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愛子さまが選択を迫られる「皇位継承」議論の行方 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/12=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉

皇居の御所に入る天皇、皇后両陛下と長女愛子さま=2021年9月6日(代表撮影)
皇居の御所に入る天皇、皇后両陛下と長女愛子さま=2021年9月6日(代表撮影)

 天皇ご夫妻の長女、愛子さまが12月1日、20歳となる。主な成年行事は大学の授業を考慮して平日を避け、12月5日(日曜日)に行われるという。折しも、今後の皇室のあり方を議論する政府の有識者会議(座長=清家篤・元慶應義塾長)が、女性皇族が結婚後も皇室に残る案を検討中で、議論の行方は、愛子さまの人生に大きく影響するだろう。

 いま話題になっているのは愛子さまのティアラ(宝冠)である。コロナ禍で人びとの暮らしに影響が出ていることに鑑み、新調を見送った。叔母にあたる黒田清子(さやこ)さん(当時は紀宮(のりのみや)さま)が使ったものを「借りる」形になった。

 関心は、眞子さん(30)と佳子さま(26)との違いに集中している。眞子さん成人の際(2011年)、ティアラを含む宝飾品5点が2856万円で「和光」によって製作された。佳子さまのとき(14年)は2793万円で「ミキモト」だった。これらとの差が比較されているのである。

 女性皇族が成人する際、ティアラが公費(宮廷費)で新調されるようになったのは昔のことではない。01年の三笠宮彬子(あきこ)さま(39)が初めてだ。これは、女性皇族の役割が戦後徐々に増えてきたことと関係する。

 戦後の女性皇族といえば、和子、厚子、貴子の3人の内親王がいる(それぞれ、鷹司(たかつかさ)和子さん(故人)、池田厚子さん、島津貴子さん)。彼女たちは結婚前、公的な団体の役員をしたり、宮中晩餐(ばんさん)会に出たりしたことはない。学業を終えたら結婚することが想定され、実際21歳までに結婚した。

 その後、時代は移り、男女雇用機会均等法も施行された。清子さんは1995年、内親王の初の外国公式訪問としてブラジルを訪れた。女性皇族の公的役割は増大したのだ。 ただ、旧来の流れで、89年に成人した清子さんのティアラは天皇家の私費(内廷費)から支出されていた。独身の女性皇族の公的役割はかつては想定されていなかったためである。ティアラへの注目は、女性皇族の役割をめぐる議論につながっている。

 愛子さまに拒否権あり

 一方、現在、審議が進んでいる有識者会議は2017年成立の退位特例法の付帯決議に基づいている。会議の運営を見ると、小泉政権、野田政権下で行われた議論を踏まえながらも、女系天皇にすぐにつながる議論でない点を強調している。

 民主党の野田政権は2012年10月、女性宮家創設案を軸にした論点整理を公表した。女性宮家を創設し、夫と子を皇籍に入れる案をも提案したのだ。しかし、保守派の反発を受けたうえ、野田内閣自体が年末に退陣し、議論は事実上封印された。

 現在、野田政権下の議論のときより女性皇族は3人減少している。眞子さんらが結婚したためだ。皇室には現在、愛子さまを含め独身の女性皇族が5人いる。だが、結婚して皇室を出る規定から言えば、いずれ皇室には悠仁さま(15)しかいない事態も想定される。

 有識者会議は専門家へのヒアリングを終え、旧宮家の男子を皇族の養子とすることで、その皇籍復帰を可能とする案も提案する見込みだ。遠からず結論が国会に報告されるだろう。

 旧宮家復活案は今回、紙幅の関係があり論じない。もう一つは女性皇族が結婚後も皇室に残る案である。

 例えば20年後、天皇陛下は81歳、秋篠宮さまは76歳、悠仁さまは35歳となる。そのとき、悠仁さまが結婚し、男子を得ていれば、男系継承を維持できる。

 だが、仮に悠仁さまに結婚や男子誕生の見通しが立たず、さらに「愛子内親王家」が子供に恵まれていると仮定する。それは、男子でも女子でも「女系」となる。現段階では、保守派の反対が強く、この女系継承が認められることはないだろう。

 しかし、20年後、危機がさらに深まっていれば、愛子さまの子供に皇位継承権を与える是非、すなわち女系継承の是非を決することができる――。これが有識者会議の基本スタンスの一つである。すなわち、女系継承問題は「先送り」にする案である。その代わり、愛子さまをはじめとする独身女性皇族にとりあえず皇室に残ってもらえる制度を構築しようということだ。

 愛子さま結婚のとき、皇室残留を拒否する権利もあると私は思う。ただし、天皇の娘という立場、皇統の危機という状況から考えると、拒否はしづらいだろう。

 それ以上に、「眞子さま問題」を経たいま、自らのプライバシー権や反論権を犠牲にして、皇室入りする人が男女問わずにいるのかという問題も現実としてある。

 愛子さまが皇室に残るとなれば、相手も限定されるなど婚姻の自由は制限される。皇室から出るとなれば、眞子さんと同様、「私」を優先したと批判されるだろう。残るも出るもハードな決断となる。

 「先送り」案の「先送り」も

 愛子さまの本格的な皇室行事デビューは、1月1日の新年祝賀の儀になる。ティアラを着けた初々しい愛子さまの姿は本当に楽しみだ。公式行事への参加も増えて、その姿を見ることも多くなる。

 来年早々に行われるはずの記者会見で、愛子さまがどんな言葉を述べるのかも注目される。愛子さまの個性や考え方もより伝わってくる。ひとりの女性としての愛子さまには、もちろん「成年おめでとうございます」と心からお祝いしたい。

 ところが、現在の皇室をめぐる状況、とくに人びとが皇室に過剰な公性(おおやけせい)を求める風潮を考えると、素直に、愛子さまの成年を「良かった」とは言えない複雑な気持ちを抱いてしまう。

 有識者会議のヒアリングで作家の綿矢(わたや)りささん(37)は「中学進学ぐらいの時期に、制度の変更を伝えた方が良いと思う。将来どうなるか、結婚するのか、相手はどんな人かなど、興味を持つ時期だから」との趣旨を述べた。制度変更が女性皇族の人生に大きな影響を与えることを指摘したのだ。

 だが、男系維持を主張する議員が多い自民党内の状況を考えると、有識者会議の結論が出ても、議論はさらに先送りされる可能性が高い。先送り案が先送りされるということだ。

 議論が宙ぶらりんのまま、心の準備ができない愛子さまの心情はどのようなものだろう。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史―側室・育児・恋愛』(吉川弘文館)など

「サンデー毎日12月12日号」表紙
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