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「男系」の論理だけで近代皇室は説明できない 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/14=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉

愛子さまは皇居・宮殿で成年行事に臨んだ=12月5日
愛子さまは皇居・宮殿で成年行事に臨んだ=12月5日

 皇嗣の数の減少への対策を議論する政府の有識者会議(座長=清家篤・元慶應義塾長)は12月6日、皇族数の確保策として、A女性皇族が結婚後も皇室に残る案、B戦後に皇籍を離脱した旧宮家の男子が養子縁組して皇籍に復帰する案――の2案を軸とした最終答申骨子案を了承した。年内にも答申が取りまとめられる。

 前々週にA案について論じたので、今回はB案、つまり旧宮家の皇籍復帰案を考えてみたい。B案は、自民党保守派を中心に、男系重視派に支持されているが、近代皇室の革新性を忘れた議論のように私には見える。

 上皇さまの退位の意向を受けて2017年に成立した皇室典範特例法の附帯決議に基づいて、今回の議論が始まっている。当初は、女性宮家の検討が中心かと思われた。 ところが、今年3月に始まった議論は保守派への配慮がにじむ。このたび認められた最終答申骨子案には、旧宮家の男子を「皇統に属する」と位置付けた。保守派は大いに盛り上がっている。

 旧宮家の男子は、伏見宮家に連なる旧11宮家の男系の子孫である。1947年5月の皇室典範施行から同年10月に皇籍離脱するまでの間、11宮家には26人の男子がいた。彼らは、日本国憲法のもとでも皇位継承資格があった。これを根拠にして、旧宮家の子孫を、現皇族の養子という形で皇籍に復帰させるのがB案である。

 女系軽視の議論

 男系重視派は、伝統の重要性を訴える。しかし、男系継承とはすなわち、女系を軽視することであることは確認しておきたい。

 江戸時代後期の光格天皇(在位1780~1817年)は、閑院宮家から即位した。母親は、大江磐代(いわしろ)である。彼女は、もともとは鳥取藩家老の家臣だった父(岩室宗賢(そうけん))を持ち、倉吉の生まれ。町医者となった父に連れられて京都に上り、宮家に奉公する。

 そこで、光格天皇の父、閑院宮典仁(すけひと)親王に見そめられ、「お手付き」となった。一夫一婦多妾(たしょう)制と呼べる仕組みだったから、そうしたことが起こり得る。大江は、側室のひとりであった。大江の母親は、倉吉では「焼き餅屋のおりん」と呼ばれ、地位も身分もはっきりしない。その孫が天皇というわけである。

 光格天皇は男系(父系)で皇統に属する。ただ、女系(母系)系統がよく分からない。それでも即位が可能であったのは、男系継承の原理のためである。逆に言えば、女系はわれなかった。極論すれば、母は誰でもよかったのである。

 明治となり、近代国家を目指したこの国の指導者たちは欧州を範とした。西洋王室には「同等性の原則」と呼ばれるルールがあることも学んだ。一夫一婦は厳正に守られるべき道徳である。そのうえで、たとえば、プロシア王となる人物はライヒス・グラーフ(帝国諸侯)より格下の家格の娘との結婚は認められていない。

 日本人に憲法原理を教えたドイツ人国家学者、ローレンツ・フォン・シュタインは欧州に学びに来た侍従・藤波言忠(ことただ)に次の趣旨を述べた。

「日本の皇室では、皇后のほかに、2、3人の側室がいると聞く。しかし、正統の結婚をもって正しい道とする趣旨にもとる。側室から出た子が皇位を相続できるとすれば、卑しい身分の子が天皇となる事態を防げない」

 一般に、明治の皇室典範(以下、明治典範)は、一夫一婦が厳密に守られない決まりだと考えられている。側室の子(庶出子)の継承を認めたこと、明治天皇にも側室がいたことなどからである。

 たしかに江戸末期生まれの明治天皇は側室という近世の習俗がやめられなかった。現実の皇太子(のちの大正天皇)は側室・柳原愛子(なるこ)の子であった。明治典範は、側室を消極的に容認せざるを得なかった。

 皇室の双系的要素

 しかし、明治典範に「皇族の結婚は、皇族同士、または、特に認められた華族に限る」という趣旨が定められた(第39条)。これは、西洋の「同等性の原則」を移入し、天皇・皇族の結婚に大きなタガをはめた近代的な規則である。

 明治典範制定後、皇室は大きく変わっている。

 江戸時代の天皇の正室は皇族ではない。江戸末期の仁孝天皇(在位1817~46年)の最初の正室は鷹司繋子(つなこ)という公家の娘だった。繋子は結婚して、皇族(当時は皇親)となったわけではない。あくまで鷹司家の人間に留(とど)まる。 ところが、近代皇后は結婚したら皇族となる。当然にして、皇后となる女性の家柄も重要となる。

 大正の貞明皇后は華族最上位(五摂家)の九条家から、昭和の香淳皇后は皇族の久邇宮(くにのみや)家からと、身分の高い女性が選ばれた。「同等性の原則」に沿った選択であった。

 戦後になり、皇室典範は変わり、39条の規定はなくなった。代わりに、男子皇族の結婚は皇室会議の議を経ることになった。皇室会議の半数は民選であり(国会議員4人と首相)、そこで皇后としての資質がチェックされることになった。

 正田美智子さん(現上皇后)、小和田雅子さん(現皇后)は旧華族ではないが、皇室会議では「立派な家柄の出身」と説明された。形を変えてはいるが、皇室との「釣り合い」は意識されている。

 皇后の家柄が重要になるのが近代皇室の特色である。それは、決して男系の論理だけでは説明がつかない。

 男系重視派は伝統にこだわる。しかし、近代以降の新しい伝統の側面を無視している。そこに、B案(旧宮家皇籍復帰案)の隠れた弱点がある。

 男系だけで天皇が決まった江戸時代は、図で言えば、左上からの太いラインだけが重要だった。しかし、すべての祖先の出自を問う近代皇室の論理は、双系的要素が含まれていたのだ。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史―側室・育児・恋愛』(吉川弘文館)など

「サンデー毎日12月26日号」表紙
「サンデー毎日12月26日号」表紙

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