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教養・歴史 アートな時間

舞台 十二月大歌舞伎 ぢいさんばあさん=小玉祥子

尾上菊之助 松竹提供
尾上菊之助 松竹提供

三つの時空をめぐる夫婦の愛情 中村勘九郎と尾上菊之助が共演

 明治の文豪、森鷗外の短編小説を劇作家、宇野信夫が歌舞伎脚本に仕立てた「ぢいさんばあさん」が、東京・歌舞伎座の「十二月大歌舞伎」第二部で上演されている。主人公の美濃部伊織と妻るんを中村勘九郎と尾上菊之助がそれぞれ初役で演じている。

 江戸番町に住む旗本の美濃部伊織と妻るんは仲睦(むつ)まじさが評判の夫婦で子供も生まれ、幸せいっぱいであった。だが伊織はけんかで負傷した義弟の宮重久右衛門に代わり、役目で京都に赴くことになる。その京都の宴席で伊織は嫌われ者の同僚、下嶋甚右衛門を弾みから手にかけてしまう。とがめを受け、越前にお預けの身となっていた伊織は37年後に許されて江戸の家に戻り、大名家に奉公していたるんと再会する。

 1915年に鷗外が発表した小説を宇野が劇化したのは51年。東京と大阪の劇場で同時に異なる配役により初演された。以降は新作歌舞伎では珍しいほどの人気作品となり、現在まで度々上演されている。三幕構成で一幕は美しい若夫婦である伊織とるんの江戸の家での幸せなようす、二幕は京都で伊織が求めた刀を巡って口論となり、甚右衛門を手にかけてしまう顛末(てんまつ)、三幕は一挙に37年後に時間が飛び、年老いた伊織とるんの再会が描かれる。

 宇野は原作に、芝居らしい味付けを施している。原作では伊織と久右衛門が実の兄弟なのを義理の仲とし、一幕で夫婦と久右衛門、甚右衛門との関わりを描写、三幕には原作にはない久右衛門の子の久弥と妻のきくを登場させた。

 菊之助が、初めての老け役となる、るんを演じる決心をしたのは6月に歌舞伎座で上演された「夕顔棚」で菊五郎と市川左団次の演じた老夫婦の姿に感銘を受けたことがきっかけであった。

「こういう情のある夫婦の形っていいなと思いました。父の年代になった時に、ああいう世界観の描ける役者になりたいと思いました。伊織と4年間の夫婦生活を送っただけなのに、るんは待ち続けました。日本人としてこういう心を残していきたいと思いました」と思いを語る。

 勘九郎との共演は2016年4月の東京・明治座での「浮かれ心中」以来だ。「『浮かれ心中』では相談しながら楽しくお芝居を作れました。伊織に会ったら、子供を亡くしたことも伝えなければならないと、るんはその一心で生きてきた人です。再会した時に思いをどれだけ表現できるかが挑戦だと思います」と意欲を見せる。

 甚右衛門が坂東彦三郎、久右衛門が中村歌昇、久弥が尾上右近、きくが中村鶴松の配役。

(小玉祥子・毎日新聞学芸部)

日時 上演中(12月26日(日)まで。8日、20日は休演)

場所 歌舞伎座(東京都中央区銀座4−12−15)

問い合わせ チケットホン松竹 0570−000−489(ナビダイヤル10時〜17時)


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