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検証・2021衆院選 共闘の覚悟問う立憲代表選 維新と国民民主の合流の行方=ジャーナリスト・鈴木哲夫〈サンデー毎日〉

衆院選投開票日の記者会見を終え、退席する立憲民主党の枝野幸男代表=2021年11月1日
衆院選投開票日の記者会見を終え、退席する立憲民主党の枝野幸男代表=2021年11月1日

 「惨敗」は野党再編の序章か

 今回の衆院選で「惨敗」とされた立憲民主党は11月30日に代表選を行い、出直しを図る。ただ、本当に「惨敗」だったのか。また議席を増やした日本維新の会と国民民主党の「合流」はあるのか。次なる政治決戦、来夏参院選に向け、野党側の課題を検証する。 総選挙の投開票当日の10月31日夜、早くも責任論が持ち上がった。

「立憲民主党は大きく議席を減らした。枝野幸男代表ら執行部の責任は免れないのではないか」

 そんな指摘がテレビやラジオの特番で相次ぎ、こんな解説も主流になった。

「立憲は今回、野党統一候補で共産党と組んだが、これに忌避感を持った非自民票が日本維新の会や国民民主党の保守系野党に流れた」

 立憲は確かに議席減で負けた。しかし、噴き出した「敗戦論」について、幹部職員が投開票日の夜、私の電話取材にこう言った。

「きちんとした総括や分析もしていないのに、その瞬間に共闘批判が出たのは、マスコミや政治評論家に共産党と組むことへの批判が根底にあったからではないか。選挙序盤に自民党の甘利明幹事長(当時)も、いきなり『日本の政治史上初めて共産主義が政権に入る体制』などと言って構図を作った。まるでネガティブキャンペーンのようだ」

 その夜は関西の選挙特番に出演していたこともあり、全国の結果を細かくチェックできたのは深夜以降だった。比例代表も含めて全議席が確定し、翌朝に改めて結果を冷静に見ると、前夜から繰り広げられた批評は、必ずしも正確ではないことが明らかだった。

 立憲は小選挙区と比例を合わせて現有議席から14減。ところが、小選挙区は9増やしていた。共産党などと統一候補で戦ったため、前回の敗戦を逆転した選挙区が明らかに見られた。

 さらに細かく見ると、自民党と野党統一候補が戦った選挙区で、その差が1万票以内の勝負になった選挙区は59もあった。勝敗は自民党が32勝、野党が26勝(維新が1勝)とほぼ互角の戦いだった。小選挙区で自民党が今回勝利したのは187だったが、前回2017年総選挙の218に比べると大きく後退。立憲は前回の3倍に伸ばした。

 野党候補の一本化の成果が、小選挙区では出たと確実に言えるだろう。自民党の三役経験者のベテランですら、こう総括した。

「辛勝だ。統一候補の選挙区は自民党調査でリードされていた。うち(党選対本部)は前日まで230と読んでいた。最後は後援会や団体が必死に動いて街頭もやった。本当に最後の1日で組織などの自力で勝っていたからこそ、一つ一つひっくり返したということだろう。何か風一つ吹けば、ガラリと変わるような際どい勝利だった」

 では立憲の敗因は何か。決定的なのは比例での大敗北である。前回より23議席も減らした。つまり、比例で「立憲」と書いてもらえない、何かがあった。 泉健太政調会長は共に出演したBS番組で語った。

「『比例には立憲を』というアピールが全く足りなかった。ある意味、野党統一で野党各党が遠慮したという面がありました。例えば野党そろい踏みで街頭演説や決起大会をやったとします。それぞれ各党がマイクを握っても『比例は我が党に』とは言えませんよね。統一候補を応援してほしいというはがきにも『比例は立憲へ』とは書けない」

 「維新はボール投げ実利を得る」

 泉氏は昨年、旧立憲と旧国民民主が合流した際に旧国民側から参加。代表選に出馬して枝野氏に敗れたが、挙党体制の下で要の政調会長に抜擢(ばってき)された。47歳にして当選8回。選挙区では逆風の中でも自民党候補を圧倒してきた。代表選にも出馬すると見られる。

 その代表選には11月12日時点で▽ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」が話題を呼んだ小川淳也元総務政務官▽旧民進党で政調会長も務めた大串博志役員室長▽立憲の政策の柱でもあるジェンダー平等の象徴として西村智奈美元副厚労相――らが出馬に意欲を見せている。新代表に総選挙の総括を踏まえて求められるものは何か。泉氏は言う。

「比例で決定的に足りなかった立憲という政党の『これだ』というもの。旧民主党が政権を獲(と)ったときには『改革』でした。無駄を徹底的にあぶり出す。事業仕分けだって間違っていなかった。でも、野田佳彦元首相が解散に踏み切った時も『議員自ら身を切る』と宣言したのに、我々はその後『改革』と言わなくなっていた。その『改革』を全面に出した維新が今回、勝った。立憲とは何なのか。それを打ち出さなければ」

 もう一つ代表選で重要なのは、共産党との政策・理念の違いに、どう整合性のある説明ができるか。これまで曖昧だった印象は拭えない。だから、有権者は疑心暗鬼となり、自民党などに格好の攻撃材料を与えた。それらもさらけ出して議論したほうがすっきりする。泉氏に問うと……。

「終わった後に対立を生まない代表選にしなければならない。そのためには徹底した『議論』だと思います」

 立憲は議席を減らしたとはいえ圧倒的な野党第1党だ。政権と対立軸を作り、政治に緊張感を生み出す責任がある。立憲の建設的な議論による代表選や新役員人事、野党共闘の覚悟などが改めて問われている。

 野党で躍進した維新は政権運営や国会審議で新たな構図を作ることになる。

 ただ、自民党幹部が語る。

「41議席という数字はキャスティングボートを握るには十分だが、単独で何かをやれる数ではない。与野党にボールを投げ込んで分断や議論を引き起こし、実利を得る作戦で行くだろう」

 議席を伸ばした国民民主党については「それでもやはり少数野党。とりあえず憲法改正で維新に寄って行った。ただ、支援団体には連合がついているから、維新の新自由主義的な経済政策や行政改革では連携できない。来夏の参院選に向けては、選挙協力など立ち位置は今後もまだ流動的」(立憲ベテラン議員)

 野党は、総選挙を契機に新たな局面を迎える。

すずき・てつお

 1958年生まれ。ジャーナリスト。テレビ西日本、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。豊富な政治家人脈で永田町の舞台裏を描く。テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活躍。近著『戦争を知っている最後の政治家 中曽根康弘の言葉』『石破茂の「頭の中」』

「サンデー毎日11月28日号」表紙
「サンデー毎日11月28日号」表紙

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