていた。
しかし、100ミリウエハーに対応した既存の設備を活用でき、設備投資を抑えられるメリットもある。販売時期などは非開示だが、ウエハーの提供は21年内に開始するとの報道がある。
AGC、安川電機も出資
なお、NCTにはAGC(5201)、トレックス・セミコンダクター(6616)や新電元工業(6844)、佐鳥電機(7420)、安川電機(6506)も出資している。
こうしたGaNや酸化ガリウムでの日本企業の成果は、次世代パワー半導体で日本が先行していることを示したといえる。
日本はEV普及の出遅れや、EV用リチウム電池部材でのシェア低下が目立っているが、劣勢だった半導体のなかでもパワー半導体の分野では存在感を示していくことができそうだ。(和島英樹・ジャーナリスト)
初出:EV時代に必須の半導体で日本が復活できると確信し始めた株式市場が推す2社