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巨大噴火リスクに備えよ 世界の活火山の7%が集中する火山国・日本 京都大名誉教授・鎌田浩毅〈サンデー毎日〉

噴火した海底火山を調査するトンガの当局者=トンガ政府機関(TONGA GEOLOGICAL SERVICES)のフェイスブックから
噴火した海底火山を調査するトンガの当局者=トンガ政府機関(TONGA GEOLOGICAL SERVICES)のフェイスブックから

 南太平洋のトンガで起きた海底火山の大規模噴火によって、日本列島にも津波が押し寄せた。噴火による大災害は世界有数の火山国・日本にとっても対岸の火事ではない。本誌おなじみの地球科学者、鎌田浩毅氏に「大地動乱の時代」の火山噴火について寄稿してもらった。

 日本時間の1月15日午後1時ごろ、南太平洋の火山島トンガ付近にあるフンガトンガ・フンガハーパイ海底火山で大規模な噴火が発生しました。降灰と津波によって住宅が壊滅し、これまで3人が死亡し14人がけがをしています。現在、噴火は小康状態ですが、過去100年で最大級の噴火が起きたのです。本稿では、私が専門とする火山学の観点から、噴火の現況と今後の予測について解説します。

 トンガは南北約800㌔に広がる169の島々からなる島嶼(とうしょ)国です。国内に住む人は10万5000人超ですが、ニュージーランドや米国などに居住するほぼ同数の国民による送金が経済を支えています。

 被害の大きかった離島では物流が止まり、飲み水や食料が不足しました。今回の噴火地点から約65㌔離れた首都ヌクアロファでは厚さ2㌢の火山灰が降り積もり、飲料水が汚染されるなどの被害が出ています。トンガ政府は全人口の8割が被災したと発表しています。

 太平洋全域で被害

 さらに太平洋全域の島々や沿岸部では、潮位の上昇が観測されました。南太平洋のバヌアツで141㌢、南米のチリで174㌢、米国カリフォルニア州で131㌢の津波が記録されました。ペルーでは高波によって製油所に荷降ろし中のタンカーから6000バレルの原油が流出し、浜辺が広範囲に汚染されています。

 この津波は約8000㌔離れた日本にも到達し、鹿児島県奄美市で1・2㍍、岩手県久慈市で1・1㍍を観測し、漁船が転覆するなどの被害が出ました。気象庁は一時、鹿児島県の奄美群島・トカラ列島と岩手県に津波警報を発令し、計8県の約11万世帯、約23万人に避難指示が出されました。

 今回の噴火は、大量の火山灰や軽石を数十キロ上空まで噴き上げる「プリニー式噴火」と呼ばれるタイプです。昨年12月に噴火が始まり休眠状態であると伝えられた後、大噴火の前日にも噴火が起きています。この時にマグマが通る「火道(かどう)」が一気に広がり、マグマの中に数パーセントほど含まれている水分が気化しました。この時、体積が数百倍に膨張したことで大噴火が起きたと考えられます(鎌田浩毅『火山噴火』岩波新書を参照)。

 噴火の特徴

 今回の噴火では海域火山(海底火山と火山島)の特徴が見られました。噴火の際に海水が高温のマグマと接触して一気に水蒸気になり、陸上で起きる同規模の噴火より大きな噴煙が立ち上ります。また、噴煙が高速で横方向に拡大した原因は、海水と次々に接触し爆発が連鎖した影響と考えられます。たとえば、陸上にあるピナツボ火山の噴火では噴煙が半径200㌔を超えるのに2時間かかりましたが、今回はわずか40分で超えました。

 また、日本には過去に例のない津波が到達しました。実は、これまで海外の火山噴火によって日本で津波が観測された例はありません。11年前の東日本大震災で起きたような通常の津波と全く異なるのです。

 一般に、海域の巨大地震の発生では、海底が持ち上がることによって水面が盛り上がり、それが大きな波となって陸地を襲います。東日本大震災と約10年後に起きると予想される南海トラフ巨大地震は、こうしたメカニズムで起きるのです。

 ところが、今回の津波は海底噴火に伴う空気の振動、すなわち「空振」によって波が発生しました。これが遠く離れた日本列島まで達した結果、通常の津波から想定される時間より3時間も早く日本に達するという極めて珍しい現象が起きました。

 海底にカルデラ陥没地

 噴火が起きたトンガの海底火山には、陸上部に火山島がありました。ここ20年ほど噴火を繰り返してきましたが、今回の噴火はそれらを超える大規模なものでした。2014~15年にはマグマが噴出し、フンガトンガとフンガハーパイを結ぶ長さ5㌔の火山島が形成されました。

 その後、海面下に「カルデラ」と呼ばれる直径5㌔の大きな陥没地形が見つかりました。カルデラとは大鍋を意味するスペイン語で、大量のマグマが噴出した後にできるのです。つまり、高さ約1・8㌔、幅約20㌔の巨大な海底火山が噴火したのです。ここでは大規模な噴火が約1000年おきに発生しており、最新のカルデラ噴火は1100年に起きています。ちなみに、今回の噴火で火山島の大部分は失われて海中に没しました。

気象衛星「ひまわり」が観測したトンガ海底火山の噴煙=気象庁のウェブサイトより
気象衛星「ひまわり」が観測したトンガ海底火山の噴煙=気象庁のウェブサイトより

 気温低下の可能性

 今回の噴火は100年に数回あるかどうかという規模の大噴火でした。数立方キロから10立方㌔くらいの噴出物が出たので、火山噴火の爆発規模を表す「火山爆発指数(VEI)」では5~6になります。これは0から8までの9段階からなる世界共通の指標で、1増えると噴出物の量は10倍になるというものです。

 これは1991年に発生し20世紀最大の噴火と言われるフィリピン・ピナツボ火山の大噴火(VEIの6)に匹敵し、福徳岡ノ場の海底噴火より1桁以上多い噴出物が出たと推定されます。大噴火が起きると、その後数年にわたる寒冷化を引き起こす恐れがあるのです。

 ピナツボ火山の噴火では成層圏に撒(ま)き散らされたエアロゾル(空気中を漂う微粒子)によって太陽の光が遮られ、北半球の平均気温を0・5度も押し下げました。この結果、2年後の日本では記録的な冷夏によって米の収穫量が3割ほど減少し、タイ米を緊急輸入する事態にまで発展しました。

 今回の噴火も同じく大量の火山灰を噴出したのですが、気温を低下させる作用の大きな二酸化硫黄の量はピナツボ噴火の40分の1程度にとどまりました。よって、寒冷化を起こすかどうかは、今後の推移を見守る必要があります。

 広範囲に「変色水」

 もう一つ、今回は海底噴火でよく見られる「変色水」が広い海域で観察されました。これは海中に熱水や火山ガスが大量に放出されると海面の色が変わる現象で、火山のリアルタイムの状況を知ることができます。実は、海底火山は陸上火山と比べると地震計や傾斜計の設置が難しいのです。したがって、活動状況を把握する唯一の手がかりと言っても過言ではない重要な情報です。

 大規模な噴火から5日後に、東西約300㌔の海域が黄緑色に変色していることが発見されました。関東平野がすっぽり入るほどの大きさですが、このような広範囲で変色水が観察された例はなく、大噴火の後も引き続いて海底火口から大量の熱水が噴出していることを示しています。

 再び噴火する可能性は否定できず、トンガの住民が災害に巻き込まれるだけでなく航空機や船舶の運航にも影響が出るため、今後も火山活動と周辺地域の気象状況を監視し、厳重に警戒する必要があります。

 プレート運動と火山噴火

 ここでトンガ周辺の地学について解説しておきましょう。ここは南太平洋でも火山が密集しているエリアです。具体的には、ニュージーランドの北東からケルマディック諸島をへてトンガ諸島へと連なる火山列の中に、今回の海底火山が含まれています。

 地下深部では太平洋プレートと呼ばれる厚い岩板(プレート)がオーストラリアプレートの下に潜り込んでいます。「プレートテクトニクス」と呼ばれる汎(はん)地球的な地学現象ですが、プレートはさらに下にあるマントルまで潜っていきます。

 この時プレートの中に含まれていた水が分離して、周囲のマントルを溶かします。これによってトンガの地下では何百万年にもわたって大量のマグマが作り出されてきたのです。

 その後マグマは海底に噴出し、爆発的な噴火を起こすのです。こうした状況は日本列島の周辺にある海域火山でも同じです。日本列島では太平洋プレートがフィリピン海プレートに潜り込んだ結果、西之島新島や福徳岡ノ場などの海域火山を生み出しました。

 なお、今回のトンガ噴火が富士山など日本の火山に連動するかと質問を受けることがありますが、そうしたことは全くありません。個々の火山は地下に異なるマグマだまりが存在し、それぞれ独立に活動しています。

 簡単に言うと30㌔ほど離れた火山はそれぞれの時間サイクルで噴火するので、たとえ同時に噴火が見られたとしても偶然の現象なのです。たとえば、1991年6月には先のフィリピン・ピナツボ火山と長崎県の雲仙普賢岳が同時期に噴火しましたが、全く偶然に起きた自然現象です。

富士山の噴火で首都圏の機能マヒも懸念される
富士山の噴火で首都圏の機能マヒも懸念される

 活火山の3割は海底火山

 海底噴火は日本近海でも十分に起こりえます。日本には過去1万年以内に噴火した火山が111個あり、気象庁によって「活火山」と定義されています。そもそも日本は地球上に存在する活火山の7%も密集する世界屈指の火山国です。また四方を海に囲まれているため活火山の3分の1が伊豆・小笠原諸島や南西諸島など海域に点在しています。具体的には陸域に77個、海域に34個もあります。

 よって、大規模な海底噴火が今後、日本周辺の海底火山で起きる可能性は少なからずあります。場所によっては大災害になるケースがあるのです。

 地学には「過去は未来を解く鍵」という考え方があります。過去の例を見ると、今から7300年前に九州南方の海域で巨大噴火が起きました。鹿児島県・薩摩硫黄島の周辺で起きたカルデラ噴火ですが、巨大津波が発生し現在の大分県と高知県、さらに三重県にまで到達したのです。

 この噴火では幸屋(こうや)火砕流と呼ばれる高温の火砕流が、時速100㌔近くで海を渡って南九州を襲い、当時そこで暮らしていた縄文人を絶滅させてしまいました(鎌田浩毅『地学ノススメ』ブルーバックスを参照)。

 同時に、海中から巨大な噴煙が海面を突き破って20㌔の高さに達しました。噴出した火山灰は上空を吹く偏西風に乗って、遠く東北地方にまで降り積もりました。すなわち、日本列島のほぼ全域が火山灰に覆われたわけです。

 こうしたカルデラ噴火は日本列島では1万年に1回ほどの割合で起きています。噴火の時期を特定することは現在の火山学でもできませんが、過去にはしばしば巨大噴火に見舞われてきたことは覚えておいていただきたいと思います。

 今後の噴火予測

 トンガの噴火はまだ収まっておらず、現在は小康状態にあります。今後、大量のマグマが噴出し、海底でカルデラを形成する可能性はゼロではありません。実は、噴火が大きくなるか小さくなるかは火山学者も予測できません。近い将来、もし「カルデラ噴火」が起きると、さらに大きな津波を起こす恐れがあります。

 カルデラ噴火はマグマが連続的に噴出して巨大噴火となったもので、「破局噴火」とも呼ばれます。噴火の衝撃は大地をえぐり地形を大きく変えてしまうほどの威力があり、海底で発生すると大津波を引き起こします。

 火山が引き起こす津波

 過去の例を見てみましょう。1883年、インドネシア・クラカタウ火山で大量のマグマが噴出し、火山性の津波が発生しました。地下ではカルデラが形成され、津波は太平洋の対岸にあるコロンビアとの間を数回にわたり行き来しました。

 日本でも1792年に雲仙普賢岳の麓にある眉山が大崩落し、大量の岩石が有明海に流れ込みました。これらは海水を急激に押し出し大津波となり、対岸の熊本を襲ったのです。1万5000人もの犠牲者を出した「島原大変、肥後迷惑」と記録される津波災害です。さらに近年では2018年にクラカタウ火山の噴火に伴う津波によって400人以上が亡くなりました。

 活火山の噴火予知

 トンガのように海底火山の噴火予知には大きな困難が伴います。一方、富士山のように陸上ならば、さまざまな計器を用いた観測によって異常を事前に察知できます。

 富士山の周辺には何十カ所も観測機器が張り巡らされており、24時間態勢で監視されています。おそらく噴火前1カ月から数週間前には、何らかの前兆が出ると予測されます。

 日本の火山学は世界的水準にあり、地震と比べると噴火予知は実用段階に近づいています。具体的には、我が国では50個の活火山が「常時観測火山」に指定され、異変を察知すれば直ちに報道機関やネットで発表されます。それによって地域住民に事前の避難をうながし、被害を最小限に防ぐことに努めています。

京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏
京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏

 「想定外」を恐れない

 火山噴火ではまだ経験したことがない現象が起き、人間と関わる場所で自然災害となります。

 そもそも我々が知っている災害が起きるとは限らないのです。すなわち、「想定外」が起きることが当たり前で、何が起きても臨機応変に対応することが重要です。11年前の東日本大震災以来、日本列島は「大地変動の時代」に入り、地震や噴火が頻発しています。こうした変動は2030年代の発生が予測される南海トラフ巨大地震に向けて、ますます増えると予想されます。

 自然災害では「不意打ちを食らわないこと」が大切で、そのためには平時から備えるしかありません。そしてゼロリスクを求めることは不可能ですが、「減災」はできます。よって「防災完璧主義」に陥らないようにして、できるところから一人ひとりが柔軟な姿勢で準備を始めていただきたいと願っています。

かまた・ひろき

 1955年生まれ。地球科学者。東京大理学部卒業。2021年4月より京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。理学博士

「サンデー毎日2月13日号」表紙
「サンデー毎日2月13日号」表紙

 2月1日発売の「サンデー毎日2月13日号」には、他にも「プロ野球キャンプイン 新庄剛志・日本ハム監督『そうですね』禁止令の〝なぜ〟」「大河ドラマ『鎌倉殿の13人』最注目! いざ鎌倉!で泊まる旅のススメ」などの記事も掲載しています。

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