教養・歴史注目の特集

経済学者 コロナとの闘い=編集部

    医療経済学で挑む

     人口当たりの病床数が世界一の国で、なぜ病床の逼迫(ひっぱく)、医療崩壊の危機に陥ったのか──。コロナ禍で起きた摩訶(まか)不思議な現象に注目したのは、医療経済学を専門とする一橋大学の高久玲音准教授(36歳)だ。コロナが浮き彫りにした日本の医療提供体制の問題を病院経営を中心に検証し、今後の医療政策を提言する。

     高久氏が着目したのは、日本の医療提供体制の特殊性だ。歴史的に開業医が病床を持つことで医療体制が形成されている。そのため中小零細病院が都市部に乱立する状態となった。同氏によると東京では国公立の病院が保有する病床は全体の15%に過ぎないという。

     また、コロナ感染の第1波が襲った2020年3月には、感染症の治療を優先するあまり、多くの病院が通常医療を大幅に圧縮。その結果、医療収入の減収に見舞われ、第一線で奮闘する医療従事者の賞与を削減する事態を引き起こした。

    「自分や家族がコロナの感染リスクを負いながら、懸命の治療を続けた上の報酬カットは、医療従事者の離職を促した」と、都内の医療関係者は明かす。病床逼迫は、緊急事態宣言のような国民に広く負担を強いる政策の繰り返しにつながった。

     高久氏はコロナ患者の受け入れが、既存患者の治療を放棄することにつながり、病院経営上の痛手となり、これも病床確保を難しくした要因とみる。こうした事情を踏まえて、病院間の連携やコロナ患者を集中的に受け入れる病院をつくることで、それ以外の病院で通常医療ができるようにする「選択と集中」に平時から取り組むべきだと主張する。(コロナと経済学者 特集はこちら)

    マーケットデザイン

    「先着順にすると、混乱が起こる」

     コロナワクチンの接種が始まる前からこう警鐘を鳴らしていたのは、東京大学マーケットデザインセンターの小島武仁センター長(41歳)だ。

     小島氏は、人それぞれをゲームのプレーヤーに見立て、状況を分析する経済学のゲーム理論や、その知見を生かしたマーケットデザインを本場の米スタンフォード大学で学んだ日本の先駆者である。12年にマッチング理論を使って社会に役立つ制度を作り上げた功績によってノーベル経済学賞を受賞したアルビン・ロス米スタンフォード大学教授(69歳)が師匠だ。

     コロナワクチンのような市場メカニズムを活用した需給調整が難しい、一種の公共財の配布には、需要が供給を上回る段階で先着順にした場合、募集開始と同時に申し込みが殺到、受け付けシステムに大きな負荷をかけると、小島氏は予想したのである。現実にそうなった。

     昨年9月、東京大学に招かれ、センター長に就任。保育園の待機児童問題、研修医と病院の組み合わせにも有効なマーケットデザインの知見をコロナワクチンの最適配布にも生かせるとして、積極的に提言し、自治体からの相談に応じている。

    「マーケットデザインで解決できる社会課題がまだたくさんある。コロナ以外にも待機児童問題や企業の人事の相談を約40件受けている」と、目を輝かせる。「始めたはいいが、開店休業状態だったらどうしようという不安は杞憂(きゆう)に終わり、今は手が回らない状況」と、手応えを感じている。

    宇沢の社会的共通資本

    フリードマンとは幾度も議論を闘わせた宇沢弘文氏
    フリードマンとは幾度も議論を闘わせた宇沢弘文氏

    「コロナ禍は、日本がいかに無形資産投資を怠ってきたかを浮き彫りにした」

     学習院大学の宮川努教授(65歳)は、こう指摘する。特別給付金の遅延をはじめとするデジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れやIT技術力の低下は、単にソフトウエアに投資をするだけでなく、それに合わせた人材や組織の変革が行われなければ、パフォーマンスは上がらない。宮川氏は無形資産投資の計測で、これが明らかになったという。

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     米中に大きく後れを取った日本が参考にすべきは、欧州と指摘する。「欧州では、公的部門が社会インフラの整備やそのDX化を進める中で、得られるデータなどを共有財産として管理・研究・活用する動きがある。これは故宇沢弘文先生が唱えた社会的共通資本と同じ考え方だ」(宮川氏)。

     宮川氏は世界的数理経済学者・宇沢教授の門下生の一人である。

     宇沢氏の評伝『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』を執筆したジャーナリストの佐々木実氏は「宮川教授は“無形資産”をキーコンセプトとして、恩師・宇沢弘文が唱えた『社会的共通資本の経済学』を解釈しようとしている。とくに実証研究の進展が期待されるが、これは宇沢門下生の故大滝雅之教授の理論的成果を引き継ぐ研究でもある」と期待する。

    (浜條元保・編集部)

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