経済・企業

物価上昇はあくまで一時的 半導体や航空便の供給不足は解消へ=窪谷浩

対論 インフレが来る、来ない 一時的な上昇 半導体や航空便の供給不足は解消へ=窪谷浩

 米国のインフレ率は今年の春先以降に急激な上昇がみられており、インフレリスクが懸念されている。消費者物価(CPI)は、総合指数が2021年2月の前年同月比1・7%から5月には08年8月以来となる同5・0%に上昇した(図)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコア指数も同3・8%と、こちらは1992年4月以来の水準となるなど物価上昇圧力が高まっている。(強い米国経済)

 CPIの大幅な上昇は、新型コロナの影響で大幅低下した前年の反動(ベース効果)に加え、原油価格の上昇などでエネルギー価格が同28・5%となったほか、中古車価格が同29・7%、航空運賃が同24・1%となるなど、これらの品目で3%ポイント物価を押し上げたことが大きい。中古車価格の上昇は世界的な車載半導体の不足による新車減産の影響とみられるほか、航空運賃はワクチン接種の進捗(しんちょく)に伴う経済正常化で旅行需要の回復に比べて航空便数などの供給が追い付かない供給のボトルネックが価格を押し上げていることなどが背景にある。

 一方、急激な物価上昇は一部の品目に限られている。クリーブランド連銀が集計する価格変動の大きい品目の一部を除いた刈り込み平均CPIは5月が同2・6%と低位にとどまっていることが分かる。

 足元のインフレ上昇スピードは米連邦準備制度理事会(FRB)や市場予想を上回っており、当面はインフレ率が高止まりする可能性が高い。しかしながら、来年以降のインフレ率は大幅に低下するとの見方が支配的である。これは足元の物価を押し上げている要因が一時的とみられているためだ。実際に車載半導体の不足は早ければ、年内に解消するとの見方があるほか、旅行需要の高まりに伴い、航空便増などによって供給のボトルネックは改善が見込まれており、来年に向けてこれらの物価上昇圧力は緩和される可能性が高い。

長期化リスクも

 可能性は高くないものの、インフレ高進が長期化するリスクも指摘されている。FRBのパウエル議長が指摘するように、新型コロナパンデミックからの経済正常化プロセスは前例がないため、供給のボトルネック解消の時期については不透明感が残る。仮に解消が遅れる場合には、インフレが長期化する可能性も否定できない。

 また、注目されるのは労働市場の動向だ。米国では求人数が統計開始以来最高となるなど労働需要が強い中で、新型コロナの感染リスクや手厚い失業給付などが復職意欲に影響し、労働供給の回復が遅れていることが指摘されている。足元で新型コロナの感染リスクが後退しているほか、9月には失業保険の追加給付が期限を迎えるため、今後は労働供給の回復が加速するとみられる。しかしながら、回復が遅れる場合には、失業者数が高止まっていても、労働需給の逼迫(ひっぱく)から賃金上昇がスパイラル的なインフレ上昇につながる可能性もある。

(窪谷浩・ニッセイ基礎研究所主任研究員)

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