物価上は続く、米国はインフレで政府債務を返済する=重見吉徳
対論 インフレが来る、来ない 持続的な上昇 米国はインフレで政府債務を返済する=重見吉徳
インフレが一時的かどうか、その期間にもよるが、議論すべきは米国の繰り越し需要が一巡する2022年以降だろう。ポイントは、インフレ圧力に米連邦準備制度理事会(FRB)が対応するかどうかである。直近6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)がヒントになるかもしれない。(強い米国経済)
足元でインフレ率が高まる中、FOMCは四半期経済見通しで、「23年に2回の利上げ」とした。一方、前回3月時点では「利上げは24年以降」だった(いずれもFOMC参加者の見通し中央値)。
FOMC参加者の大勢が早期利上げに傾いたという事実は、利上げが実際に前倒しされるかどうかには関係なく、今後も生じうるインフレ期待の高まりに対し、先手を打ってインフレ期待を抑制する効果を持つ。
反対に、「利上げは24年以降」で維持すればインフレ期待は高まり、インフレは一時的にならなかったかもしれない。このように、今回のところは早期利上げを示すことで、インフレ期待を抑制することができた。問題は、今後、再びインフレの圧力が高まったときに、FRBが対応できるかどうかである。
強いられる金融抑圧
次に、今後のインフレの要因を考えてみる。
ワクチン接種で先んじる米国では、供給よりも需要の回復が早く生じている。現在のインフレ率の高まりは、経済再開で繰り越し需要が顕在化する中、材木や半導体など原材料の不足、コンテナや運送ドライバーの不足や港湾作業の遅れなどの物流の停滞、労働力の不足など、供給のボトルネックによる。実際、FRBが6月に公表した米地区連銀経済報告(ベージュブック)には、不足(shortage)という言葉が53回登場する。
一方、世界のサプライチェーン(供給網)を考えると、日本やその他のアジア地域、メキシコ、ブラジルなどではワクチン接種率がまだまだ低く、デルタ株の流行も懸念される中、これらの地域の生産体制の回復には、さらなる時間を要することが考えられる。そして、これらの地域でもやがてはワクチンの接種が進み、内需の回復が供給よりも先に生じることが予見される。すなわち、米国と同じことが世界に連鎖的に広がっていく可能性がある。
その先を考えると、経済の「ブロック化」や防衛費の増大につながる米中対立、所得再分配や教育・インフラ投資を通じた国内経済格差の是正、中国も国際公約する気候変動対策、各企業によるESG(環境・社会・ガバナンス)対応はいずれもインフレの要因と考えられる。また、中国の所得上昇と労働力人口の減少は、これまでのディスインフレ圧力が終わることを示唆しているだろう。
こうした中長期のインフレ要因に直面し、FRBは利上げをし、インフレ期待を抑制できるのだろうか。
まず、利上げを行えば、金融資産価格の大幅な調整が避けられない。利上げを実際に行ったわけではない6月のFOMC直後でさえ、FRB幹部は「火消し」に躍起になった。そして何より、政府債務残高は第二次大戦並みである。政府債務が拡大する世界では中央銀行は政府と一体になり、低金利政策による金融抑圧(インフレによる政府債務の返済)を強いられる。政府とFRBは、中銀デジタル通貨(CBDC)の発行とマイナス金利の適用を含め、インフレを起こす(政府債務を減らす)ために、あらゆる手段を尽くす可能性があるだろう。
(重見吉徳、フィデリティ投信 フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト)