経済・企業

S&P500が5000ポイントの大台に到達するのはいつか=青木大樹

9月は市場が様子見姿勢を強めたが……  Bloomberg
9月は市場が様子見姿勢を強めたが……  Bloomberg

どうなる米国株 S&P500は5000ポイント台に 企業業績の回復で上昇余地=青木大樹

 米国株は8月にかけて何度も過去最高値を更新していた。その度に、「高過ぎるのではないか?」といった懸念の声が聞かれた。そして、9月以降、デルタ株感染による消費マインドの低下、半導体や人材の供給制約など景気の下押しリスクが意識され始めた。9月のエバーグランデ(中国恒大集団)による債務懸念もまた、市場の様子見姿勢を強めた。(今こそ買う!米国株)

 しかし、米国株式の展望を悲観する必要はないと考えている。デルタ株は新規感染者で1日当たり20万人程度が続いているが、ワクチンの普及に伴って致死率は2~5%程度あったのが、1%未満まで低下している。もちろん、米国でもブースター接種(追加接種)は必要となろう。

 大規模な経済封鎖のリスクが低下する中、特に旅行に対する需要は強い。米国運輸保安局による航空旅客数を見ると、海外旅行は厳しい中でも旅客数はコロナ前対比で70~80%まで回復しており、国内旅行はほぼコロナ前の水準を取り戻している。

 先行きも堅調な個人消費を予想している。これまでの財政給付から米国家計は2・6兆ドルもの過剰貯蓄を保有している(図1)。米国は日本の6倍以上である。英国の調査会社「YouGov」によると、米国では2021年末までに25%の家計がコロナ禍で増えた貯蓄の半分以上を、44%が一部を支出すると回答している。

 また、半導体や自動車部品の供給不足の影響は今後徐々にはげ落ちていくだろう。8~10月が最も厳しい局面であり、新興国でのワクチン接種も進む中、今後は改善が確認されていくだろう。企業による在庫修復に向けた投資意欲は根強い。そして、人々は労働市場に戻り始めており、雇用も正常化に向かっている。

 実際、4~6月期の企業決算は従来の想定以上の伸びを示した。これを受けて21年、22年のEPS(1株当たり利益)の伸び率予想をそれぞれ40%、7%から、45・8%、9・7%と上方修正している(図2)。そして、S&P500は21年末で4600ポイント、22年末には5000ポイントに達すると考えている。ただし、そのけん引役は、これまでの成長株(グロース株)一辺倒ではなく、経済再稼働の恩恵を受ける景気敏感株、割安株(バリュー株)が勝ち組となろう。

 セクター別では、一般消費財セクターやエネルギーセクター、そして金融政策の正常化による収益性の改善が期待できる金融セクターに注目している。またヘルスケアセクターは、薬価改定リスクはおおむね織り込み済みとみており、景気のピークアウト後に上昇しやすい。

 足元、中国の不動産債務も懸念されているが、不動産に過剰な在庫があり大きな価格下落につながった15年とは状況が異なっている。シャドーバンキングと言われたオフバランスの負債を含むレバレッジ率も減少している。

リスクは「政治の秋」

 しかし、年末に向けては米国政治や金融政策といった「政治の秋」リスクが市場の変動を高める局面があるかもしれない。

 目先、大きな焦点が財政支出と債務上限の引き上げとなろう。財政支出は、今後5年間で新規支出5500億ドルのインフラ投資計画と、今後10年間で環境や福祉分野に3・5兆ドル(うち2兆ドル程度が増税を財源とするもの)を投じる計画の二つの審議が進んでいる。

 また、債務上限の引き上げも10月中旬ごろが期限とみられ、成立が遅れれば債務支払いの停止(テクニカル・デフォルト)や政府閉鎖の懸念が高まるだろう。

 特に22年は、これまでの財政支出の影響がはげ落ちる「財政の崖」リスクが意識される。21年(会計年度)の財政赤字はGDP(国内総生産)の13・4%に上る見通しであり、財政支出拡大や債務上限の引き上げの成立が遅れれば株価に影響を与えるだろう。

 ただし、民主党・共和党は22年秋の中間選挙を意識している。成立を遅らせることにより国民の批判を受けることは避けるとみられ、最終的には成立が図られるだろう。

 そして、「政治の秋」のもう一つの大きな注目点が、金融政策に関して米連邦準備制度理事会(FRB)による資産買い入れ縮小(テーパリング)の決定やその削減幅となろう。現在FRBは毎月1200億ドルの国債・住宅証券を買い入れているが、11月にもこの買い入れペースの削減と毎月当たりの削減幅を決定する可能性が高い。

 テーパリングで想定される影響が金利の上昇だ。特に今回FRBは物価連動国債を市場発行額の4分の1程度まで購入しており、この買い入れペースが縮小していくことで物価上昇率を除いた実質金利の上昇圧力となりそうだ。

 ただ、テーパリングといっても資産を買い入れ続けることには変わりなく、金利の急騰リスクは小さい。22年に向けては現状で想定している0・3~0・5%ポイントの10年金利上昇であれば、米国株は大きく調整することはないだろう。

ショックは局所的

「政治の秋」により一時的に株価の変動は高まるかもしれない。しかし、潜在的な企業収益の拡大余地は大きく、投資家は短期の変動に惑わされる必要はないだろう。一方、ここで聞かれるのが「いったい、いつまで上昇局面が続くのか?」である。

 再び株価を大きく下落させるようなショックについては、過去のパターンを見る限り、利上げが十分に進んだ後、特に短期の金利である2年金利が長期の金利である10年金利に追いついた後に生じる傾向がある。

 大きな調整は、今回のコロナショック、前回のサブプライム・ショック、そして00年のITバブル崩壊など、金利が十分に引き上げられた後、さまざまなきっかけによって資金の流れが急激に変わることで生じていた。

 米国の「政治の秋」や中国の不動産問題など、リスク要因は存在する。しかし、財政・金融政策環境が緩和的な状況では、ショックは局所的にとどまることが多く、米国や世界的な金融不安や景気後退にはつながりにくい。

 仮に22年から利上げが開始されたとしても、コロナショック前のように10年・2年金利がフラット化するのは早くて24~25年ごろと考えている。「来年のことを言えば鬼が笑う」とは言われるが、今後も局所的なショックは起こりうるが、財政・金融環境からみれば十分に吸収できるだろう。

(青木大樹、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント最高投資責任者)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事