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野田元首相が打ち明けた宮内庁長官の「火急案件」 社会学的皇室ウォッチング!/20=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉

野田佳彦元首相
野田佳彦元首相

 皇位の安定継承に関する有識者会議の最終答申が国会に報告されたことを受け、検討の場は各党に移った。自民党は1月24日、検討会の初会合を開いた。会合後、茂木敏充幹事長は「ある程度の時間をかけて検討していく」と述べた。なるべく先延ばししたいという意図がにじんでいる。

 国民民主党は1月25日、日本維新の会は26日に党内検討組織の初会合を開いた。両党幹部の発言は、男系維持に寄っているようにも聞こえる。ただ自民党とは異なり、党の考え方はなるべく早くまとめる方針だ。

 そのなかで注目されるのが、26日に、党内検討委員会(委員長・野田佳彦元首相)の第2回会合を開いた立憲民主党である。内閣府の担当者から最終答申について説明を受けた。議論先送りの雰囲気が強いなか、立憲民主党、とりわけ議論を牽引(けんいん)する野田氏の役割は大きい。

 立憲民主党の会合では、やはり「先送り」が議論になった。そもそも国会附帯決議(2017年)は、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」を検討するように求めていた。男系維持か、女系容認かなど今後の皇位継承問題を考えるように宿題を出したのだ。

 ところが、最終答申は、継承問題の議論は機が熟していないとした。その代わり、皇族数減少に対して、「女性皇族残留案」と「旧宮家復帰案」の2案を提案した。

 男系女系の根本問題を議論すると、まとまらなくなるから先送りしたのだ。それに代わって、皇位継承資格に関わらないという条件で、結婚後の女性皇族と旧宮家の男系男子を、皇族にすることを提案した。「皇位継承問題」を、「皇族数減少問題」にすり替えたわけである。

 愛子さま、佳子さまら若い女性皇族は、この後結婚していくだろう。このため「先延ばし」期間が、長ければ長いほど、男系派(旧宮家復帰案支持派)が有利になる。残留する女性皇族が、どんどんいなくなっていくからだ。

 1月26日の立憲民主党の会合で、内閣府の担当者は「(継承について議論すると)却(かえ)って皇位継承を不安定化させる恐れがあるというのが有識者会議の認識」と繰り返した。

羽毛田信吾・元宮内庁長官
羽毛田信吾・元宮内庁長官

 悠仁さまは「もう高校生」

 こうした答弁に対し、野田氏は、会合で、次のように最終答申を批判した。

「機が熟していないというのは、次世代の皇位継承者が複数いるのならば、成り立つ。けれども、(次世代継承者は悠仁さま)たったお一人しかいない。それも乗っていたワゴン車が車に追突したり、通っている学校に不審者が入ったりということがあった。一人しかいないことに対する危機感が足りなさすぎる」「(悠仁さまは)もう中学生ではなくてもう高校生なんですよ。ガールフレンドができて、ご結婚という話になるかもしれない。けれども、上皇后陛下(美智子さま)とか、皇后陛下(雅子さま)の比ではないプレッシャーですよ、妃殿下になられる方は。皇統が途絶えるかもしれないことを考えると、今しっかりと静かに議論をすることが大事だ」

 ワゴン車の件は2016年、悠仁さまが乗った車が、中央道で渋滞の最後尾の車と衝突した事故を指す。不審者の件は19年、お茶の水女子大学附属中学校で、悠仁さまの机に果物ナイフが置かれた事件である。

 野田氏は首相を務めていた12年に、皇室制度に関する論点整理をまとめた。ねじれ国会のなかで、少なくとも女性宮家創設への道筋までは残しておかなければという思いがあった。

 その前年(11年)10月5日、宮内庁の羽毛田信吾長官(当時)が密(ひそ)かに首相官邸を訪れた。「火急の案件」として女性宮家の創設を求めたのである。ちょうど眞子さま(現・小室眞子さん)が成年を迎える年だった。

 当時のことについて、私は今回、野田氏に直接取材した(1月24日)。野田氏によれば、「淡々とした表現のなかにも危機感を強く感じるものがありました。これは放ってはおけないという気持ちになりました」と振り返る。

 ただ、男系か女系かという根本議論を脇に置き、当面の継承とは関係ない女性宮家創設に焦点を絞ったことは、当時の保守層から「先送りではないか」と批判された。

 この点について、野田氏は「(ねじれ国会の)限られたなかで、理解を得ていくためにはまず、皇族方の減少というテーマを扱って、次につなげることが自分の使命かなと思いました。あれから10年経(た)って、絞るというやり方は違うと今は思っているんですけどね」と率直に述べてくれた。

 あの時、民主党は当面の皇位継承を先送りにして、女性宮家創設を目指した。いま自民党はやはり当面の皇位継承を先送りにして、旧宮家の復帰を目指している。政治は皮肉である。

 今回の有識者会議が置かれた昨年、10年前に20歳になった眞子さまは皇室から旅立ち、そして今度は愛子さまが20歳になった。

 立法府主導の「成功」体験

 皇位継承は、歴史と伝統によって決すべきで、世論や立法府が関わるべきではないと考える人がいる。西洋においても、君主が絶対的な力を持っていた過去にそうした理念があった。

 だが、民主化された現代は異なる。例えば、オランダでは、継承者がいない王が亡くなった場合、議会が解散され、新議会により王が指名される(同国憲法第30条)。

 平成の天皇(現・上皇さま)が退位した皇室典範特例法は17年にほぼ与野党で一致して成立した。その「成功」の体験が野田氏にはある。立法府を軽視しがちであった当時の「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を牽制して、衆参両院は与野党が協力して意見を集約し、特例法をまとめた。

 天皇の地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。総意を形成する場である国会が矜持(きょうじ)を示した形だ。

 野田氏は「総意」の形成のためには、男系維持の意見を排除しない考えだという。 有識者会議ではなく、国会こそが議論をすべき場であるのは、野田氏の主張するとおりだと思う。

 皇位継承問題を政争に使用するのは好ましくない。ただ、議論は、静謐(せいひつ)な環境で行う必要は必ずしもない。侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論こそが必要ではないか。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史―側室・育児・恋愛』(吉川弘文館)など

「サンデー毎日2月13日号」表紙
「サンデー毎日2月13日号」表紙

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