週刊エコノミスト Online森永康平の おカネの真相

子どもの理解力・想像力を侮ってはいけない 「金融教育」で子どもたちから飛び出す大人顔負けの回答

    子どもたちの力を信じよう
    子どもたちの力を信じよう

     先日、小中学生を対象に「投資」についての授業をする機会があった。子どもたちに金融教育をするうえで難しい言葉を使うのは厳禁だが、子どもだからと言って何も理解できないわけではない。大人よりもボキャブラリーが少ないだけで、概念や仕組みを丁寧に教えればしっかりと理解をしてくれるというのが筆者の実感だ。「先生」という立場で子どもと接していながら、実は子どもたちから教えてもらうことも多い。今回は先日行った授業の中で子どもたちから学んだことを共有したい。

    「株式で資金調達する方法」を教える

     一言で「投資」といっても様々な種類がある。近年では個人の資産運用という観点から投資信託への投資が一般的かもしれないが、投資信託の多くは「株式」へ投資をしているわけで、子どもたち向けの授業でも、まずは株式投資についての説明から始めた方がいいだろうと考えた。そこで、まずは「株式の仕組み」から開始した。

     子どもたちに将来の夢を聞いてみると、色々な職業が挙がる。なかには「自分で会社を作ってスマホアプリを作る」という子どもも何人かいる。当然、事業を始めるためには多くのお金が必要になる。従業員を雇ったり、オフィスを借りたりするからだ。そこで、そのお金はどうやって調達するのかと尋ねると、「銀行から借りる」という意見が出てくる。ただ、何も実績のない企業にお金を貸してくれる銀行は限られている。仮にお金を借りることができても、十分な金額なのかどうかは分からない。

     そこで登場するのが株式だ。株式会社であれば、自社の株式と資金を交換できるし、銀行からの借り入れと違い、株式と交換して得たお金は返済する必要がない。とはいえ、デメリットもある。闇雲に株式と資金を交換すれば自身の持ち株比率はどんどんと下がり、いずれは経営権を持たない「雇われ社長」のようになってしまう。

    「需要と供給で価格が決まること」を教える

     起業家目線で株式の役割を簡単に理解したら、今度は投資家目線で株式について考えるため、株式の値段、つまり株価がどのようにして決まるかを考えていく。株価というと難しく感じる読者もいるかもしれないが、一般的な商品やサービスの値段が決まるメカニズムと同じと考えていいだろう。需要が多い一方で供給が限定的であれば、必然的に値段は上昇していくように、その株式を現時点の値段で買いたいと考える投資家が多い場合は、市場に流通している株式数が増えなければ株価は上昇していく。

    「需要と供給で価格が決まること」を教える
    「需要と供給で価格が決まること」を教える

     ここで、子どもたちに「どういう会社の株価が上昇すると思うか」を聞くと、「多くのファンがいる商品やサービスを提供している会社」「ビジネスで儲かっている会社」という回答が返ってきた。株価予測を生業としている人たちからしてみれば、「そんなに単純ではない」かもしれないが、大まかな考え方としては十分だろう。

     たとえば、ある会社がずっと増収増益を続けるのであれば、その会社の株式に投資しておけば資産は増えていくだろうし、逆に業績悪化が続き、毎年赤字で資産を食いつぶしているような会社の株式に投資をしていれば、資産は目減りしていく。

    子どもたちとタイムマシンで過去にさかのぼって投資先を考える

     このように考えると、株式投資はすごくシンプルで簡単ではないだろうか。次に子どもたちとタイムマシンに乗って、2020年1月に戻ることにした。さて、子どもたちはどのような会社の株式に投資をするのか。

     最近の子どもは世の中の流れをよく理解している。「コロナのせいで家族と外食に行く機会がなくなったからレストランの株式には投資したくないけれど、逆にデリバリーをやっている会社の株式には投資をしたい」「旅行に行けなくなったから鉄道や航空といった交通機関の会社の株式には投資できないけれど、家で過ごす時間が増えてゲームを買ってもらう人が増えるだろうからゲームを作っている会社の株式に投資したい」…など、大人顔負けのロジカルな答えが続々と挙がる。

     実際に子どもたちが「投資したい」「投資できない」といったセクターに属する企業の株価について2020年1月から12月までのパフォーマンスを見てみると、子どもたちの銘柄選別が見事に当たっていることが分かる。

     この結果を受けて「株式投資は簡単に儲けられていいじゃないか」と思うかもしれないが、タイムマシンで過去に戻ったからこそ冷静に言い当てることができるわけで、実際には未来のことを正確に予測することなどできるはずもない。

    自動運転が普及するとしたらどんな会社に投資する?

     最後に、子どもたちに「未来の話」を基に銘柄選別をしてもらうことにした。たとえば、近い将来、自動運転が普及すると仮定しよう。その場合、どのような会社の株式に投資をしたいか、投資をしたくないかを聞いてみた。

    自動運転が普及する未来にどんな会社に投資するか
    自動運転が普及する未来にどんな会社に投資するか

     実は、事前に大人たちにも同じ質問をしていた。大人たちの回答は「自動運転になってもその機能を持った自動車を作るのは既存の自動車会社だから、自動車を作っている会社に投資したい」「自動運転のシステムを作る会社の株式に投資したい」という答えがほとんどだった。

     子どもたちからも同じ答えは出てきたが、実は子どもたちからは大人の何倍もの答えが出てきたし、少なくとも筆者は思い浮かべることができなかったような答えも多かった。

     たとえば、自動車保険の会社、カーナビの会社、信号を作っている会社、教習所を運営している会社にとって自動運転の普及は軒並み逆風だから投資は出来ないという。確かに、目的地を入れれば勝手に自動車が運転をしてくれるのであれば、これらの会社が提供する商品やサービスの需要はなくなっていくから、投資をしても高いリターンは期待できなくなるだろう。

     よく子どもたちに金融教育の一環として株式投資をさせるべきかという質問を受けることがあるが、いきなり子どもたちに身銭を切らせるのではなく、まずは家で、これと似たようなことをしてみるといいだろう。仮にこのような社会になったら、どのような会社の株式に投資をしたいか、投資したくないかという意見を交換するのだ。子どもにとっては投資という観点から金融に興味を持つ機会にもなるし、ロジカルな思考能力を身につけることもできるだろう。一方で、親も子どもの発想力から新たな学びや気づきを得るはずだ。金融教育に限った話ではないかもしれないが、一つのテーマについて親子で話し合う時間を増やしていくことが非常に重要である。

     おカネにまつわるさまざまな「真相」に迫る「森永康平の おカネの真相」は、随時掲載します。

    森永 康平(もりなが・こうへい)

     金融教育ベンチャーのマネネCEO。経済アナリストとして執筆や講演をしながら、キャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOを兼務する。日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書は『MMTが日本を救う』『親子ゼニ問答』。

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