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経済・企業 注目の特集

仕事・結婚・出産拒否の「横たわり族」が増加 無気力な若者が中国経済のリスクに=和田肇/加藤結花

 <日本人が知らない 中国 本当の危機>

仕事・出産拒否の若者が増加 「強権」習体制に無言の批判=和田肇/加藤結花

 中国社会で、「躺平(タンピン)族」という若者の集団が話題になっている。日本語に直すと「横たわり族」。物欲がなく、仕事や結婚、出産を拒否し、「常に横たわっている」若者たちのことだ。共産党の機関紙『人民日報』系の『環球時報(英語版)』は6月1日、「中国のSNS上で問題提起され、白熱した議論を引き起こしている」と報じた。(中国 本当の危機 特集はこちら)

 世界第2位の経済大国に浮上し、飛ぶ鳥を落とす勢いに見える中国で、なぜ、無気力な若者が増えているのか。神田外語大学の興梠一郎教授は、「中国社会の先行きに対する閉塞感が背景にある」と指摘する。

 新型コロナウイルスの封じ込めにいち早く成功し、2021年1〜3月期の国内総生産(GDP)の成長率は、実質で前年同期比18・3%増。21年通年では、中国政府が年6%、国際通貨基金(IMF)や世界銀行は年8%台の成長を予想しており、「中国経済は押しなべて、順調な回復軌道に乗っている」(名古屋外国語大学の真家陽一教授)というのが、市場関係者の大方の見方だ。

 しかし、中長期的に見れば、少子高齢化が予想以上の速さで進行し、「世界の工場」の原動力となった労働人口は既に減少局面に入った。このままでは、経済成長率の鈍化は避けられない。一方で、共産党による国有企業優遇政策のもと、イノベーションを担う民間企業群が育っていない。厳しい受験競争を潜り抜けた大卒者は大幅に増えたが、彼らに見合う仕事が不足している。

 社会人になったとしても、不動産バブルによる地価上昇、教育費の異常な高騰で、家を買い、子供を持つことは、かなわぬ夢になりつつある。だが、「インターネットで不平不満を漏らしたら、捕まってしまう。無力感の中で『俺はやめた』となり、横たわる」(興梠教授)。

遠い「小康社会」

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 国民に選挙で選ばれない中国共産党の正統性の源泉は、経済成長で全ての国民を豊かにすることだ。習近平氏は共産党の総書記に就任した12年、「共産党の創立から100周年(21年)までに、小康社会を実現する」と国民に約束した。小康社会とは、中国の歴代の指導部が目標としていたもので、「庶民がまずまずの暮らしを送れる状態」を表す。

 しかし、李克強首相は20年5月、「中国ではいまだ、6億人が月収1000元(約1万7000円)で生活している」と発言。低成長になれば、約束を果たせなくなり、正統性も失われてしまう。米バイデン政権のカート・キャンベル・インド太平洋調整官は16年の「米外交問題評議会」リポートで、「経済が失速すれば、習近平政権は国内情勢の不安定さからナショナリズムに訴えるのでないか」と指摘した。最近の台湾や南沙諸島を巡る諸外国との対立、新疆ウイグル自治区や香港に象徴される国内の締め付けを見る限り、予想通りの展開になっているようにも見える。

 そうした中、共産党はこの7月に創立100周年を迎える。習氏が掲げるキーワードは「強国」だ。毛沢東氏は中国人民を列強の支配から解放し、鄧小平氏は中国人民を豊かにした。習氏はその正統な後継者として「偉大な中華民族の再興」に、力を注ぐというわけだ。

 経済を再び成長させるため、政府は5月末、3人目の出産を認める方針を決め、少子化の解消を狙うが、効果が出るまでには1世代はかかる。人口が減る中で、経済を成長させるには、企業によるイノベーションが欠かせないが、民間企業が国有企業より技術力や財務力で優位に立てば、民間主導の流れが強まり、共産党が全てを支配する独裁体制が危うくなる。

アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が金融当局を批判する発言をした後、アント・グループの上場が中止になった (Bloomberg)
アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が金融当局を批判する発言をした後、アント・グループの上場が中止になった (Bloomberg)

 アリババやテンセントといった巨大IT企業に対する昨今の締め付けは、まさに、その表れだ。国有銀行を脅かすほどになったアリババ傘下のアント・グループは、習氏が直々に、株式上場を阻止した。だが、民間企業を規制すれば、イノベーションも起こらないジレンマに陥ることになる。さらに、経営効率が悪く腐敗がはびこる国有企業が経済の中心に居座れば、社会の停滞はますます強まる。

 対外的には、日米同盟やG7(主要7カ国)を中心に、強権的な中国への包囲網が強まっている。米国は、半導体などのハイテク技術を押さえることで、中国のキャッチアップを阻止する考えだ。人口減少、若者の不満、イノベーションの沈滞、諸外国との摩擦と、内憂外患を抱え、習近平政権はどこに向かおうとしているのか。

(和田肇・編集部)

(加藤結花・編集部)

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