教養・歴史アートな時間

米デュポン社の環境汚染めぐる裁判。実話をもとに映画化=野島孝一

©2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.
©2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

映画 ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男=野島孝一

環境汚染に独り立ち向かう男 巨大企業との法廷闘争描く

 それは2016年1月の『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された1本の記事から始まった。米国ウェストバージニア州の環境汚染問題で、1人の弁護士が長年、巨大企業を相手に闘い続けてきたという内容だった。これを読んで映画化のプロデューサーに名乗り出たのは「ハルク」シリーズなどの個性的な俳優マーク・ラファロだった。自ら主演して映画化が進められた。

 テフロンについてはよくご存じだろう。フライパンなどにコーティングされている〈夢の化学処理〉だ。鍋が焦げつかないというので世界中で幅広く使われている。そのテフロンは巨大化学企業のデュポン社が製造して同社に莫大(ばくだい)な利益をもたらしてきた。その製造過程で出る廃棄物が土地を汚染し、がん患者を生み出してきたという。

 1998年。オハイオ州シンシナティの法律事務所に勤める弁護士、ロブ・ビロット(マーク・ラファロ)のところに中年の男が訪ねてきた。その男、ウィルバー・テナント(ビル・キャンプ)はウェストバージニア州で農場を経営しているが、デュポン社の廃棄物が原因で、牛が死んでいるという。テナントはデュポン社を訴えたい。だが、巨大企業を相手に争っても容易に勝てるものではない。多忙を理由に断ろうとしたロブだったが、無沙汰している祖母の紹介とあっては、むげに断れず仕方がなくウェストバージニア州パーカーズバーグにあるテナントの農場を訪ねる。

 延々と続く田舎道を走るロブの車。ジョン・デンバーの「テイク・ミー・ホーム カントリー・ロード」の曲が流れてきて、「ああ、これがウェストバージニアの有名な地元ソングだったのか」と気づかせてくれる。だが、そこには廃棄物の汚染で死んだ牛を埋めた塚が累々(るいるい)と広がっており、なおかつ廃棄物の毒で気が狂った牛が襲ってくる。間一髪テナントが牛を撃ち殺す。ロブは腰を据えてデュポン社と法廷闘争をする決意を固める。

 巨大企業と争うということは、想像以上に大変なことだ。地域住民は、雇用などで企業の恩恵を受けており、反抗は許されない雰囲気だ。そのうえ、企業には有力な法律事務所がついており、法的論争は質量ともに反企業側に不利になることが多い。

 ボブは黙々と証拠書類と格闘を始めた。その作業は孤独で、報われることが少ない。巨大企業の資力に比べ、ちっぽけな弁護士がひたすらあらがう姿がリアルに映し出される。そんな彼を支える妻をアン・ハサウェイが演じている。平凡な主婦の役は実に珍しい。この公害裁判は一部でまだ係争中だ。

(野島孝一・映画ジャーナリスト)

監督 トッド・ヘインズ

出演 マーク・ラファロ、アン・ハサウェイ、ティム・ロビンス

2019年 アメリカ

12月17日(金)TOHOシネマズ シャンテほかロードショー


 新型コロナウイルスの影響で、映画や舞台の延期、中止が相次いでいます。本欄はいずれも事前情報に基づくもので、本誌発売時に変更になっている可能性があることをご了承ください。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事