金利上昇は怖くない、株高続く=神崎修一、斎藤信世
金利上昇は怖くない、株高続く=神崎修一、斎藤信世
<まだまだ強い米経済&株>
「ゴルディロックス相場になり、じわじわと株価は上がっていく」。東海東京調査センターの平川昇二チーフグローバルストラテジストは2021年下期の米国株の見通しをこう予想する。(強い米国経済 特集はこちら)
いい物価上昇
ゴルディロックス相場とは、英国の童話「3匹のクマ」で迷い込んだクマの家で、ちょうどいい温度のスープにありついた少女の名前に由来し、過熱も冷え過ぎもしない、ほどよい投資環境を指す。約3年前にも見られた絶好の相場が、コロナ後の米国に再び訪れるというのだ。
米国は新型コロナウイルスのワクチン接種で経済の正常化がいち早く進む。全米で最大の経済規模を誇るカリフォルニア州では、すでに経済活動が全面的に再開されている。飲食店などの入店者数制限が解除され、接種が完了した人は屋外でのマスク着用も原則不要になった。
1~3月期のGDP(国内総生産)成長率は前期比年率6・4%増と、回復軌道に完全に乗っており、21年のGDP成長率は6~7%と歴史的水準に達することが確実だ。
企業業績も急速に改善し、米国を代表する企業で構成するS&P500の21年4~6月期の利益は、前年同期比で約6割増になると予想されている。バイデン政権による総額約1・2兆ドル(約130兆円)のインフラ投資計画も6月24日に議会で合意。実行に移されれば、さらに経済を押し上げる効果が期待できる。
実体経済の回復に先行する格好で、米国株は好調だ。7月2日に発表された雇用統計では、景気動向を敏感に示す非農業部門の就業者数が予想以上に改善したことが好感され、ダウ工業株30種平均は3万4786ドルと、今年5月以来約2カ月ぶりに過去最高値を更新した。節目の3万5000ドル台も視野に入る。S&P500も過去最高の4352まで上昇した。
前出の平川氏は年末に向けてS&P500は4600を目指すと予想する。
コロナ感染が広まった1年前の反動や供給制約の影響で、5月の消費者物価指数上昇率が前年同月比5%に跳ね上がり、インフレ加速の懸念から金利上昇→株安を警戒する市場関係者が現れた。だが、「金利上昇は怖くない」と米株の専門家は言う。企業業績を伴った景気回復だから、いい物価上昇、いい金利上昇になるという解釈だ。
緩和縮小は22年1月か
21年下期の米国経済を占う上で、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策変更のタイミングが注目される。本誌は6月下旬、主要シンクタンク・金融機関15社を対象にアンケートを実施した。
量的緩和の段階的縮小(テーパリング)の開始の時期を最も早く予想したのは、ニッセイ基礎研究所の「21年10~12月期」だ。「7月会合(FOMC〈米連邦公開市場委員会〉)から議論を開始し、11月または12月会合で開始決定」(ニッセイ基礎研)と見込む。
また「21年11月」と予想するバークレイズ証券は「6月のFOMCは『経済的観点からパンデミック(大流行)の終了を事実上宣言』『雇用の伸びの減速には言及なし』という二つの観点から当社予想よりもタカ派的だった」として、9月会合でテーパリングを正式に発表し、11月会合で買い入れの減速を開始すると見通す。
15社のうち7社が「22年1月」と回答し、「22年1~3月期」との答えも3社あった。市場関係者は「22年年明けからテーパリングの実施に移る」との見方が大勢のようだ。
では、実際の利上げのタイミングについては、どうか。具体的な時期を示した回答の中では、BNPパリバ証券と明治安田総合研究所の2社が「23年1~3月期」と最も早い時期の開始を予想する。逆に第一生命経済研究所の「24年10~12月期」が最も遅く、予想の差は2年近い開きがあった。
ただ、「23年前半」とみている三井住友銀行(市場営業統括部)も「テーパリングから最初の利上げまでの間、相応の期間、様子を見続ける。インフレの状況も注視するとみられる」として、FRBが慎重に時期を見極める可能性を示した。
BNPパリバ証券も「不完全雇用が解消され、賃金が上昇し、持続的なインフレが実現するまで相当な時間を要する。テーパリングをこなしても、利上げにつなげるまでの道は険しい」とした。実際に利上げを実現するまでには、いくつかのハードルを乗り越えなければいけないとの見方が共通する。
金融の正常化に向けては、市場との対話が重要になる。FRBには13年5月の「バーナンキ・ショック」によるトラウマがある。
ゲーム化する投資家
当時のバーナンキFRB議長が、市場の想定外の緩和縮小を示唆すると、長期金利が急騰し株価が急落するなど、市場が大混乱に陥った。その後、FRBは市場との対話に手こずり、結局、実際の利上げ開始は15年12月にずれ込んだ。今回も慌てて金融引き締めに向かうことになれば、8年前のショックを再び起こしかねない。
そんな中、6月の米国株式市場は予想外の乱高下に見舞われた。発端となったのは6月15、16日に開催されたFOMCだ。FRBはFOMC参加者による政策金利見通し(ドットチャート)を公表した上で、これまで「24年以降」としていた利上げの開始時期を、23年に前倒しする、これまでより“タカ派”的な想定を示したためだ。
さらに市場を混乱に陥れたのは身内の「サプライズ」発言だ。FOMC参加者であるセントルイス地区連銀のブラード総裁は6月18日、米メディアのインタビューで、22年終盤にも利上げを開始するとの予想を披露したのだ。
FRBの緩和縮小は想定より早いかもしれない││。ブラード氏の発言が伝わると市場には動揺が走り、18日のダウ平均は前日比で一気に500ドル超も下げた。その影響は週明け21日の日本にも波及し、日経平均株価の下落幅は一時、前週末終値比1000円を超えた。売りが売りを呼ぶ展開で、まさに「FOMCショック」といった様相だった。
「新しい投資家が市場に参入したことで、FRBへの反応がゲーム化している」。米国の金融市場を長年見続けてきた米シカゴ在住のストラテジスト、滝澤伯文氏は株式市場の現状についてこう嘆く。
FRBの歴代議長らは、金融政策を事前にうまく示すことで市場への織り込みを進めてきた。ただ、コロナ禍の中でスマートフォンを使って売買を繰り返す「ロビンフッダー」といった新しいタイプの投資家も市場に参入。ドットチャートだけに注目し、ゲームのように取引する投資家が増えた。
大半は01年のITバブル崩壊はおろか、08年に発生したリーマン・ショックといった大きな経済危機を経験していないだろう。パウエルFRB議長にはこれまで以上に慎重な対話が求められる。
(神崎修一・編集部)
(斎藤信世・編集部)