水害発生地でなくても区内は5%地価下落=中園敦二/和田肇
10月7日午後10時41分ごろ。東日本大震災以来10年ぶりとなる震度5強の地震が東京23区を襲った。地震の規模を示すマグニチュード(M)5・9と推定される。(あなたの町の危険度 特集はこちら)
震源の直上(震央)よりも、少し離れた地域で最大震度が観測され、震度分布は同心円状に広がってはいなかった。地震の揺れは、地盤の揺れやすさによって増幅されることがあるという。
首都直下型
政府が想定する「首都直下地震」で最悪の場合、約2万3000人が死亡、被害額は95兆3000億円としている(表)。今回の地震は「想定より、マグニチュードが一回り小さく、震源も深い首都直下型の一種だった。引き続き、地震に備えてもらいたい」(東北大学災害科学国際研究所の遠田晋次教授)。
5年前の2016年4月、熊本県で震度7の地震が2度発生。熊本城の天守閣の屋根瓦や石垣が大きく崩れ落ちた映像は記憶に新しい。今年7月には静岡県熱海市で大規模な土石流が起き、濁流が住宅地をのみ込んだ。危険性の高い盛り土についても行政の対応のあり方が問われている。日本全国どこでも、いつ発生してもおかしくない自然災害への備えが不可欠な時代に突入した。
「もう、マンションを売ってもいい時期だろうか」
19年10月の台風19号で被災した川崎市の武蔵小杉駅近くの高層マンションに住む40代の男性が、不動産仲介会社に駆け込んだのは今春だった。災害当時、近くの多摩川の水が排水管の水門から逆流して、駅周辺のマンホールから水が激しく噴き出ていた。あれから約2年。マンション価格が戻ったと思って相談する人も多い。
路線価によると、浸水地点の価格は被災した翌年は横ばいだったが、100メートルほど離れて浸水しなかった地点は約2%上昇した。
しかし、今後は水害が発生した地区内では、地価が下落するケースが見られるようになるかもしれない。自治体によって、洪水、津波、土砂災害、高潮、火山などのさまざまな災害による被害を予測し、その被害の範囲を地図上に示した「ハザードマップ」を公表している。
危険増で地価下落も
実際、豪雨の発生件数は増えている。日本総合研究所などによると、1時間当たりの降水量50ミリ以上の年間発生件数は11~20年の10年間で年平均334回となり、1976~85年に比べ約1・5倍となった。「豪雨やスーパー台風による水害増加でこれまでの対策見直しを余儀なくされている」と同研究所の石川智優創発戦略センターコンサルタントは指摘する。19年の大被害を教訓に法改正があり、宅地取引の際に事業者が顧客に説明する重要事項について、東日本大震災以降に設定された「津波」「土砂災害」のリスクに加え、昨年8月から「水害リスク」の説明も義務づけられ、リスク明示は増えた。
「地価(取引価格ベース)は水害発生地点だけでなく、その区内でも5%程度下落するだろう」──。日本不動産研究所の佐野洋輔研究部次長が20年の東京・台東区のハザードマップ(浸水深5~15メートル)」による試算(暫定)を明らかにした。特に居住系で投資適格性が低下する可能性があるという。
同研究所は現時点の状況と今後の気候変動を踏まえ、災害リスクを考慮した不動産価値への影響を調査しており、水害発生前後で取引価格にどの程度影響が出ているのか、データを駆使して市区町村ごとに統計的に解析。今後、地域性などを考慮してより精査した試算を進める方針だ。
水害が発生しなくてもハザードマップに掲載された時点で、影響があるのだろうか。
同研究所の佐野次長は「金融機関などは担保評価に反映させると思われる」と言う。また、ライフルホームズ総研の中山登志朗副所長も「これまで決して重視されているとは言い難かったハザードマップを確認する利用者が増え、以前なら普通に取引されていた低地や河川近くの住宅について売買・賃貸の価格相場に影響が出る可能性がある」と指摘する。
一般的に水害などがあった場所は、しっかりとした防災対策を施さないと、再び被災する可能性もあるという。
不動産コンサルティング会社「さくら事務所」の大西倫加社長は「ハザードマップでリスクが高い場所に住むのは避けたいが、そうはいかない事情がある場合はリスクの大小や内容、また不動産の資産性も把握・理解したうえで、建物と避難の対策をできる限りとっておくのが大切だ」と強調する。
地盤調査事業者が言う。「人は忘れても、土地は覚えている」
(中園敦二・編集部)
(和田肇・編集部)
ハザードマップについては、国土交通省のポータルサイト(https://disaportal.gsi.go.jp/)に災害リスク情報などを地図や写真に重ねて表示できる「重ねるハザードマップ」、全国市区町村が作成したハザードマップを検索できる「わがまちハザードマップ」などがある。