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日本、韓国、タイ舞台に2大スター共演の韓国製ノワール・アクション=寺脇研

©2020 CJ ENM CORPORATION, HIVE MEDIA CORP. ALL RIGHTS RESERVED
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映画 ただ悪より救いたまえ 東京からタイへも舞台を広げる 韓国ノワール・アクション=寺脇研

 フィルム・ノワールとは、フランス語で「暗黒映画」という意味であり、虚無的で悲観的、退廃的な雰囲気を持つ犯罪映画を指して使われてきた。この映画は、宣伝文句にある通り「韓国ノワール・アクション」と呼ぶにふさわしい。

 いきなり、日本家屋の暗い室内が現れ、背中一面に刺青(いれずみ)を入れた男が登場する。演じるのは豊原功補(こうすけ)。そう、舞台は東京なのだ。自宅の階下や庭に多数のボディーガードを配置している構えは、大物ヤクザと覚しい。その男が、ただならぬ気配を感じて配下を呼んでも応答はなく、全滅していた……。そして、闇の中から殺し屋がヌッと姿を出し、またたく間に標的の命を奪う。緊迫感あふれる幕開けだ。

 と、次の場面はどこにでもある町の中華料理店のカウンターだ。さっきの仕事を最後に足を洗う決意をした韓国人の殺し屋は、日本語で「大将、ビール」と注文するなど、すっかり店の雰囲気に溶け込んでいる。この店といい、1人で酔いつぶれる居酒屋といい、外国人がわざわざ東京でロケしているという違和感がまったくなく、韓国映画と日本との距離はずいぶん縮まったものだと感慨深い。

 しかし、話の中身は韓国、タイと、さらに舞台を広げてスケールの大きなものになっていく。このあたりが、今の韓国映画のダイナミックなところなのである。しかも韓国の2大スター競演の作りになっていて、スター特有のオーラを放ちながらの対決劇が繰り広げられるあたり、娯楽性満点だ。

 殺し屋には、大ヒット作「国際市場で逢いましょう」(2014年)などで知られるファン・ジョンミン。殺されたヤクザの兄で復讐の執念を燃やし徹底的に追跡してくる凶暴な殺人鬼には、ハリウッドでもリメークされた名作「イルマーレ」(00年)以来20年以上にわたってトップスターの座にあり、最近でもネットフリックス史上最大の視聴数を記録した「イカゲーム」主演のイ・ジョンジェ。

 その一方で、バンコクの闇社会で行われる臓器目当ての子どもの人身売買の実態を暴く社会性もある。これを初めて取り上げたのは、日本映画「闇の子供たち」(08年、阪本順治監督)だった。あの頃は日本など裕福な国の子どもへの移植のためアジア貧困層の子が犠牲になっていたのに、日本、韓国といった富裕地域の「良質」な子が高額で取引されるという現状変化には複雑な思いがする。

 両雄の間で、性転換目的で韓国からバンコクへ来たトランスジェンダー青年が思わぬ活躍をするのも現在的な仕掛けとなっており、ただの娯楽映画では終わっていない。

(寺脇研・京都芸術大学客員教授)

監督・脚本 ホン・ウォンチャン

出演 ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ、パク・ジョンミン

2020年 韓国

12月24日(金)よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー


 新型コロナウイルスの影響で、映画や舞台の延期、中止が相次いでいます。本欄はいずれも事前情報に基づくもので、本誌発売時に変更になっている可能性があることをご了承ください。

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