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いき過ぎた「臆測報道」 悠仁さまの選択は自由である 社会学的皇室ウォッチング!/21=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉

悠仁さまと秋篠宮さま(宮内庁提供)
悠仁さまと秋篠宮さま(宮内庁提供)

 悠仁さまの進学先について、臆測報道が止(や)まない。そもそも、15歳の少年がどのような進学先を選ぼうが自由なはずだ。宮内庁皇嗣職の加地隆治(かちたかはる)大夫(だいぶ)は1月24日、「受験期を迎えている未成年者の進学のことを、臆測に基づいて毎週のように報道するのは、メディアの姿勢として如何(いかが)なものか」との文書を発した。

 悠仁さまが通うお茶の水女子大附属は、中学までは共学だが、高校は女子校。だから他校に進学せざるを得ない。このため、週刊誌やネットニュースで、筑波大附属高校への進学が推測されているのだ。

 筑波大附属にはお茶の水女子大附属と提携校進学制度があり、両校は相互に内部生に準じて進学できる。筑波大附属は東大進学者も多く、秋篠宮夫妻は、悠仁さまが東大農学部へ進むことを望んでいるとまで臆測される。

 愛子さまの大学進学の際にも、国際系の学問を学ぶとか、東大進学も視野に入れているなど多くの報道がなされたが、誤報であった。「ご進学報道」のほとんどは推測にすぎない。

 人がどのようなことを学ぶのかは、その人の心の内面に関わる最も重要な精神の自由の一部である。皇位継承権第2位の悠仁さまは、職業選択の自由も、居住移転の自由もなく、信教、思想、言論、結社などの自由も大幅に制限される。婚姻の自由の範囲も、皇室会議の議を経る分、姉の眞子さんよりさらに狭くなる。

 せめて好きなことを勉強し、好きな学校に進む環境を整えてあげたい――。悠仁さまは中学進学前、ある私学を見学に行ったと伝えられる。両親殿下が、本人の気持ち、学びたいことを尊重し、その環境を整えようとするのは世の親と同様に当然のことだ。

 帝王教育は必要なし

 しかし、世間は逆のようだ。「悠仁さまは将来、天皇になられるお方。ですが、筑附(筑波大附属)のような進学校では、日ごろの勉強に割かれる時間も多くなるでしょう。東大を目指すとなれば尚更(なおさら)です。そうなれば、天皇になるための〝帝王教育〟にまで手が回らなくなるのでは」(宮内庁関係者、『週刊文春』1月27日号)と書かれる。

 戦前の教育勅語には、「公共の利益と社会の為になることを第一に考えるような人間にならなくちゃなりません」「戦争が起こったりしたら、勇気を持ち、公のために奉仕してください」とあった(高橋源一郎氏の口語訳)。国民は等しく、公に尽くすことが求められたのである。

 いま教育勅語は失効し、教育基本法では、「公共の精神」とともに「個人の尊厳」が重視されている。

 帝王教育とは、天皇となる人間に対し、個人の尊厳よりも公共の精神を全面的に優先すべきことを強いる教育のことだ。そもそも、帝王教育は実質的であるよりも、象徴的なものである。帝王教育を受けた天皇だから、常に無私であるはずだという期待を担保するための装置である。

 理想の君主と描かれるような明治天皇や昭和天皇でさえ、ときに、自分の利益やプライバシーを優先させていたことは、歴史をつぶさに見れば容易に観察できる。ましてや、皇族のさまざまな情報がインターネットを通じて晒(さら)されてしまう現代社会において、100%無私である皇族を演出することは不可能である。

 そうであるならば、将来の天皇にとって、重要なのは無私よりも、個性であると私は思う。この国の人たちが多様であるのと同様、自分だけの個性を磨くべきなのだ。帝王教育は現代においてまったく必要ない。

 学習院に進むべきだという声もあるが理解できない。「(学習院の)現在の一部の生徒にも、皇室をお守りする〝藩屏(はんぺい)〟としての意識が受け継がれている。悠仁さまにはそうした環境で生涯のご学友やお妃候補と巡り合って頂きたい」(皇室ジャーナリスト、『週刊新潮』1月20日号)と書かれる。

 かつての学習院は宮内省管轄下にあったが、いまは学校法人化し、普通の学校と変わりはない。学習院に通えば「理想のお妃」と出会えると本気で想像する人がいるとしたら妄想がすぎる。

「皇族男女は、学習院または女子学習院において就学せしむ」とあった戦前の皇族就学令も廃止された。いまも学習院に通う皇族が多いのは、受け入れに慣れているという理由にすぎない。

 悠仁さまが学習院に進まなければならない理由は見当たらない。いま話題の広域通信制課程、角川ドワンゴ学園のN高校に進学してもいいのだ。その方が、多様性を重視する現代の若者らしい。

 「皇室特権」と非難する誹謗

 筑波大附属への進学は、書類審査と面接だけの「裏ルート」であり、「厄介な筆記試験を〝スルー〟して合格切符を手にできる」(お茶の水関係者、『女性セブン』2月3日号)などの批判もある。提携校進学制度は、紀子さまが主導して設けられ、その利用は「皇室特権」だとも書かれている。

 しかし、この制度は、両校が多様な生徒を確保するために試験的に設けられたもので、悠仁さまのためのものではまったくない。仮に、悠仁さまが制度を使って筑波大附属を希望したとしても、他の生徒と同じ土俵で審査される。「皇室特権でそれが曲げられた」と主張するなら、そのことを裏付ける根拠を示して報道すべきだ。

『女性セブン』はさらに、悠仁さまが、実際に筑波大附属の一般入試を受験していたら、「結果はどうなっていたかはわからない」とまで筆を進める。

 眞子さんの結婚が正式に発表された昨年10月、加地大夫は、眞子さんが「中学生の頃から誹謗(ひぼう)中傷に精神的負担を感じていた」と述べた。多感な時期に、皇室に対する誹謗が精神的トラウマになったとの説明であった。

 悠仁さまも同様な環境にある。自身の進学について、根拠のない臆測がまるで真実のように拡散されるのを目にする悠仁さまの心は、どれほど傷ついているだろう。

 報道や批評の自由はある。しかし、悠仁さまは未成年だ。一般に私たちは、子供たちの意見を尊重し、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない(児童福祉法第2条)。悠仁さまもその精神のもと、成長を静かな環境のなかで見守らなければならないのは、むしろ当然のことだ。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史―側室・育児・恋愛』(吉川弘文館)など

「サンデー毎日2月20日号」表紙
「サンデー毎日2月20日号」表紙

 2月8日発売の「サンデー毎日2月20日号」には、他にも「翼賛化か自然死か岐路に立つ連合」「オンライン診療これだけは知っておきたい」「石原慎太郎という『時代精神』 特別寄稿・福田和也」などの記事も掲載しています。

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