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OB悲願の初総理誕生! 岸田新首相、開成同窓内閣の吉凶〈サンデー毎日〉

岸田文雄首相の胸中はいかに
岸田文雄首相の胸中はいかに

 開成高校(東京)から初の総理大臣誕生である。40年連続で東大合格者数トップを誇る名門校のOBにとっては長年の悲願達成だ。事実、岸田文雄氏を首相の座に押し上げた力の一つに「開成人脈」があった。要職に同窓生を配置した岸田内閣の船出やいかに――。

「それはまあ、うれしいですよ。一卒業生としては」

 霞が関で禄(ろく)をはむ開成出身の官僚に「岸田新首相」の感想を尋ねると淡々とした答えが返ってきた。が、数秒もしないうちに本音が口調ににじみ出す。「麻布は前から(首相を)出してたでしょ。悔しいってほどではなかったんだけど」

 開成と麻布といえば、首都圏の中学入試で、武蔵を加えて「御三家」と呼ばれる男子トップ校のライバル同士だ。麻布出身の首相には橋本龍太郎、福田康夫両氏がいるが、開成はゼロだった。開成は今春の東大入試で146人の合格者を出し、不動のランキング1位。一方の麻布は86人で4位に甘んじる。しかし、麻布には複雑な思いがあるという。この開成OBが話す。

「東京のど真ん中にあり、スマートなイメージの麻布に比べ、開成は下町に近い(荒川区)西日暮里で、どうしても泥臭い。象徴的なのが文化祭です。うちが先に日程を決めると、麻布が同じ日にかぶせてくると言われていました。すると、雙葉とか女子学院とか、憧れの女子校の生徒が麻布の文化祭に行ってしまう。そういう積年の感情もあり、首相が出ていないことに屈折した思いを抱く卒業生がいたのは事実です」

 麻布からは首相だけでなく、有力政治家も輩出している。一方、開成は1976年卒の岸田氏以外、政界で目立つ人材は決して多くない。開成出身の政治家には東大卒の元官僚が多い。実はその〝官僚臭さ〟が、開成から首相が出なかった原因だという見方がある。

 全国の名門校に詳しく、今年4月まで本誌に「高校風土記」を連載したジャーナリストの猪熊建夫氏は、「岸田首相は開成の落ちこぼれです」と言い切る。

「業界ごとに開成会を名乗る集まりがあり、岸田首相誕生を祝っているが、裏では冷ややかに見ています。『開成といっても早稲田じゃないか』と。そういう開成の東大一辺倒が良くない。大学で何がしたいかではなく、東大しか狙わない受験の弊害が出ている。政界に限らず面白みのある人材がいない。特に学者でこれという人が出ていません」

 岸田首相は「東大―官僚」の定番コースを歩んでいない。東大受験に失敗し、2浪して早稲田大へ入学した。

「そもそも開成は、中学入試の段階で官僚向けの秀才が入る学校だと受験界では言われています」と話すのは教育問題に詳しいジャーナリストの小林哲夫氏だ。

「開成の入試は基本的な問題を間違いなく短時間で解く、いわば官僚の資質である事務処理能力を問う出題形式です。奇をてらう難問が出がちな麻布や灘の入試が『天才発掘型』ならば、開成入試は『官僚発掘型』と言えそうです。半面、開成にはエリート校らしからぬ体育会的な雰囲気があります。先輩、後輩の絆が深く、学年を超えた結束は卒業後も続く。唯我独尊的傾向がある麻布出身者と大きく違うところです」

 「安倍カラー」を拭い去れるのか

 開成名物として知られるのが5月の運動会だ。八つの色をシンボルとする8組に縦割りされ、高3が下級生の競技、応援の指導をする。卒業後も先輩後輩間では「〇年卒の橙(だいだい)組です」の一言で話が通じるらしい。

「高3のメイン競技は棒倒しですが、指導した同じ色の高1が騎馬戦で負けると、責任を取って坊主頭になります。自分たちも棒倒しで負けると坊主、総合優勝できないとやっぱり坊主にするので、5~6月の高3生はほとんど全員が坊主頭です(笑)」(開成OB) 運動会で培った団結力、チーム力は開成出身者の誇りだ。チームプレーの典型を官僚組織と見なせば、開成OBが霞が関で活躍する理由も分かる。同時に、あえて「出る杭(くい)」になろうとする政治家、ましてや首相への道をためらう――そう考えるのは乱暴だろうか。

 ともあれ、その団結力が注目されたのが自民党総裁選だ。安倍晋三、菅義偉内閣で国家安全保障局長を務めた北村滋氏が同窓会の場で「岸田総理実現」を訴えた話は有名だ。北村氏は安倍氏に重用された元警察官僚で、開成で岸田首相の1年先輩。組閣前の一時期、官邸の要である官房副長官に就くという観測が流れた。「官邸官僚」の生態に詳しいノンフィクション作家の森功氏が解説する。

「北村氏が岸田総理実現のために動き、岸田氏が『北村官房副長官』を検討していたのは事実です。しかし安倍氏の意向が政権に反映されると見られるのを岸田氏が嫌ったのです。岸田氏は北村氏に安全保障担当の首相補佐官を打診しましたが、国家安全保障局長からは〝格落ち〟になるとして、北村氏が断っています」

 安倍カラーが濃く映るのを避け、人事を見送ったというのだ。「安倍氏からは『萩生田(光一)官房長官』という圧力もあったと思いますが、松野博一氏を起用してかわしました。〝安倍そんたく〟というより、むしろ岸田カラーを出しているといえます」(森氏)

 一方、岸田官邸では嶋田隆・元経済産業事務次官(78年開成卒)が筆頭格の政務担当の首相秘書官に就いた。同窓生を側近中の側近に置いたわけだ。また、鳴り物入りで新設した経済安全保障担当相に小林鷹之氏(93年開成卒)を抜擢(ばってき)した。東大卒の元財務官僚だ。

「岸田首相の誕生と政権運営に開成人脈がフル活用されています」(同)

 ただし、嶋田氏は安倍氏の懐刀、今井尚哉(たかや)元首相秘書官(現内閣官房参与)と経産省の同期。今井氏を通じて安倍氏の息が官邸に及ぶと見る向きもある。また小林氏の初入閣は甘利明幹事長の〝一本釣り〟とされる。同窓内閣の下地に「2A」の影もちらつくが、

「嶋田氏は経産次官時代、次の事務次官として今井氏の推した人選を断っています。今井氏の知見を取り入れつつも傀儡(かいらい)にはならないはずです」(霞が関関係者)

 岸田組の旗印は一体何色か

(ライター・堀和世)

「サンデー毎日10月24日号」表紙
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 10月12日発売の「サンデー毎日10月24日号」は、他にも「10.31総選挙全予測 看板倒れ岸田自民19減」「忖度しない元官僚が、内閣激辛診断 古賀茂明×前川喜平 岸田新政権は安倍復活の第一幕にすぎない」「緊急連載・社会学的眞子さまウォッチング!/5 混乱の一因は秋篠宮さまにもある」などの記事も掲載しています。

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