週刊エコノミスト Online

地方の観光課題を一気に解決 「車中泊」シェアリングサービスの可能性 ~カーライフジャパン野瀬勇一郎代表インタビュー

広島県三原市と車中泊による地域活性化の実証実験を行う(カーステイ社提供)
広島県三原市と車中泊による地域活性化の実証実験を行う(カーステイ社提供)

地方における観光の課題の1つに「公共交通機関のアクセスの悪さ」がある。その課題を解決する奇策として注目されるのが、「キャンピングカーを使った車中泊」の旅だ。広島県で「バンライフ」(“バン”を拠点に生活する新たなライフスタイル)を定着させるべく県と共同で実証事件を進めるカーライフジャパン代表の野瀬勇一郎氏に、狙いを聞いた。

(聞き手・構成=白鳥 達哉)

―― 広島県三原市で車中泊による地域活性化の実証実験「三原車内寝泊計画」が始動しました。

野瀬 私が事業を手伝っているカーステイ社は、車中泊スポットとキャンピングカーのシェアリングサービスを展開しています。地域に根差す新たな地域観光のモデルとして、このほど広島県三原市で「三原車内寝泊計画」を開始しました。

 この計画では、民家や商店、キャンプ場、温泉旅館の駐車場などの空きスペース約15カ所を、車中泊ができる場所として貸し出すほか、地元の人々による観光ツアーやカヌー体験など、地域文化に触れることができる文化体験プランを用意します。また、広島県内および関西・九州などの周辺地域でシェアリングすることができるキャンピングカー約50台の情報を新たにカーステイ社のサービスに公開する予定です。これらによって滞在型の観光を定着させ、関係人口の増加を図る狙いがあります。

―― 広島県と協業することになった理由は。

野瀬 広島県では、数年前から「ひろしまサンドボックス」という取り組みを実施しています。人工知能(AI)やビッグデータなど最新のITテクノロジーを活用できる企業や人材を県内外から呼び込んで、産業・地域課題の解決について試行錯誤するオープンな実証実験の場です。

 同県三原市は、観光スポットが散在し、また公共交通機関のアクセスが弱いことから、旅行者の滞在日数が短く、観光消費の増加につながっていないという課題がありました。そこで、持続可能な新たな旅スタイルとして、バンライフを根付かせることを目標としています。

 バンライフは、地元の温浴施設、飲食店、商店などの既存のインフラ施設と連携することで、施設整備にコストをかけることなく、長期にわたって持続可能な地域観光基盤を確立することが可能です。 将来的には「定住」も視野に入れた取り組みを展開していく予定です。

実証実験の仕掛け人となったカーライフジャパンの野瀬勇一郎氏(武市公孝撮影)
実証実験の仕掛け人となったカーライフジャパンの野瀬勇一郎氏(武市公孝撮影)

―― なぜキャンピングカーの事業を始めたのでしょうか。

野瀬 ある広告会社に勤めていた時に、「ジャパンキャンピングカーショー」というイベントを主催し、キャンピングカーの魅力に触れたことがきっかけの1つです。ゆくゆくは自分のやりたいことを仕事にしようと考えていたこともあり、カーライフジャパンを立ち上げました。「キャンピングカーを使った車中泊」は、ただそれだけでは絶対に楽しくありません。例えば、サーフィンや天体観測、仕事などと組み合わせる必要があります。当社では、このようなライフスタイルをプロデュースする事業を行っているのです。

 最初はキャンピングカーに関するプラットフォームを作ろうと思っていたのですが、すでにカーステイがプラットフォーム事業を始めていました。見た瞬間、「これは抜けないな」と思いましたね。それなら、カーステイの事業を手伝って、業界を盛り上げた方がいいのではないかと思い至り、今は自社の運営をしながら、カーステイにも営業責任者として籍を置いています。

趣味だけでなく仕事や災害時にもにもキャンピングカーは活躍する(武市公孝撮影)
趣味だけでなく仕事や災害時にもにもキャンピングカーは活躍する(武市公孝撮影)

かんぽの宿とも協業

―― 2021年3月に、カーライフジャパンの事業として、日本郵政が運営する「かんぽの宿」との協業を始めています。

野瀬 かんぽの宿の多くは都心ではなく郊外にあります。どちらかといえば交通の便も悪く、お風呂や食事は提供できる余裕があるのに、部屋が満室で使えない、ということがよくありました。そのような状況で、日本郵政も自治体との連携を考えていたところで、車中泊に非常に興味を持ってくれたのです。

 キャンピングカーを使った車中泊は、好きな時間、好きな場所に旅ができ、疲れたら休めるし、トイレも車両内にある。小さな子どもから、高齢者、ペットまで含めた大人数の旅行に向いているレジャーコンテンツです。

 ただ、日本は欧米と比較すると、まだマーケットが成熟されていません。これは私の考えですが、業界の外にある大手企業の力が入らない限り、発展は難しいのではないかと思います。

 そのような意味では、日本郵政や電鉄会社などとの連携は、目線を変えた新しいステージの仕事ができるチャンスでもあります。

―― 宿泊施設は、一見競合する分野にも思えますが。

野瀬 競合するという話はよく聞かれますが、私はむしろ協業できると考えています。

 もちろん宿側からすれば、泊まってくれた方が良いのかもしれませんが、車中泊でも迷惑をかけることはありません。ご飯とお風呂は利用してもらえるし、お土産だって買うでしょう。平均的には車中泊をする車1台につき、1万6000円くらいの売り上げが立ちます。これは決してばかにできる金額ではありませんし、顧客側にもメリットがある。見えないところにある種のメリットというかベネフィット(利益)が隠れています。

―― 車中泊をする顧客層は、どのような人たちなのでしょうか。

野瀬 車中泊スポットは、対象となるかんぽの宿に直接連絡してもらうか、カーステイ社のサービスを通じて借りられるようにしていますが、対象は「くるま旅クラブ」というキャンピングカー所有者の会の会員に限定しています。

 ここの会員になっている人の多くは、富裕層で大きめのキャンピングカーを持っていて、車中泊のマナーを分かっています。ここで一回フィルタリングを掛けているわけです。今後はこのフィルタリングを外そうかと検討しているところです。

三原市内に約15カ所の車中泊スポットを設立する予定となっている(カーステイ社提供)
三原市内に約15カ所の車中泊スポットを設立する予定となっている(カーステイ社提供)

―― そうなると客層も変わるのでは。

野瀬 変わってきますし、当然ながらそこにリスクも生じるでしょう。ただ、シェアリングはレンタカーの事業とは違い、借りたいゲストと貸したいホストをつなぐという役割があります。ホストには、ゲストに車中泊のマナーや車の使い方などをきっちり説明してもらっています。

 一方で、どうしてもGWとお盆のタイミングはマナーが乱れがちという課題もあります。そこで、カーステイ社のサービスでは、車を貸す人、場所を貸す人がレビューを書いて、マナーが悪い人をフィルタリングできるようにシステムを作っています。

―― これからは、かんぽの宿以外にも車中泊スポットを広げていくのでしょうか。

野瀬 もちろんです。かんぽの宿が非常に良い成功事例になっているので、他の宿泊業者や観光機関、電鉄グループとも計画を進めている最中です。今後もどんどん面白い試みを仕掛けていきますので、楽しみにしていてください。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事