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新型コロナウイルス ヤマ場迎えた「国産ワクチン」 第一三共など最終治験へ=前田雄樹

    接種が進む新型コロナワクチン (Bloomberg)
    接種が進む新型コロナワクチン (Bloomberg)

     新型コロナウイルスに対する「国産ワクチン」の開発がヤマ場に差し掛かっている。第一三共や塩野義製薬が最終段階の治験に入る準備を進めているほか、武田薬品工業は米ノババックスが開発したワクチンを国内で製造し、年内の供給開始を目指している。日本は現在、国内で使用するワクチンのほとんどを輸入に頼っているが、今後、国内で製造されたワクチンが選択肢として順次加わってくる見込みだ。

     現在、日本で主に公的接種に使われているワクチンは、米国のファイザーとモデルナが開発した二つのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン。国内メーカーが開発した「純国産ワクチン」はまだない。英アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは、原液の製造をJCRファーマが、バイアル充填(じゅうてん)などの製剤化を第一三共と明治ホールディングス傘下のKMバイオロジクスが、それぞれ国内で行っており、8月から40歳以上を対象に公的接種での使用が可能になった。コロナ禍が長期化し、変異株の脅威が高まる中、国産ワクチンを望む声は根強い。

    武田は年内供給へ

     国内では現在、アンジェス、塩野義製薬、第一三共、KMバイオロジクス、武田薬品工業──が国産ワクチンの治験を進めている。このうち、現段階で実用化に最も近い位置にいるのが武田だ。同社が開発しているのは米ノババックスが創製した「組み換えたんぱくワクチン」と呼ばれるタイプで、遺伝子組み換え技術を使って作ったコロナウイルスのスパイクたんぱく質をワクチンとして接種する。武田はノババックスから製造技術の移転を受け、山口県光市の自社工場で年間2億5000万回分の生産を計画している。

     ノババックスが米国などで行った最終治験では、変異株を含む新型コロナウイルスに対して90%を超える有効性が確認された。日本では2月から武田が成人200人を対象に初期の治験を行っており、海外治験のデータとあわせて承認申請を行う方針。通常の冷蔵庫の温度で保存でき、扱いやすさの点からも期待が大きい。

     武田に続くのが、塩野義、第一三共、KMバイオロジクスの3社だ。塩野義は昨年12月から、第一三共とKMバイオロジクスは今年3月から、国内で初期の治験を行っている。塩野義が開発しているのは、2019年に買収したUMNファーマが持つ昆虫細胞を使ってたんぱく質を作る技術を活用した組み換えたんぱくワクチン。製造は協力会社のUNIGENに委託し、年内に年間6000万人分の生産体制が整うとの見通しを明らかにしている。

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     第一三共はmRNAワクチンを開発しており、年内にも最終治験に入る方針だ。毒性をなくしたウイルスを使う「不活化ワクチン」を開発中のKMバイオロジクスも、年内の最終治験開始を目指すとともに、並行して半年で3500万回分を生産できる体制を整備。創薬ベンチャーのアンジェスや、医薬品開発支援のアイロムグループの子会社IDファーマも開発を進めている(表1)。

    塩野義、最速で年度内

     先行するファイザーやモデルナのワクチンが普及する中、国内メーカーは大規模治験の実施という困難に直面している。接種が進んだことで未接種の治験参加者を集めるのが難しくなっている上、すでに有効なワクチンが使えるのにプラセボ(偽薬)を接種することには倫理的な問題もある。

     こうした課題をクリアするため、プラセボを使わない臨床試験の方法が各国で議論されており、すでに実用化されたワクチンと中和抗体の量を比較して有効性が劣らないことを確認する「非劣勢試験」などが検討されている。ファイザーやモデルナはプラセボを使った数万人規模の治験で発症予防効果を確認したが、中和抗体を指標とする比劣性試験なら数千人規模の治験で承認への道が開かれる見込みだ。塩野義や第一三共は、この方法で承認取得を目指しており、塩野義は最速で21年度中、第一三共は22年中の実用化を目標にしている。

     国産ワクチンの開発を巡っては製薬企業から、一定の要件を満たした医薬品に認められる「条件付き早期承認制度」の対象をワクチンにも広げるよう求める声も上がっている。同制度は、重篤かつ有効な治療法が乏しく、患者数が少ない疾患に対する医薬品を対象とした特例的な制度。適用された場合、中間段階までの治験で一定の有効性・安全性が確認されれば、市販後の調査でそれらを再確認することを条件に早期に承認を得ることができる。この制度がワクチンにも適用されれば、最終治験と並行して使用を始めることも可能になる。

     海外頼みの供給にはリスクがあり、安全保障の観点から国内でワクチンを生産できるようにしておくことは重要だ。コロナワクチンの開発を通じて新技術を蓄積しておけば、いつ起こるかわからない将来のパンデミックへの備えにもなる。しかし、最終治験の結果を待たずに承認を可能とするような動きには、医療従事者を中心に疑問の声も上がる。高い有効性と安全性が確認されたワクチンが使用可能な状況で、特例を使ってまで国産ワクチンの承認を急ぐ必要があるのか、という指摘だ。国産ワクチンは重要だが、条件付き早期承認制度を適用する大義は乏しい。

    「新型コロナの発生後、自社でワクチンが作れないか検討したが、当時、これを速やかに実現できる技術が自社にはなかった。しかし、それはわれわれだけではない。世界的な製薬企業15社のうち、自社でワクチンを作ることができたのは1社だけ。それ以外はすべてバイオ企業などから技術導入したものだ。我々も自社開発が難しいということで、速やかにパートナーシップを結ぶことを決めた。

     6月29日に開かれた武田の株主総会で、クリストフ・ウェバー社長はこう語った。パンデミック時に優れたワクチンを安定的に確保するには、こうした視点も欠かせない。国内で製造されたアストラゼネカのワクチンは東南アジアに輸出され、国際貢献にも一役買っている。ウェバー氏も「ノババックスのワクチンをまず日本に導入し、その後は他の国にも展開したい」としている。

     日本は大規模治験を終えた90%以上の予防効果のあるワクチンを当面の必要量確保している。純国産ワクチンの開発は将来への宿題という位置づけだろう。

    軽症用治療薬を初承認

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     コロナを克服して日常を取り戻すためにはワクチンだけでなく、治療薬も欠かせない。これまでは主に、ほかの疾患で承認されている既存薬を転用する形で開発が行われてきたが、最初から新型コロナへの効果を狙った新薬の開発も進んでいる(表2)。

    新型コロナ治療薬の特例承認を受けた中外製薬 (Bloomberg)
    新型コロナ治療薬の特例承認を受けた中外製薬 (Bloomberg)

     厚生労働省は7月19日、中外製薬が6月に申請していた新型コロナ治療薬の「抗体カクテル療法」(製品名・ロナプリーブ)を特例承認した。中和抗体である「カシリビマブ」と「イムデビマブ」を組み合わせて投与する治療法で、米リジェネロン・ファーマシューティカルズが開発した。中外は国内での販売を担う。

     海外で行われた臨床試験では、基礎疾患を持つなどリスクの高い軽症〜中等症の患者に投与することで、入院や死亡のリスクを70%低下させた。在任中のトランプ前米大統領への治療に使われたことでも知られ、米国では昨年11月に緊急使用許可(EUA)が出されている。

     国内でコロナ治療薬として承認されている薬剤は四つとなったが、軽症・中等症の患者を対象とした薬剤は初めて。田村憲久厚生労働相は「治療法としては大きな前進」と話し、ワクチン接種が進み、軽症患者の増加が予想される中で新たな薬剤が使用可能となったことに期待を示した。

     コロナ向け抗体の開発はほかの企業も行っており、米イーライリリーは「バムラニビマブ」と「エテセビマブ」の二つの抗体を併用する治療法のEUAを米国で取得。米バイオベンチャーのヴィル・バイオテクノロジーズと英グラクソ・スミスクラインが共同開発した「ソトロビマブ」にもEUAが出されている。アストラゼネカも抗体カクテル療法「AZD7442」の最終治験を進める。

     抗体医薬はコロナ治療の新たな武器として期待されるが、基本的には重症化リスクの高い患者が対象で、日本では入院患者に使用が限られる。軽症者が自宅で服用できる飲み薬の開発は重要な課題だ。米メルクは米リッジバック・バイオセラピューティクスと共同で、経口の抗ウイルス薬「モルヌピラビル」を開発中。日本を含む世界で最終治験に入っており、順調に進めば9〜10月にデータを得られる見込みだという。米国などでは年内にも実用化される可能性があり、日本でも早期の承認が期待される。

     スイス・ロシュも米アテアから開発権を取得した経口抗ウイルス薬「AT─527」を開発している。海外では近く最終治験に進む見通しで、日本では国内販売を担う中外が開発を進める。ファイザーも経口抗ウイルス薬の開発を行っており、年内の実用化も視野に入れている。

    日本勢も経口薬を開発

     国内メーカーでは、塩野義製薬やバイオベンチャーのオンコリスバイオファーマが経口抗ウイルス薬を開発中で、塩野義は7月に日本で初期の治験を始めた。ペプチドリームは富士通などと創薬ベンチャーのペプチエイドを設立し、アミノ酸が連なった「ペプチド」をコロナ治療薬として開発中。富士通のデジタル技術を活用することで開発期間を短縮し、早期の承認取得を狙う。

     既存薬の転用では、有効性や安全性を示せず開発が頓挫したものも少なくない。小野薬品工業は、抗ウイルス効果が期待された膵(すい)炎治療薬「フオイパン」について、国内で行った最終治験で有効性を証明できず開発を中止。第一三共は、同「フサン」を新型コロナ向けに吸入製剤として開発していたが、安全性への懸念から開発を中止した。富士フイルム富山化学の新型インフルエンザ治療薬「アビガン」は、厚生労働省の審議会で承認が見送られ、現在、別の臨床試験で有効性の証明を試みている。

    (前田雄樹・AnswersNews編集長)

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