緊急連載・社会学的眞子さまウォッチング!/3 「借金」糾弾会見は必要ですか=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉
眞子さま(29)との結婚準備が進む小室圭さん(29)が帰国するなかで、2人の記者会見が検討されている。だが、待ってほしい。眞子さまやフィアンセが糾弾されるような会見は本当に必要だろうか。小室さんへの悪意ある言論が依然として横行する異様な雰囲気のなかで、2人の主張はきちんと耳を傾けられるのだろうか。十分な説明がないという次なる批判を招くのではないだろうか。
皇室の尊厳はどこへ
「眞子さまぁ、疑惑が取りざたされている小室さんとの結婚をどう考えるんですか――」。芸能リポーターが叫ぶ声、眞子さまに突き付けられるマイク……。仮にそんな場面があったら、皇室の尊厳も何もあったものではない。
『FLASH』ウェブ版は、小室さんにどうしても聞きたい13の疑問を挙げていた。主な点は、①400万円の金銭トラブル②母親の遺族年金不正受給疑惑③母親の傷病手当不正受給疑惑④小室さんの小中高時代のいじめ疑惑⑤小室さんの経歴書虚偽記載疑惑――である。
思うに、①は4月に公表された「小室文書」で十分説明されている。足りないのは「すべてが贈与だった」と断言した点の非を認めること、母親の元婚約者への感謝の言葉などである。それは、一言でも、文書でも済む。そもそも「借金」問題は話し合いで、いずれ解決する。
②と③は母親の問題であり、④はこの場でただすべき問題とも思えない。⑤は『週刊文春』(9月23日号)が報じた、小室さんが米国で就活中の経歴書に虚偽記載があったとされる問題だ。だが、文春砲としては中途半端な伝聞情報である。経歴書の内容が提出先から漏れることはないから、友人などが聞きかじった話としか思えない。
ほかにも、「ニューヨークでの生活費は足りるのか」など「お節介(せっかい)質問」ばかりだ。バッシング派は、頭を下げ続ける小室さんにフラッシュがたかれる場面を見て、溜飲(りゅういん)を下げたいだけのように見える。
皇族費は私的費用
小室さんと眞子さまに「説明」を求める人たちの根拠は、税金が投入されることだ。しかし、1億3725万円の一時金は辞退する。米国の警備があるとすれば、NY市警が治安維持の観点から行うのであって日本の納税者は関係がない。しばらくは警備があるだろうが、いずれなくなる。
小室さんの今回の帰国費用は眞子さまが出したなど頓珍漢(とんちんかん)な批判をする人がいる。皇室経済法があり、眞子さまが小室さんに簡単にお金をあげることはできない。
そもそも、皇位を継ぐことがない眞子さまの過去の教育費や生活費は秋篠宮家の私的な経費(皇族費)から支払われている。皇位継承者である悠仁さまの教育費(たとえば、中学校の授業料)が公的予算(宮廷費)から支払われるのとは大きく異なる。
「どちらにしても原資は税金だろう」と指摘する声もあがるだろう。秋篠宮家への皇族費は皇嗣就任前は6710万円(年間)、就任後は1億2810万円(同)である。多額に見えるが、宮家は、個人経営者と同様、私的使用人の給与や社会保険料雇用主負担分などを支出しなければならない。とくに皇嗣就任前の家政運営はギリギリであった。皇族費は、国家公務員の給与と同じ性格を持ち、渡されたあとの使い道は問われない。
「いずれにしても眞子さまには、税金が投入されてきたのだから、国民には結婚の是非を問う権利がある」となお考える人がいるかもしれない。その論理に沿えば、国家公務員の子供たちの結婚も国民が意見を言えることになってしまう。
私は、眞子さまが結婚相手について、国民に説明する義務はないと考える。敗戦後の女性皇族たちは、たしかに結婚時に記者会見をしていた。それは、皇室の民主化で、国民に寿(ことほ)いでもらうことが象徴天皇制の基盤を固めるために重要だったからである。
公私の線引きも、プライバシーの概念も変わり、私的領域が拡大した21世紀。女性皇族が、芸能人のようにプライバシーを切り売りして皇室人気を維持するのが良いこととは私には思えない。
問いただす権利はない
むろん、記者会見があったとしても、宮内庁の記者クラブによるもので、あからさまな糾弾場面はないであろう。事前に用意された質問とその関連質問で、粛々と進むことが予想される。NG質問なし、時間制限なしの「完璧な説明」など初めから想定されていない。
すると、「突っ込みが甘い」「説明不足」と、今度は記者クラブの記者たちに批判の矛先が向けられるであろう。
『毎日新聞』(2016年7月18日)の「人生相談」に掲載された作家・高橋源一郎さんの回答を思い出した。次男の結婚相手が気に入らない母親に対し、高橋さんは次のように答えた。
「ご次男は、独立した人格をもった大人なので、そもそも、あなた方に『認めてください』という必要もないのです。(略)親というものは、『この女性の良さが、わたしにはどうしてもわからない。けれども、息子が好きになったぐらいだから、わたしにはわからない良さがあるのだろう。なんとか頑張って理解してみよう』と思うものじゃないでしょうか」
仮に、週刊誌の報じたことがすべて本当だとしても、小室さんがどんな人物だろうとも、眞子さまが選んだ人である。それを糾弾し、問いただす権利は、国民にも、マスメディアにもない。
「弁護士として米国で活躍するのは無理」「皇室の金をあてにしている」などの侮辱的な足の引っ張り方は、恥ずかしいし、情けない。
私とて、眞子さまと小室さんが今何を考えるのか、その肉声を聞きたい。しかし、現状のような異様な雰囲気のなかで、中途半端な説明に終わるなら、記者会見という形をとることが得策とも思えない。眞子さまと小室さんを糾弾するための記者会見なら、私は見たくはない。
もり・ようへい
成城大文芸学部教授。1964年、埼玉県生まれ。博士(文学)。毎日新聞で皇室や警視庁担当、CNN日本語サイト編集長、琉球新報ワシントン駐在を経て、 2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史』(吉川弘文館)など