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住まい選びに「防災」視点を!保険料、ローン金利を直撃=長内智
家計 保険料や住宅ローン金利を直撃 住まい選びに「防災」の視点
自然大災害によって農作物の不作に伴う食料品価格の上昇という形で日常生活への影響が顕在化し始めている。さらに「人生100年時代」といわれる中、家計のライフプランという観点からも住宅の火災保険料の相次ぐ値上げが懸念材料だ。(あなたの町の危険度)
火災保険料は建物の構造や所在地(都道府県)によって異なり、さらに地震保険や水災への補償を付帯することによって家計の負担額は増加する。つまり、住宅についての保険料支払額はさまざまな条件で変動するのである。日本全体の動向を捉えるには、CPI(消費者物価指数)の「火災・地震保険料率」の推移が参考になる。(図1)
長期的推移をみると、火災・地震保険料は2019年10月と21年1月に大幅に上昇した。これは主に火災保険料が値上げされたことによる。21年1月については地震保険料の値上げの影響も含まれるが、それを除いても火災保険料の値上げが明確な上昇要因となっている。
また、19年以降の上昇幅は、すべての財・サービスの物価動向を示す「総合指数」や「自動車保険料(任意)」に比べて際立っており、家計全体で見ると火災保険料負担が相対的に重くなっていることが読み取れる。
火災保険料改定の通常の流れを簡単に確認すると、以下のようになる。
まず、損害保険料率算出機構が、自然災害の発生状況や建物の築年数の伸長に伴う災害リスクの高まりといった社会環境の変化を統計データで分析し、保険料の基礎となる「参考純率」を算出・改定する。その1、2年後に損害保険各社が経費などを踏まえて火災保険料を改定することになる。
例えば、19年10月の火災保険料の大幅値上げは18年6月の参考純率の改定(平均5・5%増)、21年1月の値上げは19年10月の改定(平均4・9%増)を受けたものだ。また、今年の6月の参考純率改定は過去最高の平均10・9%増となり、火災保険料は22年度中に再び大きく上昇する見込みだ。
これらの値上げは近年、100年に一度といわれる自然大災害が毎年のように発生してきたことによる。損害保険協会によると、大規模風水害などによる保険金支払額と支払件数は18年度と19年度に急増しており、それが時間的なラグを伴って段階的に火災保険料の値上げという形で反映されてきた(図2)。
地球温暖化の将来見通しを踏まえると、自然大災害は今後も頻繁に発生し、それに伴う火災保険料のさらなる値上げを想定しておく必要もある。気候変動についての研究を行う国際組織であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、今年の8月に公表した「第6次評価報告書」で世界の気温は21~40年に1850~1900年と比べて1・5度上昇するとの見通しを示した。この1・5度の上昇により、豪雨の発生頻度は1・5倍になるとしたのである。
ローン金利にも影響
今後の住まい選びの自然大災害の影響としては、火災保険料の単なる値上げだけでない。住宅ローン優遇金利が適用されなくなるケースや地域別保険料の導入についても考慮しておく必要がある。
まず、「レッドゾーン」と呼ばれる土砂災害特別警戒区域内で新築住宅を建設、または購入する場合、その設計検査申請が今年10月以後になるものについては「フラット35S」が利用できなくなった。フラット35Sは、長期優良住宅など質の高い住宅に対し、通常の「フラット35」より0・25%低い優遇金利が適用されるというものだ。
例えば、住宅ローンの借入額が3000万円で金利などの借り入れ条件が(図3)のような場合、金利が0・25%高くなることで総支払額は約150万円増える。
また、火災保険に付帯できる水災補償については、楽天損害保険が20年に日本で初めてハザードマップを基に保険料を変える仕組みを導入した。今年6月には、金融庁が「地域別保険料の導入に関する有識者会議」を設置し、そこでの議論を踏まえ、地域ごとに水災補償の参考料率が設定されるようになる見込みだ。将来的に損害保険各社がその参考料率を適用することにより、水害リスクの高い地域ほど保険料が高くなる。
このように、住む場所によって火災保険料などの家計負担が今以上に大きく変動するようになれば、不動産市場の需要動向において建物の立地条件が一層重要視されるようになるだろう。このことは、個々の物件の需給バランスの変化を通じ、その不動産価格、不動産資産価値にも影響を及ぼし得る。
IPCCの見通しに基づくと、当面は気温の上昇傾向が続き、それに伴い自然大災害も頻発すると想定される。こうした中、家計は気候変動問題を自分事として捉え、これからの住まい選びでは「防災意識」という視点が一段と重要になる。
例えば、住宅を購入する際にはハザードマップを事前にしっかりと確認し、その物件の災害リスクを適切に把握しておくことが欠かせない。また、保険料負担などについては、災害リスクを踏まえて付帯すべき補償を適切に選択するとともに、値上げが見込まれる場合は、その前に長期契約を活用して保険料を抑えるといった対応策も検討しておきたい。