法務・税務注目の特集

日本中の相続・不動産取引を変える法改正のインパクト=種市房子

<変わる!相続&登記・民法>

 不動産登記や商業登記の手続き支援を担う司法書士。ある司法書士は、平成も終わりにさしかかった数年前に相談を持ちかけられた「塩漬け土地」の登記を忘れられない。四国の土地の登記で、明治時代に家督相続による所有権移転登記がなされて以降、更新されていない。平成の時代に入り、子孫の1人が「土地を処分するために権利関係を明確化したい」と司法書士の元へ相談を持ちかけたのだ。(変わる相続・登記・民法 特集はこちら)

 司法書士が、男性所有者の戸籍を調べたところ、慶応年間(1865~68年)に生まれて、既に死去していたことが判明した。そして所有者の死去後、相続登記をしないまま所有者の子ども、孫が次々に死去し、それに伴い相続も次々と開始されてしまう「数次相続」が起きた結果、共有者となった人が数十人にも上る「メガ共有」となっていた。

 権利関係の確定のためには、相続人の範囲はどこまでか、死去した相続人・存命の相続人を調べなければならない。男性所有者の戸籍からたどり、法定相続人の戸籍を各市町村に請求する膨大な作業が必要とされる。結局、10メートルの巻物のような家系図が完成し、依頼者に見せたところ、絶句されて、権利関係の確定作業は取りやめになった。この司法書士は「あまりにも複雑な権利関係を前に、断念したのでは」と振り返る。

 登記や実態調査では所有者が判明しない「所有者不明土地」や、空き家は、2010年代から社会問題化した。この問題に対処するための関連法が4月に成立した。成立したのは、民法と不動産登記法の改正法、土地所有権を国庫に移せる「相続土地国庫帰属法」だ。

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 一連の法律では、所有者不明土地や空き家の発生を抑止するとともに、利活用や処分を進める制度が多数新設された。中でも、これらの問題が相続に起因するケースが多いことから、相続に関するルールは多数が改正された。

 民法を巡っては、17年に「100年ぶりの大改正」と呼ばれた債権法改正が、18年には「40年ぶりの大改正」と呼ばれた相続法改正が行われた。今回の改正はこうした「時間軸」とは異なり、不動産登記法をセットで改正した「面での広がり」というインパクトがある。影響を受けるのは、個人の相続だけではなく、不動産開発・取引、公共事業を進める行政まで日本中の幅広い分野に及ぶ。一連の法律は23年4月末までに施行され、不動産取引、相続のルールががらりと変わる。

(編集部)

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