新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

経済・企業

テスラ雪中行軍記(上)最新EVは厳冬・猛吹雪の長野・新潟をノントラブルで走破できるのか?

テスラのEVは真冬の長野・新潟を走破できるのか?(長野県白馬村の長野五輪スキージャンプ台)
テスラのEVは真冬の長野・新潟を走破できるのか?(長野県白馬村の長野五輪スキージャンプ台)

 米電気自動車(EV)メーカー、テスラの車を借り、真冬の長野・新潟に泊まり掛けで出かけてみた。今年1月18日号でEVの特集をしたが、「EVは寒さに弱く、冬場は実用的ではない」というネット上の論争の真偽を確かめたかったからだ。「テスラ 冬 弱い」をキーワードにネットで検索すると関連記事がたくさんヒットする。スキー場でスマホを使うと、あっという間に電池が無くなり、写真が取れなくなったり、電子マネーで決済ができなくなったりする。それと似たような不便さを、電池の塊であるEVも消費者に強いるのだろうか?

「モデル3」でスキーのメッカ、白馬村から日本海、妙高高原をまわる

 今回の検証では、2月5日(土)、6日(日)の2日間、テスラの人気車種「モデル3」で東京から長野県と新潟県を走破した。スキーのメッカ、長野県白馬村に一泊後、日本海側の新潟県糸魚川市に抜け、そこから、北陸道、上信越道を経由し、妙高高原を縦断、東京に戻るコースだ。総走行距離は821㌔である。

航続距離は614㌔㍍、大容量リチウムイオン電池を搭載

 テスラ・ジャパンから拝借したモデル3は同社のエントリーモデルだ。走行距離や加速性能が違う3グレードがあるが、今回、試乗したのは中間グレードの「ロングレンジ」。駆動用モーターを前後に搭載した4輪駆動車で、航続距離は欧州WLTPW表示で614㌔㍍(国交省のWLTC表示で689㌔㍍)と3グレードの中で最も長い。価格は564万円だ。製造はテスラの上海工場で、リチウムイオン電池を搭載する。バッテリー容量は78㌔㍗時。借り出した時点の総走行距離は1000㌔ちょっと。スタッドレスタイヤは、新品の横浜ゴムのice GUARDを履いていた。

山梨県甲府の「スーパーチャージャー」で1回目充電

 試乗初日は、2月5日(土)の朝6時40分に東京・台場を出発し、首都高中央環状線、中央道、長野道を経て、宿泊地の長野県白馬村に向かった。出発時の距離計は40㌔、航続可能距離は422㌔と表示されていた。

 EVを運転する際には、事前に充電場所を、頭に入れておく必要がある。テスラは専用充電施設「スーパーチャージャー」を日本国内に44か所設置している。充電器の最大出力は75~250㌔㍗と、日本発のCHAdeMO(チャデモ)規格の10~90㌔㍗より高く、効率的に充電できるのが特徴だ。長野県内には、長野IC(インターチェンジ)近くのダイワロイヤルホテル長野の駐車場にスーパーチャージャーがある。東京・台場からの距離は250㌔ほどで、表示された航続可能距離を信じれば、そのまま直行できるが、「EVは充電量に余裕を持って走行すべき」との情報をネットで得ていたため、山梨県の甲府昭和ICの近くのノジマ電機にあるスーパーチャージャーで充電することにした。

中央道甲府昭和IC近くのノジマ電機にはテスラの充電施設がある
中央道甲府昭和IC近くのノジマ電機にはテスラの充電施設がある

0~100㍍加速はメルセデス、ポルシェと同じ4.4秒

 首都高、中央道とも渋滞はなく、快調に走る。山梨県の甲府昭和ICで降り、ICからすぐのノジマ電機の駐車場に8時37分に到着した。距離計は40㌔→182㌔に。一方、航続可能距離は422㌔→234㌔に減っていた。実際の走行距離(142㌔)より、航続距離の減り(188㌔)の方が大きい。ここまで、特に、電力消費(電費)を意識しない運転をした。高速での加速は段付きのない非常にスムーズなものだった。テスラによると、試乗車の最高速は233㌔㍍、0~100㌔の加速は4.4秒。加速の4.4秒は、メルセデスAMG E53やポルシェ・パナメーラ4Sと同じだ。十分に速いのではないだろうか。

ドアミラー、ハンドル位置、ワイパー、エアコン操作は全部液晶画面で

 ここで、テスラ独特の運転方法について説明したい。まず、車のカギは自分のスマホにダウンロードしたアプリになる。このスマホを持って、車に近づけば、開錠できる。車から離れると施錠される。車内に乗り込むと、運転席側にいわゆる速度計、タコメーターは無く、運転席と助手席の真ん中に15インチの液晶モニターが付いているだけ。この画面の右上に速度が、画面の左半分にナビ画面が表示される。ドアミラー、ハンドルの位置調整、ワイパー、エアコンの操作も、全て液晶画面で行う。

ハンドルの前にメーター類は何もついていない
ハンドルの前にメーター類は何もついていない

 一見、不便に見えるが、これらの操作は、画面右下の車マークのアイコンをタッチすると、画面左側に、操作項目の一覧が表示され、迷うことなく操作できる。

 ハンドルには、左と右にスクロールボタンがあり、左側でドアミラー、ハンドルの位置、オーディオの音量などを操作する。右側は、自動運転の速度調整などに使う。

中央の15インチの液晶画面で、ほとんどすべての操作をする
中央の15インチの液晶画面で、ほとんどすべての操作をする

ケーブルを近づけ、ボタンを押して充電開始

 発進するには、ブレーキを踏みこみ、ハンドル右側のレバーを一回、下に押し込み、アクセルを踏む。後退するには、レバーを上に押す。駐車ブレーキを掛けるには、レバー先端のボタンを押す。ハンドル左側のレバーは、方向指示器のほかライトの操作、また、レバー先端のボタンでワイパーを作動させる。ベンツなどの欧州車が、ハンドル周りのレバーが3~4本もあるのに比べると、非常にシンプルな操作系だ。

 甲府昭和のノジマ電機は開店前だったが、スーパーチャージャーの駐車スペースは開放されており、問題なく駐車できた。充電方法も簡単だ。充電器から充電ケーブルを取り出し、ケーブル先端を車の充電口に近づけ、ケーブル先端の握り部分のボタンを押すと、充電口が開くので、差し込むだけだ。

45分間の充電で航続可能距離は234㌔→541㌔に回復

 充電を開始すると、充電口のLEDの表示が白から青の点滅表示に変わる。それが緑色になれば、充電開始だ。すぐ近くにマクドナルドがあり、ここで、コーヒー休憩をした。休憩中に、スマホに、「あと20分で満充電」というようなメッセージが送られてきて、充電状況が分かる。車に戻り、ケーブルの握り部分のボタンを押して充電を切り上げる。9時22分にノジマ電機を出発、45分間の充電で航続可能距離は234㌔→541㌔まで回復した。

 甲府昭和ICから再び、中央道に乗り山梨県から長野県に。途中、諏訪南ICで降り、地元の菓子店や野菜直売所に寄り道。その先の諏訪ICから再び中央道に乗り、長野IC近くのダイワロイヤルホテル長野に13時36分に到着した。走行距離は182㌔→373㌔、航続可能距離は541㌔→284㌔に減っていた。コーヒー休憩をはさみ、14時22分に出発。46分の充電で航続可能距離は551㌔に回復した。

長野IC近くのダイワロイヤルホテルの駐車場内のスーパーチャージャー
長野IC近くのダイワロイヤルホテルの駐車場内のスーパーチャージャー
ケーブル先端を車の充電口に近づけ、ボタンを押すと充電口が開くので差し込むだけ(ダイワロイヤルホテル長野にて)
ケーブル先端を車の充電口に近づけ、ボタンを押すと充電口が開くので差し込むだけ(ダイワロイヤルホテル長野にて)

EVの「回生ブレーキ」と応答速度の速さが雪道の武器に

 ここからは、国道31号、33号を使い、白馬村を目指す。途中まで路上はきれいに除雪され、雪上走行は体験できないのではないかと危惧したが、白馬村に近づくと状況は一変。白銀の世界となった。雪が降り、路面は凍っていたが、モデル3は全く、不安げがなく走った。スリップしてあらぬ方向に行くような気配は一向にない。

白馬村に入ると白銀の世界に。凍結した路面の上に新雪が降り、状況は厳しい
白馬村に入ると白銀の世界に。凍結した路面の上に新雪が降り、状況は厳しい

 ここで、EVの特色が遺憾なく発揮された。というのは、EVには「回生ブレーキ」の機能があるからだ。これはアクセルから足を離すと、車の駆動用モーターが「発電機」に早変わりし、発電による抵抗で車が減速するというもの。エンジン車のように雪上・氷上でブレーキを踏んで、タイヤがロックしてしまい、ブレーキが利かなくなるような場面は今回、経験しなかった。

 EVはエンジン車に比べ、アクセルに対する応答速度が速いのも特徴だ。エンジン車が100ミリ秒(0.1秒)に対し、EVは1ミリ秒(0.001秒)と言われる。微妙なトルク・速度調整を自在にできる。実際に、モデル3は人間が反応できないところは、コンピューターが補っており、4輪のトルク配分を瞬時に変えているという。そのためか、車が予測不能な挙動を示すことはなく、運転席は平穏無事だった。雪道は特に下り坂が怖いが、ここでも、アクセルを戻せば減速するので、不安は感じなかった。

除雪されていない道では、最低地上高が足りない場面も

 白馬村のホテルには、15時32分に到着。距離計は373㌔→421㌔、航続可能距離は551㌔→483㌔となっていた。白馬の気温はマイナス6度。ホテルチェックイン後、せっかくの大雪なので、ホテル周辺を5㌔ほど走った。やわらかい新雪でもタイヤのグリップ力は高い。ただ、モデル3の最低地上高は140㍉で、200㍉前後あるSUV(スポーツ用多目的車)と比べると低いため、除雪されていない脇道に入った時はスタックするのを恐れ、バックで引き返した場面もあった。

白馬村で30分も駐車すると、こんな状態に
白馬村で30分も駐車すると、こんな状態に

ワイパーを立たせられない!

 夜は駐車に当たり、ワイパーが凍らないように立たせたかったが、ボンネットの奥に引っ込みうまくできない。後で聞いたところ、メンテナンスモードにすれば、できるそうだ。だが、当日は知る由もないので、ワイパーが窓に貼り付かないことを祈るしかない。雪は夜に入っても、一向に降り止む様子がない。果たして、明朝にモデル3は無事、再始動できるのだろうか。期待と不安が入り混じった一夜をホテルで過ごすことになる。

(稲留正英・編集部)

((下)に続く)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

11月26日号

データセンター、半導体、脱炭素 電力インフラ大投資18 ルポ “データセンター銀座”千葉・印西 「発熱し続ける巨大な箱」林立■中西拓司21 インタビュー 江崎浩 東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本データセンター協会副理事長 データセンターの電源確保「北海道、九州への分散のため地産地消の再エネ [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事