投資・運用 FIREの資産形成術
あなたはどのタイプ? 完全リタイアも副収入も 詳細解説 FIRE4パターン=横谷聡
FIRE(経済的な独立、早期リタイア)とは本来、リタイア後の生活費のすべてを資産運用の収益でカバーすることで、経済的な自由を手に入れ、自分らしい生き方を目的としたライフスタイルに転換することだ。その実現のためにはどうしても大きな資産形成が不可欠になる。大きな資産形成には時間がかかるとともに、準備期間中に出産や介護といったライフイベントで生活環境が変化してしまう可能性もある。運用収入だけで生活するのは、相当困難なのだ。(FIREの資産形成術)
そこで、完全にリタイアするFIREのほか、さまざまなパターンのFIREを考え、その生活スタイルをライフプランシミュレーター(Financial Teacher System 8)で可視化して、成功の可能性を探ってみたい。FIREの成功には、「元本となる資産の大きさ」と「そこから生まれる収益」の2要素がポイントになる。図1は、縦軸に「資産の多寡」、横軸に「収入の多寡」を取って、代表的なFIREのパターンを四つに分類したものだ。
四つのパターンはそれぞれ、(1)十分な資産を保有し、就労所得がなくても、資産運用収入でリタイア前と変わらない生活ができる「フルFIRE」、(2)資産や運用収入は少ないが、生活費を極限に減らして生活する「倹約型FIRE」、(3)好きな副業やパートを続けて生活し、資産や運用収入が少なくても一定の就労所得がある「サイドFIRE」、(4)一定額の運用収入を確保して、短時間のパートによる多少の就労所得、資産の取り崩しも足して生活する「スローFIRE」──と呼ばれている。
では、4類型で実際にどのように資産が変化するのだろうか。シミュレーションの共通条件は「1981年生まれ」「40歳からFIRE開始」「公的年金は65歳から受給を開始し、年間120万円」とする。本来、投資運用資産とは別に一定額の現預金を確保するべきだが、本稿では説明を簡潔にするために現預金を含んだ総資産額の運用収入として説明している。
◆フルFIRE 十分な資産、生活充実
引退後も生活レベルは変わらない、むしろそれ以上に充実すらできる理想のタイプだ。運用収入が生活費と同等か、上回っていることが原則で、最低でも生活費以上の運用収入が必要だ。資産1・2億円を年利4%で運用した場合、月40万円(年間480万円)の運用収入で生活費をまかなえる。資産は減ることなく、65歳からの年金受給で増加する(図2)。
◆倹約型FIRE 就労なしで倹約
生活支出を倹約はするが、運用資産が過少のため、運用収入で生活がまかなえない時期も出てくる。その場合は運用資産を取り崩していく。ただ、生活費を極限まで減らして支出を抑え込めば、就労所得などもあてにせず何とか暮らすことも可能だ。
資産5500万円を年利4%で運用すれば、運用収入は年間220万円となる。これに対して、生活費は月20万円(年間240万円)とすれば、社会保険料なども考慮するとかなり切り詰めなければならない。支出が運用を上回る月が出てきて、少額の資産取り崩しが65歳まで続き、リスクと背中合わせになる。しかし、65歳になると年金受給が始まり家計は安定する(図3)。
◆サイドFIRE 緩い就労と資産運用
一定の就労所得があるため、資産形成の運用元本をかなり圧縮することができる。このスタイルは、最も資産運用額が低くスタートできる。しかし、臨時の高額支出や、大病などに見舞われると家計バランスが崩れるリスクがある。
例えば、資産4500万円を年利4%で運用して年間180万円の運用収入を確保する。パート・副業による月10万円(年間120万円)の就労所得も得て、生活費は月30万円(年間360万円)と考える。月10万円のパート・副業収入を稼ぐには、時給1000円では1日7時間、週3~4日で可能だ。好きな仕事から選ぶことも可能な生活になる(図4)。
運用収入に就労所得を加えても年間300万円では、年間生活費360万円をまかなえないので、不足分は資産を恒常的に取り崩すことになる。65歳で年金受給開始と同時にパート・副業を終了しても、90歳時点での運用残高は1400万円と資産は底を突かない。ただし、不意の支出で運用残高が大きく減少すれば、運用収入も減るためにより多くの就労所得を得る必要がある。
◆スローFIRE 三つの収入源で安定
資産運用、比較的「スローな」就労による所得、資産取り崩しという三つの収入源がそれぞれ一定程度あり、それらを組み合わせる。収入源の選択肢が多いため、安定的なパターンだ。資産運用額も比較的大きいため、生活費の支出が大きくても対応できる。
資産7500万円を年利4%で運用し、年間300万円の運用収入を確保しながら、パート・副業による月8万円(年間96万円)の就労所得を得るケースを考える。生活費は月40万円(年間480万円)とした場合、年間480万円の支出を「運用収入+就労所得」の396万円でカバーしきれない。ただ、不足分を資産の取り崩しでまかなえば、65歳で年金受給開始と同時にパート・副業を終了しても資産は増加していく(図5)。
「60歳間際」が安定
FIREに定型はない。資産額や収益率、ライフイベントや生活スタイルもさまざまだからだ。FIREは、就労の代わりに運用というリスクを取るので、FIRE実行後のプランニングを見誤ると「FIRE破綻」も起こりかねない。
ライフイベントや運用のリスクから考えると、公的年金の受給間近である60歳近くでFIREすることが最も安定している。逆に、50歳に満たないような年齢でのFIREは、不安定さとリスクの高さが付いて回る。また、FIREをした後、収支バランスの失敗に気づくのには時間がかかるため、早くにFIREしても60歳近くで家計破綻することが起こりうる。
ここで紹介した四つのFIREのパターンを参考に、いつから、どのような生活を送るのかを決める「目標設定」は重要なポイントだ。「資産の大きさ」と「運用収入の大きさ」の2軸が常に伸びていくよう、しっかりとしたプランニングをして、経過を確認していくことが肝要だ。
(横谷聡・ファイナンシャルプランナー、FP事務所トータルサポート代表)