低い有効率の中国製ワクチンは感染収束の「決め手」にならない=藤和彦
中国製ワクチン 感染収束の「決め手」にならず 当局もこぼした有効率の低さ=藤和彦
中国政府は6月上旬、「中国は既に全世界に3億5000万回分のワクチンを提供した」ことを明らかにした。中国国内のワクチン開発企業は24時間フル稼働で生産に当たっており、ワクチン生産量は大幅に増加している。輸出先は40カ国以上に及び、世界保健機関(WHO)も「一般的な冷蔵庫で保管できる」メリットに着目して中国製ワクチンについての緊急使用を承認した。ワクチン生産大国であるインドが自国の感染爆発で海外への輸出を停止する状況もあり、中国製ワクチンの存在感は高まっている。しかし、輸入国からは「感染拡大防止の効果が疑わしい」との声もある。(中国 本当の危機)
最初に問題になったのはチリである。チリはワクチン接種が最も進んでいた国の一つだったが、4月に入ると国内で感染が再び拡大した。チリで接種されているワクチンの9割が中国のシノバック製ワクチンである。
バーレーンでも同様の問題が起きている。バーレーンは中国のシノファーム製ワクチンの接種が進んだものの、感染者が急増。すでにワクチンの2回接種を完了した人を対象に米ファイザー製ワクチンの追加接種を開始した。 セルビアでも同様の事態となっており、中国製ワクチンの有効率の低さが指摘されている。
有効率は5割とも
米ファイザー製、米モデルナ製などのワクチンの有効率が90%以上であるのに対し、中国製ワクチンの有効率は50%程度(WHOが定めたワクチン承認の最低水準)だとされている。中国製ワクチンの有効率が低い原因はその製造方法にある。中国の代表的なワクチンであるシノバック、シノファーム製は「不活化ワクチン」だ。
不活化ワクチンは、熱やアンモニアなどで不活化したウイルスを体内に投与して抗体をつくるという従来の製造方法として知られる。この手法はインフルエンザワクチンなどで使用されているが、インフルエンザウイルスに比べて増殖の速度が遅い新型コロナウイルスでは体内で抗体ができにくい。このためワクチンの有効性が低いとの判断から、欧米のワクチンメーカーはこのやり方を採用しなかった。
90%以上の有効率のファイザー、モデルナ製は「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンという、ウイルスのたんぱく質をつくるもとになる情報の一部を注射する新しい仕組みのワクチンだ。中国の疾病対策当局も4月には「中国製ワクチンの効果は小さい」との見方を示した。発言は直後に撤回されたが、中国もファイザー製などのワクチンの追加接種を検討している。
筆者が最も懸念しているのはADE(抗体依存性感染増強現象)の可能性だ。ワクチン接種によってつくられた抗体がウイルスの細胞への侵入を防ぐのではなく、逆に細胞への侵入を助長する現象のことである。新型コロナウイルスと遺伝情報が類似しているSARSウイルスに関する不活化ワクチンを研究している際にADEが生じたことから、開発が断念された経緯がある。中国製のワクチンは正確な有効率など明らかになっていない部分がある。輸出先である各国のためにも、中国は一刻も早い有効性や安全性に関する情報公開を行うのが筋だろう。
(藤和彦・経済産業研究所上席研究員)